金融業界は、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)に大きく出遅れている業界の一つです。今後数年以内にデジタルネイティブと呼ばれるミレニアル世代やZ世代が顧客と中心となる中で、顧客に店舗へと足を運んでもらい金融サービスを提供する従来型のサービスから脱却し、消費者に関するデータを活用して、それぞれの消費者に最適化したサービスをインターネットを介して提供していくことが求められています。
しかし、銀行事業者はフロント業務とバックエンドの業務が複雑に連関しており、また多くの顧客情報を取り扱っているため、DXを通じて顧客体験を改善するためには社内の各部門ごとのデジタル化の推進だけではなく、部門を超えたデジタル化の推進が必要となり、多大なコストと時間がかかります。
そこで今回ご紹介するBlendは、消費者向け金融商品を扱う金融事業者に向けて、金融業務の自動化と顧客体験の改善を支援するデジタルプラットフォームを提供しています。どのような企業なのでしょうか。詳しくみていきましょう。
Blend Labs, Inc.(ブレンド ラブス、以下Blend)は2012年にアメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコにて創業された、金融系デジタルプラットフォームを提供する企業です。CEO兼共同創業者であるNima Ghamsari(ニマ・ガムサリ)氏は、住宅ローンの申し込みや口座開設のプロセスを、通販と同じくらい簡単にすることで、「金融サービスにシンプルさと透明性」をもたらすというビジョンを掲げ、2012年に同社を設立しました。
Blend – A Better Lending Experience
Blendが提供するプラットフォームは、主に消費者向け金融サービスを提供する金融事業者向けに、金融業務のDXによる効率化や顧客情報を活用した顧客体験改善を支援するもので、消費者が融資を受けたり、預金口座を開設したりするプロセスを、よりシンプルに、より速く、より安全にしていくことを目指しています。住宅ローン、ホームエクイティローンおよびクレジットライン、自動車ローン、個人ローン、クレジットカード、預金口座などに関する業務を取り扱っており、消費者は信用情報や購買情報を一つのプラットフォームで管理することで、自分の財務状況にあった金融商品の提案を受け、スマホなどの身近な端末から金融商品を選ぶことができます。
これまでに、Wells Fargo(ウェルス ファーゴ)やU.S.Bank(U.S.バンク)をはじめとする285以上の大手金融機関で利用されており、1日の流通総額は50億ドル以上にもなっています。また、Blendは単体では、2020年に2019年比90%増の9,600万ドルの収益を上げ、21年第1四半期には3,200万ドルの収益を上げ、前年同期比104%と成長を加速させました。2020年12月時点で577名のフルタイム従業員を擁しています。
Blendは2021年7月1日にニューヨーク証券取引所に上場し、3億6000万ドル(410億円)の資金を調達しました。現在の企業評価額は40億ドル(約4500億円)となっており、また上場前の筆頭株主としては、主にメディア系企業への投資を行っているCoatue Management(コータス マネジメント)、大型の資金調達案件への参画で知られているTiger Global Management(タイガー グローバル マネジメント)などがあります。
Blendが提供するサービスの1つ目は、Mortgage Suites(住宅担保ローン スイート)です。このプラットフォームはデスクトップアプリやモバイルアプリを介して、住宅担保ローンを含む不動産ローンに関する手続きを、申請から締結に至るまで全てオンラインにて行うことができるものです。
不動産ローン手続きに必要なあらゆるドキュメントをプラットフォーム上で管理するため、ドキュメントの不備対応を自動化することができ、また顧客の信用情報を組み合わせることで審査にかかる時間を短縮することができます。また、不動産ローンに関わるエージェントのマッチングや、住宅保険などの商品にも同時にアクセスすることができ、顧客は他のアプリやサービスに移動することなく、住宅に関する全てのことをBlendのプラットフォーム上で行うことができるのです。
2つ目のサービスは、2020年9月に公開されたBlend Consumer Banking Suites(ブレンド 消費者金融 スイート)です。このプラットフォームは、住宅ローンだけでなく預金口座、クレジットカード、個人ローン、自動車ローンといったあらゆる消費者向け金融商品を取り扱うことができるというもので、金融機関はさまざまな金融商品を統一のプラットフォーム上で管理することができます。
The Blend Digital Lending Platform | Explainer video | Blend
金融商品間で顧客データを活用することができるので、全体としてシームレスな金融体験を提供することができます。例えば顧客が自動車ローンを検討する際に、他の金融商品の利用状況や顧客の信用力等から、顧客は自らに最適なローンをあらかじめ知ることができたり、顧客の消費性向に合わせた金融商品の提案により、クロスセル(別商品の追加購入)につなげることもできます。
金融機関側の導入コストを抑えるために、製品テンプレート、コード不要のドラッグ&ドロップによる作業フロー、統合されたデータサービス、デザイン要素のコントロールなどにより、金融機関とその顧客の多様なニーズに対応して柔軟に対応可能であり、また直感的に業務ができるユーザーインターフェイスが実装されています。
Elements Financial(エレメンツ フィナンシャル)は1930年創業のインディアナ州の金融企業です。2017年より住宅ローン業務をBlendのプラットフォームに移行することを決定し、数ヶ月間をかけて移行プロジェクトを実施しました。
例えばこれまでの業務では、住宅ローンの書類の不備に際して、顧客にメールで『給与明細または資産明細書が必要です。これらが揃わないと処理に回せません。」という連絡を行っていました。しかしBlendを導入した結果これらの処理を自動化することができ、ローンオリジネーターが書類を集める作業時間を短縮し、ビジネスの拡大に回すことができるようになりました。
顧客の住宅ローン申請から融資までの期間は平均で5日短縮され、住宅担保ローン商品においては平均30日かかっていたのがわずか11日に短縮されました。さらに、自動車ローン、個人向けローン、クレジットカードローンの審査件数が11%増加、申請期間が60%減少、預金口座新設申し込み件数の平均増加率が105%増加したといいます。
いかがでしたか?今回は住宅ローンや自動車ローン等の消費者金融向けデジタルプラットフォームを提供するBlendをご紹介いたしました。Blendのデジタルプラットフォームは、金融事業者のDXを通じて、各金融サービスを一つに統合することができ、顧客に様々な金融サービス間をシームレスに利用することを可能にしています。
今後デジタルネイティブの世代が市場の中心となっていくなかで、金融のデジタル化は必然的な流れだと言えるでしょう。Blendは今後どのように事業を展開していくのでしょうか。今後の動向が注目されます。