2022年5月に日本の改正宅地建物取引業法(宅建業法)が施行され、オンラインで不動産取引を完結させることが可能になるという動きがありました。この法改正により、これまでの不動産取引のように、不動産を探す人が仲介業者の店舗に足を運び、物件を探してもらい、気に入った物件を見つけたら、最終的に契約・決済するために再度店舗を訪れるという一連の流れが、オンライン上で完結できるようになりました。
こうした不動産取引のデジタル化が一段と進んでいるのがアメリカです。住宅流通市場における中古住宅の割合が8割を超えるアメリカでは(注1)、早くも2000年代から中古住宅仲介のオンラインマーケットプレイス関連サービスが続々と生まれ、現在レッドオーシャンと化しています。こうした中で不動産テック企業は、テクノロジー活用による業務効率化で仲介手数料を引き下げたり、オフラインのサービスを組み合わせて付加価値を提供することに活路を見出しています。
今回ご紹介するのは、個人住宅のC2Cオンラインマーケットプレイスを展開するAalto, Inc.(アールト)です。Aaltoは住宅の売主が不動産売却にかける手間と時間をはぶき、内覧対応、売却交渉のプロセスをオンラインとオフラインの両面からサポートすることで、住宅マーケットプレイス市場において差別化を図っています。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
(注1)国土交通省 「中古住宅流通促進・活用に関する研究会」
2021年4月に公開されたAaltoのオンラインマーケットプレイスは、サンフランシスコのベイエリアを中心に物件が掲載されています。現在の事業展開エリアはダブリン、フリーモント、ミルバレー、ミルピタスの5地域で、同地域における全住宅在庫の5~10%がAaltoのプラットフォームに掲載されています。現在400戸の住宅が出品されており、1日平均1戸が新たに追加されています。
アメリカにおける中古住宅の売主は、まずエージェント(代理人)に販売業務を委託し、エージェントを介して買主を探すことが一般的です。売買契約成立時にエージェントに支払う仲介手数料は、販売価格の2.5〜3%が標準ですが、Aaltoは買主側がエージェントに頼る必要なく売主を探すことができるため、販売手数料は1%と低く設定されています。これは、不動産仲介にかかる業務効率化によるコストカットにより実現しています。
Aaltoのマーケットプレイスはアメリカの標準不動産データベース、MLS(Multiple Listing Service、マルチプル リスティング サービス)とは異なる独自のものです。MLSとは全米住宅在庫を網羅したデータベースで、MLS会員の不動産仲介業者には物件情報の登録が義務付けられています。AaltoはMLS会員の仲介業者ではないため、保有する物件情報をMLSに登録する義務はありません。また一方で、MLSに登録された物件情報をAaltoが参照することはありません。つまりAaltoは、自社のマーケットプレイスに登録された物件の売買契約成立だけにリソースを投入することで、売主と買主の顧客体験を高めているのです。
Aaltoの特徴は、買主が住宅をマーケットプレイスに掲載するまでの手間を省き、さらに買主と売主間のコミュニケーションに至るまでの時間を短縮することにあります。
売主は無料かつ契約不要で住宅をマーケットプレイスに掲載することができます。販売する住宅情報掲載の準備は住宅プロフィールの作成といくつかの質問に答えることで完了し、Aalto独自の地域の不動産価格データベースからこれから販売を検討している住宅の価格を算出します。ここまでに必要な時間はたったの5分。ここまでに入力した情報により、売主は掲載を開始することができます。
売主は掲載後により精度の高い住宅価格算出のため、1000~3000ドル(約15万〜44万円)の追加料金を支払い、インスペクター(住宅診断士)に住宅の劣化状況や欠陥の有無を確認してもらうことも可能です。
Aaltoは政府公認のブローカー(仲介人)であり、オンラインマーケットプレイス上のリスティングを支援するだけでなく、価格設定、検査、見学、交渉、売却完了までの一連のプロセスをサポートします。また、Aaltoのオンラインマーケットプレイスでは、Aaltoに登録された買主の希望条件から最適なマッチングを提案し、売主は買主のウェイティングリストを作成することができます。このウェイティングリストを作成すると、買主は物件内覧の順番待ちやキャンセル待ちをすることができます。
前述のMLSに住宅を掲載する場合、住居の詳細な住所や、住宅価格の変遷が表示されます。このことは、買主にどれほどの期間住居が掲載されていたのかや、価格がどれほど変化しているのかといった情報を提供することとなり、買主にとっては有益ですが、売主にとっては希望する価格での販売を難しくすることにつながります。
Aaltoに掲載された住宅には、以上の情報は含まれません。また、プライバシーに配慮して売主の正確な住所は公開されず、半径の範囲だけが公開されます。
いかがでしたか?今回は、不動産を5分で販売開始可能な個人住宅のC2Cオンラインマーケットプレイスを展開するAaltoをご紹介しました。Aaltoは現在サンフランシスコ地域にサービスを限定し、地域の物件データベースを活用することで売主が簡単に物件をリスティングすることを可能にしています。不動産仲介サービスのIT化が進んだ現在、新規参入企業はオフラインのサービスの組み合わせによって顧客に付加価値を提供することで、生き残りを図っています。Aaltoは今後どのように事業を展開していくのでしょうか。今後の動向が注目されます。