Categories: 海外事例

AIで建設設計の最適化を支援するデザインプラットフォームを提供するAugmenta

  • 建設資材の廃棄や作業やり直しの主因は設計・調整のミスにあり、建設時間の最大20%、建築コストの最大6%はこれにより発生している
  • カナダのAugmenta(アーギュメンタ)は、AIを用いて建設プロジェクトの最適な設計を生成するデザインプラットフォームを開発
  • 同社のデザインプラットフォーム:ACPでは、施工可能な30の設計例を生成し、ニーズに最も適した設計を選択できる

はじめに

画像引用元:https://canada.constructconnect.com/ “Augmenta brings design platform for construction industry to market”

建設プロジェクトにおいて「設計」のプロセスは重要です。設計や調整のミスは、建設資材の廃棄や作業のやり直しの主な要因となっており、建設時間の最大20%、建築コストの最大6%がこれにより発生しています。さらに、手作業ではエネルギー効率や居住性を最適化するような設計を実現できない可能性があります。

建設設計の最適化は、建設プロジェクトの潜在的な問題の特定や、時間とコストの削減につながります。また、優れた設計の建物は、建物全体の機能性や美観を向上させ、資産価値を高めるとともに、その空間配置、構造、電気、空調、配管システム、仕上げについて利用者の機能的・審美的なニーズを満たし、快適な居住・利用空間を提供することにもつながります。

今回ご紹介するAugmenta(アーギュメンタ)は、AIを用いて建設プロジェクトの最適な設計を生成するデザインプラットフォームを開発しています。最適な建設設計を生成することで、無駄な作業や資材利用を減らし、居住性とコスト効率の改善を支援しています。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

Augmentaとは?

Augmentaは2018年にカナダのトロントにて創業されたスタートアップで、建設プロジェクトにおける電気、配管、空調などの複雑なシステムの設計と施工過程を最適化するAIデザインプラットフォーム、Augmenta Construction Platform(アーギュメンタ コンストラクション プラットフォーム:ACP)を開発、提供しています。

2022年6月には410万ドル(約5億2600万円)のシード資金を調達し、ステルスからサービス公開に至りました。この資金調達ラウンドは、主に不動産や建設関連のベンチャー企業にシード資金を提供しているHazelview Venturesが主導し、アメリカの建設会社大手、Ferguson Enterprises傘下のベンチャーキャピタルFerguson Ventures、2017年創業の投資銀行Whiteshell Group Inc.が参画しています。

ACPには5つのソリューション、電気系統設計(ESD)、構造設計(SD)、配管設計(PSD)、機械系統設計(MSD)、プレハブ設計(APD)が実装される予定ですが、現在公開されているのは電気系統設計(ESD)のみとなっています。

直近の調達資金は、ACPの開発加速、Augmentaの自動設計プラットフォーム上に構築された5つのソリューションのうち、電気系統設計(ESD)モジュールのパイロットプログラムの開始、営業、展開、顧客サポートにわたるAugmentaチームの拡大に使用される予定です。

Augmenta Construction Platformのユーザーインターフェース

画像引用元:Augmenta公式ホームページ

ここでは電気系統設計(ESD)のユーザーインターフェースをご紹介します。

ESDでは建物内の電気配線に関する複数の設計例をAIが生成します。例えば施工者は、実際に施工可能な30通りの設計例を比較して、ニーズに最も適した配線経路を選択するといったことが可能になります。

最初に必要なのは、システムの構成要件の入力です。端末やパネル、遮断機の位置、電気配線禁止地点の設定などがこれにあたります。ユーザーはテンプレートを使用することで電気配線に関する最低限の構成要件を入力することができます。

画像引用元:Augmenta公式ホームページ

システム構成要件を入力することにより、AugmentaのESDモジュールは複数の電気配線のデザインを提示します。

上記のユーザーインターフェースのモック画面に現れているように、ユーザーはそれぞれの配線経路について施工にかかる時間やコストといった複数のパラメーターで評価することができ、最適なデザインを検討することができるのです。

画像引用元:Augmenta公式ホームページ

もし新たなシステム構成要件が現れた場合、さらにそれが施工開始後であっても、ESDモジュールはその時々の状況に合わせてアップデートされた電気配線のデザインを提示します。

このアップデートは新たなシステム構成要件に適合し、かつそれまでに施工を完了している電気配線を再度施工する必要がないような形で対応されるため、ユーザーは再施工のコストを心配する必要はありません。

Hazelviewと共同で都市計画プロジェクトに参画

画像引用元Hazelview公式ホームページ

Augmentaの資金調達をリードするHazelview Investments(ハゼルビュー インベストメント)は、2021年9月よりFitzrovia Real Estate(フィッロビア リアル エステート)と共同でカナダのトロントにおける都市整備事業を進めています。これはおよそ2800平方メートルの土地に8階建の商用及び居住用のビルを建設するとともに、およそ3500平方メートルの都市公園の整備を進めるというものです。Augmentaはこの事業計画における11棟のパイプラインの電気、空調、給排水、構造システムについて、より効率的な設計・施工のために活用される予定です。

最適な施工計画は施工コストの抑制につながるだけでなく、建設物の利用開始後の省エネルギーにも貢献します。Hazelview Venturesの共同創業者であるRoger Poirier(ロジャー ポイリアー)氏は、「最終的なコスト削減がどの程度になるかは今のところ正確には言えないが、設計時間は約70%改善されると考えている。この時間は明らかに大きなコストであり、建物を建てる際に非常に重要な要素だ」と述べています。(注)

注)https://renx.ca/hazelview-makes-major-investment-in-ai-design-firm-augmenta

まとめ

画像引用元:Augmenta公式ホームページ

いかがでしたか?今回は建設設計の最適化を支援するAIデザインプラットフォームを提供するAugmentaをご紹介しました。Augmentaのソリューションは、AIが建物の設備や構造に関する設計例を複数生成し、それらをユーザーが比較することで最適な設計を選択することができるというものです。

現在は電気系統設計(ESD)関するモジュールのみが公開されていますが、今後、構造設計(SD)、配管設計(PSD)、機械系統設計(MSD)、プレハブ設計(APD)が実装されると、建設設計全体を包括的にカバーする建設設計AIソリューションとなると考えられます。

日本においてもプラント配管をAIが設計する株式会社PlantStream(プラントストリーム)が、配管の設置計画を最適化するソフトウェアを展開しています。

今後同社はどのように事業を展開していくのでしょうか。今後の動向が注目されます。