Apis Corというロシアのスタートアップ(現在は、アメリカ フロリダ拠点)が、現在開催されているNASAの3Dプリント住居コンペで上位入賞を果たしています。2015年から行われている審査は3ステージ目で、実際に施工までを行う2019年1月には鉄鋼サプライヤーのGerdauとの業務提携を発表しており今後も活躍が期待されます。
今回はApis Cor とはどんな企業かに迫っていきます。
Apis Corは3Dプリントにより住宅建設を行うという、一見シンプルな事業モデルをとっています。
しかしながら、運搬や組み立てなどの問題からこれまで建設用の3Dプリンターの実現は難しく、3Dプリンターを用いる他のプロジェクトもローンチされてはいますが、部品の一部を作り、最終的には敷地で従来通りの組み立てを行う、プレファブリケーションとして用いるのが普通でした。
Apis Cor は自動で建物の躯体が作れてしまう機械を建設業界に導入したことが革新的と言えるでしょう。
2014年創業のベンチャーであるApis Corは、2015年にいきなり世界に衝撃を与えました。
たった1日で住居を3Dプリントロボットで作り上げてしまう、型破りな建設実験を公開したのです。その動画がこちらです。
もちろん窓ガラスなどの建具は後付けとなりますが、躯体は全て3Dプリント。
人件費が圧倒的に抑えられること、夜間も施工が進んでいくので工期が短縮できることによって、この住居にかかるトータルのコストはわずか1万ドルだそう。38㎡のワンルームサイズとはいえ、1日でできてこの価格は衝撃的ですね!
一口に3Dプリンターといっても、その種類は多様です。しかし住宅レベルの巨大な物を扱っている企業は大変希少と言えるでしょう。
材料を積層させる3Dプリンターを建設に応用するためには、充填する材料が固まらないようにすること、建設に適した材料を選定することが必要になります。この点ではただコンクリートをノズルから射出すればいいだけではありません。
そのためロボットはプリンタヘッドが回転する仕様になっており軸本体の内部にミキサーが内蔵されています。
また、この建築用3Dプリンターはジオポリマーと呼ばれる材料を使っています。セメントに比べ二酸化炭素排出量を70%削減できると言われており、環境にも優しいことにも注目が集まっています。
さらにこのプリンターは分解してトラックで運搬、1時間で組み立てができる手頃さも特筆すべき点と言えるでしょう。
運搬の容易さ、建設に適した材料への適応がこの建築用3Dプリンターを成り立たせている技術であると言えるでしょう。
さて、Apis Corが受賞したNASAの住宅コンペティションとはどんなものなのでしょうか。
このコンペティション「3D printing Habitat Challenge」は、火星に住むための持続的なシェルターを設計することが求められ、2015年から複数のステージに渡って審査が行われています。
Phase1では建築CGの提出、Phase2では構造部品の作成が求められました。Apis CorはSEArchという宇宙建築設計チームと組むことによってこのコンペに参加しています。彼らがはそれぞれ今回はそれらを建設する段階になり5チームに絞られています。こちらが実際に提出された”Mars X – House”の設計動画です。
ではNASAのコンペティションで彼らが評価された理由になにがあるでしょうか。
NASAのコンペは通常の建築コンペとは違いデザインやコンセプトだけでなく、かなりの実現可能性が求められます。今回1位となったphase3では実際の施工が求められます。
SEArchはそれまでにも宇宙建築設計の分野において入賞経験があり、コンセプトとデザインについての強みを持っていました。そこにApis Corのもつ施工技術が組み合わさることにより評価につながったと考えられます。
今後のステージでは完全な月面居住の設計に加えて、衝撃試験などの構造面での実現性が求められる審査が続きます。Apis Corの施工技術が今後も大いに活躍することが見込まれます。
宇宙建築の可能性がここまで広がっていることにはワクワクします。建設用3Dプリンターの普及によって、施工の効率化だけでなく、宇宙空間など従来不可能だった場所にも建設可能になるということには夢が広がりますね。
NASAのコンペティションは今後も続きます。Apis Cor の活躍から目が離せません。