アメリカ航空宇宙局(以下NASA)は今後2028年までに、月面有人探査基地の建設を実現するという目標を掲げ、様々な技術開発を進めています。宇宙空間での構造物の製造技術を専門的に開発する民間企業、Made in Space(メイド・イン・スペース)社は、NASAの宇宙開発ビジョンに先立ち、宇宙探査機や探査ステーションの建設技術を研究開発しており、宇宙空間で自律制御する3Dプリント技術をNASAに提供しています。
今回ご紹介する Archinaut Program(アーキノート・プログラム)は、Made in Space社が2016年に開始したプログラムで、2019年にNASAからの資金援助と将来の運用試験が決定しています。どのようなプログラムなのか、早速見ていくことにしましょう。
Archinaut ProgramはMade in Space社とNASAが、宇宙空間で大きな構造物を建設する技術の開発を目的として2016年に共同で開始したプログラムです。ArchinautはArchitect(建築士)とAstronaut(宇宙飛行士)をなぞらえた造語です。
これまでも同社はNASAと、宇宙空間での構造物製造のための技術開発で業務提携を行なっていますが、本プロジェクトはそのコア技術として3Dプリント技術を用いている点や製造する構造物が巨大である点に特徴があります。
宇宙探査機の開発にあたり、特に問題となっていたのは探査機のサイズでした。例えば、基本的にエネルギーを地上から補給することができない人工衛星の多くは太陽光発電をエネルギー源としていますが、一方向に長い支柱を必要とする大きな太陽光パネルを衛星軌道まで打ち上げるのは大変なコストとなります。
そこで注目されたのが3Dプリント技術です。3Dプリンターで構造物を製造してしまえば構造物を原材料のまま宇宙に運ぶことができ、ロケットのサイズを抑えることができます。宇宙空間でも動作ができる3Dプリンターとプリント部品を組立てる機器を開発することにより、衛星軌道に打ち上げるコストを下げることができるのです。
Archinaut Programは開始から3年間で地上の実証実験施設での3Dプリント、および組み立て試験をクリアしました。
そこで2019年7月より、宇宙空間での運用に向けた計画 Archinaut One Mission(アーキノート・ワン・ミッション)が開始されました。このミッションは、Archinaut Programで開発された3Dプリント技術を用いて、宇宙空間で運用する小型人工衛星の太陽光パネルを製造するというもので、NASAから7370万ドル(約79億円)の出資を得て、2020年までの打ち上げが予定されています。
同ミッションでは、各32フィート(約10m)の太陽光発電パネルの支柱4本を宇宙空間で製造、組立することが予定されています。宇宙空間で自律製造される構造物として同規模のものはこれまでになく、成功すれば世界初となります。
3Dプリント技術は月面基地建設計画でも注目されています。ドイツに拠点を置くOHB System AG(オーエイチビー・システム・エージー)社は、2013年に国際宇宙ステーションを管理するEuropean Space Agency(欧州宇宙機関, 以下 ESA)と月面基地建設に向けた業務提携を発表しました。
OHB System AG以外にも3Dプリンターで火星に住むための持続的なシェルターを建設するコンセプトで、NASAの3D printing Habitat Challengeに参加しているApis Corというスタートアップも存在します。
3Dプリント技術そのものや自動運転技術の技術革新を背景に、3Dプリンターの実用範囲は宇宙へと広がりつつあります。人工衛星や月面基地でロボットが自律して部品を製造する未来はもうすぐそこまで来ていると言えるでしょう。