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小型かつ安価な熱画像カメラ及びAI熱画像分析プラットフォームを展開するCalumino

  • 熱画像システム市場規模は2017年に27億2000万ドルから2023年までに40億4000万ドルに成長
  • Caluminoは、小型で安価な熱画像カメラ及びAI分析プラットフォームを展開
  • Caluminoの熱画像分析プラットフォームは、害虫/獣駆除、スマートビルディング、セキュリティ、ヘルスケアなどの分析において活用が期待される

はじめに

画像引用元:Calumino公式ホームページ

商業施設の出入口等で頻繁に見かけるようになった熱画像カメラ。コロナ禍の感染対策として急速に普及しています。熱画像カメラとは、熱エネルギーを電気信号に変換し、物体や風景の可視画像を作成するセンサーのことで、航空宇宙・防衛、ヘルスケア、セキュリティ等の幅広い業種で活用されています。熱画像システム市場は2017年に27億2000万ドル(約4025億円)から2023年までに40億4000万ドル(約59億8000万円)に達すると予測されており、これはCAGR(年平均成長率)にして6.73%成長という計算になります(注1)。

この熱画像システム市場の成長を牽引するキーファクターは、端末の小型化、低価格化、そして応用アプリケーション展開の3つです。これまで、熱画像カメラ機器は大きく高価で、例えば個人の識別が可能な監視システムを導入する場合はIPカメラ、動体検知システムを導入する場合はモーションセンサーといった技術と競合関係にありました。以上の市場環境において、IPカメラでは難しいプライバシー保護やモーションセンサーでは難しいデータの応用を両立するための小型で安価な熱画像カメラ、そして熱画像を分析して活用するための応用アプリケーションが求められています。

今回ご紹介するCalumino(カルミノ)は、熱画像センサーとAIによる熱画像分析プラットフォームを展開しています。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

(注1)SDKI Inc. 「熱画像市場「2023年までに40.4億米ドルに達すると予想」ータイプ別、アプリケーション別、業種別および地域別ー世界的な予測2023年」

マス市場向け低画素熱画像カメラを開発するCaluminoとは

Caluminoは2014年にオーストラリアにて創業された企業で、低画素の熱画像センサーと、AIによる画像分析プラットフォームの開発運営を行っています。2022年9月にシリーズAで1030万ドル(約15億2000万円)の資金調達を実施し、合計調達額を1920万ドル(約28億4000万円)としました。主要株主はアメリカ、インド、イスラエルのIT企業への投資を展開するCelesta Capital、シンガポールやオーストラリア等アジア地域のIT企業への投資を展開するTaronga Groupの2社で、その他、IT戦略コンサルティング企業のMirin Digital、ビルシステムやヘルスケア事業を展開する日本の菱電商事、光学機器やセンサー機器を開発するシンガポールのMoveon Technologiesが参画しています。

シリーズAの資金調達は、商業ビル管理と害虫駆除の分野における熱画像カメラ技術の商用利用拡大を受けて実施されたもので、その他、スマートビルディング、セキュリティ、ヘルスケア、設備監視等、幅広い領域での活用が期待されています。日本国内市場においては電気機器関連商社のシークス株式会社や、株主として参画する菱電商事が製品を取り扱っています。

Caluminoが開発する熱画像カメラは、空間環境、設備、人の動きをマッピングし、動体の姿勢等を検出します。これにより、設備異常や火災、水漏れ等の異常を検出したり、人の異常な動きを検出してヘルスケアや危機管理に活用することができます。

Caluminoの熱画像カメラ Calumino Thermal Sensor (CTS)

画像引用元:Calumino公式ホームページ

熱検知の基本原理は物体が放つ赤外線を検出することにあります。最も単純で広く使用されているのは、「サーモパイル」と呼ばれる技術です。サーモパイルとは、吸収した赤外線を熱に変換して電圧を発生させることで電圧出力から温度を測定するもので、動体を検知するモーションセンサーによく使用されますが、安価に製造できる一方で感度が低いことが特徴です。より高感度の熱検出のために使用されるのは「マイクロボロメータ」と呼ばれる技術です。これは熱を感知する素子がサーモパイルよりも小さく、より高感度な温度測定が可能となる一方で、高価となるために大量生産やマス市場向けに展開することは難しいとされています。

Caluminoが開発したCalumino Thermal Sensor (CTS)とは、サーモパイルの価格帯でマイクロボロメータに匹敵する性能を持つ熱画像カメラで、同社が取得した特許技術が活用されています。

画像引用元:Calumino公式ホームページ

CTSは、商業施設や公共施設、居住空間の熱検出システムとして使用が想定される低解像度の熱画像カメラで、人熱検出用途の場合、±0.5°C、1人/秒で熱検出が可能です。この製品は個人の特定が不可能なためプライバシーに配慮することができる一方で、動体の検出、追跡には十分な性能を持っています。

また、ボリュームディスカウントが適用される場合システムあたり999ドル(約14万円)以下で導入可能であり、これは同性能のマイクロボロメータによる熱検出システムと比べると10分の1程度の価格となります。

CaluminoのAI熱画像分析プラットフォーム

画像引用元:Calumino公式ホームページ

CaluminoのAI熱画像分析プラットフォームとは、CTSによって撮影された熱画像から、物体が人なのか、他の生物なのか、あるいは設備なのかといったことを判断するAI分析機能と、分析を通じて得られたデータから、動体の統計的な活動記録といった活用可能な情報を提供するプラットフォームです。このプラットフォームはクラウド型のソフトウェアで、エンドユーザーのプラグアンドプレイ(導入後すぐに活用できること)が可能です。

Caluminoの熱画像カメラを応用した製品に、菱電商事が日本国内で販売しているペストコントロール支援クラウドAIサービス、Pescle(ペスクル)があります。これは、食品工場や店舗等においてネズミ等の有害生物の動きをAIが検知・監視し、制御する「ペストコントロール」を支援するクラウドサービスです。これは無人で有害生物の発生を検知するもので、駆除の初期対応や予防等に活用が期待されています。

まとめ

画像引用元:Calumino公式ホームページ

いかがでしたか?今回は、熱画像カメラ及びAI熱画像分析プラットフォームを展開するCaluminoをご紹介しました。Caluminoの強みはサーモパイルの価格帯でマイクロボロメータに匹敵する性能を持つ熱検出技術にあります。これにより、これまで熱画像の活用が難しかった害獣駆除やセキュリティといった市場における商品化の可能性が広がっています。同社は今後どのように展開していくのでしょうか。今後の動向が注目されます。