※日本では、住宅の改修を「リフォーム」もしくは「リノベーション」と呼んでいますが、この2つの言葉には厳密な区別が設けられていません。そのため、この記事では「リノベーション」に統一して進行します。
現在住んでいる家が古くなり、リノベーションを検討する場合、どのようにして依頼を選定しますか?信頼がおけて、自分のイメージやニーズをリーズナブルに叶えてくれる業者に頼むのが理想ですが、これらの望みを叶えてくれるような会社に出会うためには、たくさんの資料に目を通し、打ち合わせを重ね、そして他の依頼主の口コミなどを確認しなければなりません。
そんなときに利用したいのが、請負業者の仲介サービスです。今回は、数々の仲介サービスが存在するアメリカで他社とは違う手法を用いて成長した企業、Buildzoomをご紹介します。
2013年にアメリカでローンチしたBuildzoomは、住宅のリノベーション請負業者の仲介サービスを行なっています。このサービスの共同設立者の1人であるDavid Petersenは、過去に別の会社でImportGeniusという配送サービスを提供していました。これは、米国を出入りする膨大な輸送記録のデータのインデックスを作成し、アクセスのしやすいデータベースを販売するサービスです。「行政が所持・公開しているにも関わらず、その見にくさゆえに用をなしていなかった情報」をユーザーに届くようインデックス化し、価値を持たせるというビジネスモデルを、住宅のリノベーション市場に応用したのが、このBuildzoomです。
Buildzoomは州が公開する施工請負業の許可証を自社のデータベースに紐付けることで、これまでアクセスがしにくく、実質意味を為していなかった許可証をユーザーに届けることを可能にしました。請負業者のプロフィールは、州の認可委員会からのデータや、顧客レビューなどを使用して強化されます。これにより、ユーザーはより信頼のおける請負業者を見つけることができるのです。
Buildzoomのシステムは、基本的に無料で使用が可能です。ユーザーが問い合わせを行うとアドバイザーがアサインされ、希望のイメージや価格、所要時間などのヒアリングが行われます。その結果、より効率のいい業者が紹介され、ユーザーは金額の交渉などの面でもサポートを受けることができます。
請負業者も同様に、無料でサービスの利用が可能です。これは、プロフィールの登録料ではなく、広告収益によりビジネスが成り立っているためです。ユーザーからのヒアリングを踏まえて、アドバイザーがプロジェクトを複数の業者に提案、プロジェクトの施工権を巡って入札が行われ、より最適な業者がユーザーに紹介されるという仕組みになっています。請負業者は、ユーザーとの契約が成立したタイミングで、Buildzoomに仲介料を支払います。
Buildzoomには、競合他社が数多く存在します。例として、最も長い歴史を持つAngie’s List、デザインのアイデアとインスピレーションコンテンツが充実しているHouzz、他にもPorchやHome Advisorなどが挙げられます。中でもHouzzは日本への進出も果たしており、月間ユニークユーザー数は世界で4,000万以上という数字を誇ります。なぜ、これほどまでに類似サイトが存在しているのでしょうか。
日本では住宅を改修することをリフォーム、もしくはリノベーションと呼びますが、アメリカではRemodelと呼びます。アメリカではこのRemodelの動きが非常に活発で、リフォーム産業新聞によると、アメリカのRemodel市場は約3000億ドル(35兆円)規模と言われており、これは日本の約7倍近い数字になります。日本のGDPがアメリカの4分の1程度なことを考慮しても、非常に少ない数字と言えるでしょう。
画像引用元:幻冬社 GOLD ONLINE
出所:U.S.Census Bureau「New Residential Construction」「National Association of REALTORS」
日本とアメリカにおける市場規模の差の理由は、不動産事情にあります。新築の家を買い、一生住み続けるという感覚が強い日本に比べ、アメリカでは7年に1回引越しをすると言われています。また、上記のグラフを見てもわかるように、アメリカの住宅流通市場はその82%の割合を中古物件が占めています。国民の半数以上が築40年を超える物件に住んでいるという統計もあり、築年数が古い物件も資産価値が下がりにくい傾向にあります。これは、アメリカではDIY文化が根付いているため築年数を気にしないこと、不動産開発に厳しい制限があり、新築物件が極端に少ないことなどが理由に挙げられます。
このような理由から中古物件が多く出回るアメリカでは、Remodelの需要が非常に大きくなっています。基本的には物件の売主がより高価格で家を売るためにRemodelを業者に依頼しますが、中では、状態の良くない物件を比較的安価に購入し、Remodelを施した上で売りさばく「フィックス・アンド・フリップ」という手法でビジネスを成り立たせる人も存在します。このように、企業、個人関係なくRemodelを依頼する機会が非常に多くあるため、BuildzoomやHouzzといった仲介サービスの需要が高いのです。
画像引用元:日刊工業新聞
日本でもリノベーションという概念や、中古物件を見直す動きは高まりつつあります。国土交通省による民間推計では、2020年の東京オリンピックを皮切りに新築着工戸数は徐々に落ち込み、2030年には70.5万戸まで減少する見込みとなっています。この数字は、1996年の164.3万戸の半数以下です。一方で、中古物件への関心は高まっています。施工の予算が低く済むという理由が多くを占めていますが、築年数よりも、建物内部における機能性や広さ、間取りなどを重視する流れになりつつあるのです。
現在日本で注目を集めているのはワンストップ型のリノベーションサービス。ワンストップ型では、物件探しとリノベーションの両方、さらには資金計画やローンの相談まで一貫して行うことが可能です。担当者が1人で済むため、依頼主にとって打ち合わせがしやすいという利点があります。また、工務店や施工業者の仲介サービスも増加しています。SuMiKaというサービスでは、依頼主が希望のイメージや予算を公開し、請負業者がプロジェクトに応募する形でマッチングを行なっています。今後も国内での中古物件の関心に伴って、サービスのさらなる拡大が見込めます。
これまで州が管理していたにも関わらず、ユーザーに届くことがなかったデータをインデックス化し、活用することで成長してきたBuildzoom。すでに競合他社がいたのにも関わらず、認可の面からユーザーが信頼できる情報を提供することで差別化を成功させました。このようなディレクトリサービスのあり方は、他のサービスにも応用することができそうです。