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建設機械を後付けで自動運転化するAI製品のAIM Intelligent Machines

  • 自動運転建設機械市場は2024年時点で約44億ドルのところ、2030年には97.7億ドルへと、年平均14.2%で成長
  • アメリカ・ワシントンのAIMは、既存の建機に後付けすることで自動運転を可能にする製品を展開
  • 安全性の向上と人的コスト削減に寄与し、現場作業員が重機に接近しない「ゼロエントリーサイト」の実現が可能

はじめに

画像引用元:AIM Intelligent Machines公式ホームページ

建設現場や鉱山、土木インフラ分野では、労働力不足と安全性の課題に常に直面しています。重機オペレーターの確保が難しい状況下で、作業の効率化とリスク軽減を両立するため、自律運転や遠隔操作といったソリューションが急速に注目されています。AIやロボティクスによる自動化技術は、この業界において、従来の手法では達成困難だった生産性・安全性の両立を可能にします。そこで自動運転建設機械(Autonomous Construction Equipment)市場は2024年時点で約44億ドル(約6,510億円)のところ、2030年には約97.7億ドル(約1兆4,500億円)へと、年平均14.2%で成長することが予測されています(MarketsandMarkets 2024)。

こうしたなか、既存の建機に後付けすることで自動運転を可能にする、アメリカのAIM Intelligent Machines(エーアイエム・インテリジェント・マシーンズ、以下AIM)の技術が、まさに社会インフラを支える革新的アプローチとして注目を集めています。一体どのような企業なのでしょうか。詳しくみていきましょう。

AIM Intelligent Machinesとは?

AIM Intelligent Machinesは2021年にアメリカ合衆国ワシントン州レドモンドにて創業された、建設機械のAI自動運転技術の開発企業です。CEOのAdam Sadilek氏はWaymoやGoogle Brain出身のAI技術者です。設立メンバーやエンジニア陣には、Google、SpaceX、Stripe、Tesla、Appleなどでの経験を持つ専門家が参画しています。

2025年6月、AIMはシリーズAで$50M(約74億円)を調達し、累計調達額は$91.1M(約135億円)となりました。出資者にはKhosla VenturesGeneral CatalystHuman CapitalIronspring VenturesMantisDCVCのほか、エンジェル投資家Elad Gilなどが含まれます。また、従業員数は約40名規模であり、この資金はワシントン州内の新たな施設進出や人員強化に活用される計画です。

AIMの技術は、既存のブルドーザや掘削機などの重機にプラグ&プレイ形式でAI搭載ユニットを後付けするプラットフォームです。メーカー、車種、年式を問わず対応可能で、現場での設置は最短24時間以内に完了します。これにより、「ゼロエントリーサイト」、すなわち作業員が重機に近づくことなく操作できる現場が実現します。対象顧客は、鉱山業者、データセンター建設、大規模インフラ整備を行う企業など、多岐にわたります。

AIMの自動運転後付け技術

画像引用元:AIM Intelligent Machines公式ホームページ

AIMの主力製品は、自律運転AIプラットフォーム「AIM Autonomy Platform」(エーアイエム・オートノミー・プラットフォーム)です。既存のブルドーザ、掘削機、ホイールローダーなどに後付けすることで、無人運転や遠隔操作を可能にします。メーカーや年式を問わず、最短24時間で設置が完了し、現場の自動化を即時に実現できる点が大きな特徴です。

導入は大きく3ステップで進行します。まず現場での対象機械へのハードウェア取り付けを行い、次にAIソフトウェアをインストール。最後に試験運転とオペレーター向けトレーニングを経て本稼働に移行します。運用中は、オペレーターが遠隔地から複数の重機を一括で制御することができ、作業内容について「特定エリアを所定の深さまで掘削」など、日常言語での指示に対応します。

使用場面としては、鉱山開発、ダムや道路の造成、データセンターや港湾の建設など、広大かつ危険を伴う現場が想定されています。特に、現場作業員が重機に接近しない「ゼロエントリーサイト」の実現が可能で、安全性の向上に寄与します。さらに本プラットフォームで稼働する重機は、保険会社により自動運転を前提とした保険のカバー対象とされており、安全基準の認定を受けています。また、稼働データやKPIをリアルタイムで取得できるため、保守計画やリスク管理にも活用できます。なお、価格は非公開となっています。

AIMの導入事例

画像引用元:AIM Intelligent Machines公式ホームページ

米国の建設会社Wayne Brothers(ワイン・ブラザーズ)では、AIMの技術を活用し、現場で稼働するすべてのオペレーターが最も経験豊富な熟練者と同等のパフォーマンスを発揮できるようにすることを目指しています。上級副社長のJim Rhodes氏は、「当社はオペレーターを置き換えるためではなく、すべてのオペレーターが当社の最も経験豊富なプロのように作業できるようにするために自動化を検討している。保有する機械で達成できることを最大化したい」と述べています
Minerals Technologies Inc.(ミネラルズ・テクノロジーズ、MTI)は、AIM Intelligent Machinesの自律運転AIプラットフォームを自社の鉱山採掘作業に導入することを発表しました。MTIは産業用鉱物や特殊材料の大手サプライヤーであり、同社の採掘現場は広大かつ危険な作業環境を伴います。AIMの技術導入により、オペレーターは遠隔地から複数の重機を安全に制御できるようになり、現場の安全性向上と稼働効率の最適化を同時に実現します。特に、危険区域への作業員立ち入りを不要にする「ゼロエントリーサイト」の実現が、MTIの安全基準強化に大きく寄与すると期待されています。
また、MTIはAIMのプラットフォームを活用することで、作業データのリアルタイム収集と分析を可能にし、燃料効率や作業計画の精緻化に取り組む方針です。これにより、オペレーションコストの削減と同時に、環境負荷の軽減も見込まれます。MTIのDouglas T. Dietrich CEOは、このパートナーシップが同社の安全文化と持続可能な操業目標に合致していると述べ、AIMとの協業を通じて鉱業分野におけるデジタル化と自律化の推進を加速させる考えを示しています。

さらにAIM Intelligent Machinesは、モロッコの鉱業大手OCP Groupと提携し、AIMの自律運転AIプラットフォームを利用したパイロットプロジェクトを2024年から実施しています。OCPおよびそのコーポレートベンチャー部門InnovXのチームは、次世代鉱山サイトのための自律運転化とオートメーションの導入に向けてAIMと協働しており、初期段階での試験導入においては成功を収め、現在はプロジェクトの適用範囲を拡大していると報告されています。

まとめ

画像引用元:AIM Intelligent Machines公式ホームページ

いかがでしたか?今回は、建設・鉱山業界に新たな可能性を開く自律AIプラットフォーム、AIM Intelligent Machinesをご紹介しました。同社は2025年6月にシリーズAで5,000万ドルを調達し、実働チームを拡大中です。既存重機に後付けすることで自動運転化を実現するという高効率かつ柔軟なアプローチにより、安全性と生産性を両立させた技術革新を進めています。また、OCPグループとのパイロット事業やMTI、Wayne Brothersといった実運用での成果など、導入事例も増加しつつあります。今後は新たな拠点や顧客拡大、さらには地球規模インフラや気候対応といった展開が期待されます。同社の今後が注目されます。

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