建設プロジェクトの効率性を損なう要因の一つに「管理の難しさ」があります。建設プロセスは製造プロセスと似ているように見えますが、多くの施工業者が建設プロジェクトに関わり、現場での状況判断を元に施工を進めていくため、設計や仕様通りに建設されない場合がありました。そのため、プロジェクトの工期遅延や予算超過が発生してしまうのです。こうした状況を防ぐための建設プロジェクト管理には多大なコストがかかっています。
建設プロジェクト管理を効率化するためには様々な方法があります。一つ目はプロジェクト管理のペーパーレス化とデジタル化です。施工業者は設計図や施工工程表を元に施工を進めていきますが、紙の書類による情報管理では、計画の変更点や施工ミスの共有が遅れてしまうだけでなく、大量の書類を管理しなければならず、業務の圧迫にも繋がっています。そこで管理工程をデジタル化し、管理業務負担を軽減することが目指されています。
二つ目に測量技術の向上です。建設現場における施工工程管理は、施工管理者による目視の確認や、施工業者が自分自身の作業結果をチェックすることを通じて行われますが、目視では気づきにくい計画とのズレが見過ごされたり、計画の遅延がリアルタイムで共有されず、さらなる工期遅延を引き起こしています。そこで、施工現場の撮影や映像解析を通じてプロジェクト管理を自動化することが目指されています。
今回ご紹介するBuildots Ltd.(ビルドッツ)はイスラエル発のスタートアップで、ヘッドカメラで撮影した建設現場の映像をAIが解析し、プロジェクト管理に役立てるサービスを提供しています。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
Buildotsは2018年にイスラエルで創業されたスタートアップで、コンピュータビジョン技術とAIを活用した映像解析により、建設プロジェクト管理をサポートするサービスを提供しています。創業から3年目の2021年8月にシリーズBにて3000万ドル(約34億円)を調達し、これまでの合計調達額を4600万ドル(約52億円)としました。産業向けIT企業を中心に投資を実施しているLightspeed Venture Partners(ライトスピード ベンチャー パートナーズ)が今回のラウンドをリードし、前回の投資家であるTLV Partners(ティーエルヴィー パートナーズ)、Future Energy Ventures(フーチャー エナジー ベンチャーズ)、Tidhar Construction Group(ティダー コンストラクション グループ)、Maor Investments(マオー インベストメンツ)が参加しています。
Buildotsのサービスの核心は、ヘルメットに取り付けられた360度カメラで撮影された画像をAIアルゴリズムが自動的に検証し、当初の設計やスケジュールと建設現場で実際に起こっていることとの間のギャップを即座に検出する技術にあります。これにより、プロジェクト管理者はより適切な判断を下し、プロジェクトの工期遅延や予算超過を最小限に抑えることができます。例えば施工業者が計画された施工を実施していなかった場合、Buildotsの映像解析技術がそれを発見し、修正に必要な費用の分担や計画の見直しに役立てることができます。こうして建設現場で起こっている事象を活用することで、関係者全員の間で協力的な環境と信頼を生み出すことができるのです。
Buildotsのプラットフォームは、米国、英国、ドイツ、スイス、スカンジナビア、中国などの国々の主要な建築プロジェクトで活用されており、世界の建設会社のトップ10のうち4社が活用しています。
Buildotsのサービスを支える基礎技術の一つがBuilding Information Modelling(BIM)です。これは建設プロジェクトを3次元でコンピュータ上でモデリングする技術で、英国では2016年から義務化されており、米国でも同様に導入するための暫定的なステップがすでに進行中です。
まずBuildotsは建設プロジェクトの計画からコンピュータ上で仮想的なコントロールルームを構築します。そこに建設現場の作業員のヘッドカメラにより撮影された映像をAI解析が解析し、パフォーマンスデータがとして流れ込まれます。そのデータは、作業エリア、職種、スケジュールなどに応じてセグメント化され、スケジュールと実際の進捗のギャップが自動的に検出されます。
現場管理者は異常を早期に発見し、それに応じた対応をとることができます。これにより建設プロジェクトの進捗状況を可視化し、障害の特定や、スケジュールの進捗管理へと活用することができるのです。またこのシステムは、設計環境やスケジュール管理などの既存のソフトウェアと連携することもできます。
BuildotsはBIMによりモデリングされた建設プロジェクトと、建設工程のスケジュールに関する情報を統合し、上記のように各作業工程の全体的な進捗状況の把握と、計画からの遅延をトラッキングするサービスを提供しています。
このプラットフォームにより、オフィスの営業チームは建設現場に足を運ぶ必要性を最低限に抑えながら発生している事象を理解し、プロジェクトの管理や請求の管理を行うことができるのです。
2021年11月、Buildotsは、イギリス最大の建設・不動産企業の一つであるWates Residential(ウェイツ レジデンシャル)、住宅管理企業のOrbit(オービット)が手がけるロンドン、エリスの住宅再開発プロジェクトPark East(パーク イースト)のプロジェクト管理に採用されました。
本プロジェクトは最終的に320戸の住宅が建つミックス・テニュア(所有形態が混在した)*コミュニティの建設を目指しており、2016年にはロンドン再生プロジェクト・オブ・ザ・イヤー賞を受賞しています。
パークイーストのような大規模な開発プロジェクトでは、膨大な作業工程を一元管理し、人材や資材の配分を調整していくことがプロジェクトの効率性を高めるために重要になりますが、そのための管理コストも膨大になります。そこでBuildotsのプラットフォームを活用することで当初の設計、スケジュール、そして建設現場の進捗状況の情報取得管理を容易にし、高水準の生産性と効率性が常に維持されるようにしているのです。
(注)鈴木雅之 (2008) 「公的住宅供給におけるソーシャル・ミックス(イギリスの例から):テニュア・ミックス集合住宅計画の背景と意義」『住宅』57(4) pp.58-63.
いかがでしたか?今回ご紹介したBuildotsは、ヘッドカメラで撮影した建設現場の映像をAIが解析し、BIMで構築された建設現場の仮想モデルや作業スケジュールとの差異を自動的に検出することでプロジェクト管理を支援するサービスを提供していました。
Buildotsは、調達した資金を元に海外拠点への投資を積極的に進めていくと共に、建設現場で撮影された映像をさらに活用しプロジェクトの効率を高めていくため、営業、マーケティング、研究開発を中心としたグローバルチームの規模を2倍に拡大していくとしています。同社の今後の動向が注目されます。
これまで当サイトでは、Buidotsの他にも建設プロジェクト管理支援サービスを提供している企業として、建設現場で設計図を再現するARゴーグル「HoloSite」を提供するXYZ Reality、プロジェクト管理業務のペーパーレス化を支援するBulldozair、見やすいユーザーインターフェースにより施工工程管理を支援するFieldWireなどを紹介しています。これらのサービスと比較してみてはいかがでしょうか。