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可搬式充電設備で建設現場をゼロ・エミッション化するAmpd Energy

  • 建設産業の環境負荷軽減に向け、建機の電化などによる省エネルギー化が急務となっている
  • 香港発スタートアップAmpd Energy(アンプド エナジー)は可搬式充電設備 Enertainer(エネテイナー)を展開
  • Enertainerは従来のディーゼル発電機に比べてCO2排出量を最大85%削減、騒音を最大32倍小さくする

はじめに

画像引用元:Ampd Energy 公式ホームページ

建設産業の環境負荷軽減のため、建機の電化などによる省エネルギー化が急務です。特に欧州を中心に環境規制の強化が進んでおり、建設現場での電動建機の需要が高まっています。しかし電動建機を使用するためには電力を供給する設備が不可欠です。

そこで注目されているのが、可搬式充電設備(Battery Energy Storage System)です。可搬式充電設備とは、給電した電力を一時的に貯蔵・供給する産業向け充電設備のこと。従来の発電設備に接続するだけで電力供給を最適化し、電力量を削減するだけでなく、騒音の削減やオフグリッドでの電力供給を可能にします。

今回ご紹介するのは建設産業向け可搬式充電設備を展開する香港発スタートアップAmpd Energy(アンプド エナジー)です。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

Ampd Energyとは?

Ampd Energyは2014年に香港で創業したスタートアップです。創業初期は中国向けの電動スクーター事業を展開していましたが、2018年に香港の建設会社Gammon(ガモン)から充電設備設計を受注したことをきっかけに可搬式充電設備事業に参入。これまでに香港、シンガポール、オーストラリア、UKで事業を展開しています。

Ampd Energyは2023年6月にシリーズAで6240万香港ドル(約12億4400万円)を調達。累計調達額を1600万ドル(約24億9300万円)としました。出資者にはロンドンの2150やシドニーのTaronga Group、香港のMTR LabといったVCが参画しています。2021年にはForbes Asia(フォーブス アジア)の注目のスタートアップ「100 to Watch」に選出。2022年にはUKの環境系アワード「The Earthshot Prize」のファイナリストに選出されています。

Ampd Energyが展開する製品Enertainer(エネテイナー)は、主に建設現場で使用される可搬式充電ソリューションです。従来の送電網やディーゼル発電機と接続することで充電でき、フル充電後10-40Aの電力量で24時間以上自立給電が可能。従来のディーゼル発電機に比べて32倍静かで、CO2排出量を最大85%削減します。

これまでに香港、シンガポール、オーストラリア、UKの130以上の建設現場にて200台以上を導入。例えば建設会社Hexacon Constructionのオフィスビル「Central Boulevard Towers」、シンガポールのコンドミニアム「The M」や、Dragages Singaporeの「BCA Academy」といった建設プロジェウトで使用実績があり、54,812トンのCO2排出量削減を達成しています。

可搬式充電設備Enertainer

画像引用元:Ampd Energy 公式ホームページ

Enertainerは産業用リチウムイオンバッテリーを用いたシステムで、2019年10月に初めて市場に投入されました。電力量の異なるEnertainer M、Lの2サイズが展開されています。いずれも本体は10フィートコンテナ(幅2.44m×奥行き3.21m×高さ2.6m)サイズで、重量はMで8.5トン、Lで9.5トンとなっています。標準アンペア数はMで380アンペア(ピーク時455アンペア)、Lで665アンペア(ピーク時795アンペア)で、M1台で小型のタワークレーン1台+昇降機1台、または溶接機5台を稼働可能、L1台で大型のタワークレーン1台を稼働可能です。

設置は平坦で周囲に0.9m以上空けられる場所であればどこでも可能で、設置から2時間以内に使用開始できます。本体のほかに、IoTを介したデータプラットフォームEnernet(エナネット)が提供されており、使用者は24時間いつでも電力使用状況のリアルタイムのデータをモニタリングすることができます。例えばEnertainerの充電のための入力電流がストップすると、Enernetが警告を表示する仕組み。Enernetは様々な不具合に対して診断システムが組み込まれており、問題の早期解決をサポートします。

充電に既存の送電網を利用できない現場でも、ディーゼル発電機などの外部電源と接続することで使用ができます。電力が余っている時にEnertainerが蓄電し、建機使用時にEnertainerから電力供給することで電力消費を最適化し、外部電源のみを使用したときと比べて大幅に省エネ化を達成することができます。

価格はオンプレミスのため非公開ですが、設計寿命は10年で、ランニングコストを大幅に下げることができるため、従来のディーゼル発電機とトータルコストは従来と同等かそれ以下としています。

可搬式充電設備市場への参入続く

画像引用元:伊藤忠商事 公式ホームページ

建設現場における可搬式充電ソリューションの必要性の高まりから、市場への新規参入が続いています。

例えば伊藤忠は2023年10月、日立建機とオランダAlfen(アルフェン)と3社で欧州の建設現場向けの可搬式充電ソリューションの協業に関する覚書を締結したと発表しました。この覚書では、Alfenが開発、生産、メンテナンスを行う可搬式充電ソリューションにつき、日立建機が販売、伊藤忠がファイナンス、使用システムの構築、レンタル・リース支援を行うとされています。

また同じく2023年10月に日立建機は、九州電力と建設現場での可搬式充電ソリューションの共同開発に関する覚書を締結したと発表しました。これは九州電力が30年来開発を行っている産業用機械向けリチウムイオン電池パックに関する技術を活用し、建設用途に対応可能なソリューションの構築を目指すものです。

まとめ

画像引用元:Ampd Energy 公式ホームページ

いかがでしたか?今回は建設現場向けの可搬式充電設備を展開する香港のスタートアップAmpd Energyをご紹介しました。Ampd Energyは2019年にいち早く同事業に参入し、香港、シンガポール、オーストラリア、イギリスの4カ国で販路を開拓してきました。今後も同市場には省エネ化需要から新規参入が続くことが予想されますが、同社はどのように展開していくのでしょうか。今後の動向が注目されます。