昨今、アメリカではグリーンビルディング市場が拡大しており、建物の省エネ・省資源はもちろん、人体への影響など健康面にも気を使った建築が評価されています。というのも、建設時のコンクリートに使用されるセメントは、その製造過程で大量のCO2が排出されており、その量は世界のCO2総排出量の約7%にのぼると言われているためです。
セメント産業では、地球温暖化がクローズアップされる以前からCO2削減は大きなテーマになっており、現在も世界中で様々な対策が講じられています。今回は、セメントの製造過程におけるCO2削減に取り組むカナダのスタートアップCarbonCure Technologies(カーボンキュア テクノロジーズ)をご紹介します。
CarbonCure Technologies(カーボンキュア テクノロジーズ)は、2007年にRob Niven(ロブ・ニーブン)によって設立されたカナダのスタートアップです。同社は、セメント製造によって毎日大量に排出されるCO2を何か有効活用できないかと考え、リサイクルしてコンクリートに注入するという事業に取り組んでいます。
これに対してMicrosoft(マイクロソフト)創業者のBill Gates(ビル・ゲイツ)が設立した「Breakthrough Energy Ventures(BEV)」というファンドが興味を持ちました。同ファンドはエネルギー問題に取り組む企業に投資しており、CarbonCure Technologiesの事業に対して高いポテンシャルを感じ、2000万ドル(約22億円)規模の資金援助を決定しました。また、カナダ・アルバータ州のEmission Reduction Alberta(ERA)は、CO2の排出量を大幅に削減できる革新的な技術を求めて資金提供先を公募、CarbonCure Technologiesのビジョンに共鳴し、同社に2.6億円の資金を提供しています。
まず、セメントの製造過程では、石灰石を焼成します。石灰石の主成分は炭酸カルシウム[CaCO₃]であり、これが焼成の過程で酸化カルシウム[CaO]と二酸化炭素[CO₂]に分解されます。大量のCO2を排出されるのですが、CarbonCure Technologiesはこの過程の中でCO2を大気中に流さず、コンクリートに注入することで、コンクリートの硬度を高めるという独自の技術を開発し、特許を取得しました。これによって、より少ないCO2排出量で、より強力なコンクリートを使った工事が可能になったのです。
CarbonCure Technologiesの大きな特長には、導入のしやすさが挙げられます。こうした環境への配慮を目的とした技術導入には、これまでのやり方を見直す必要があったり、大規模な工事を迫られるなど、高いハードルが存在するケースが多くありました。しかし、工場がCarbonCure Technologiesを導入する際には、プラントにある既存のシステムに統合することができ、従来の製造ラインに影響を与えません。つまり、今までのやり方を変えることなく、CO2の削減に企業として取り組むことができる技術なのです。CO2をリサイクルし、より良いコンクリートを作っていける、まさに革新的な技術と言えます。
スウェーデンを拠点に世界5か国で事業を展開するThomas Concrete(トーマスコンクリート)社も、2015年にCarbonCure Technologiesを導入しています。そして、使用するコンクリートを全てCarbonCure Technologiesを用いたコンクリートに変更し、48,000立方ヤード(約37,000立方メートル)のビルを建築しました。すると、150万ポンド(680トン)のCO2削減に成功したのだと言います。これは、800エーカーの森林が1年間CO₂を吸収する量に相当します。
これをきっかけに、Thomas Concreteは企業として飛躍的に成長。その後もCarbonCure Technologiesをあらゆるプロジェクトで採用して建築することで、結果として6000万ポンド(2万7千トン)のCO2削減につながったと言います。
https://money.cnn.com/2018/06/12/technology/concrete-carboncure/index.html
(Thomas Concreteへの取材映像)
現在、CarbonCure Technologiesは、アメリカ・カナダの90以上のコンクリート工場が導入しており、CO2排出の削減に成功しています。更に、目標として掲げていた年間CO2削減量500メガトンも見事クリアするなど、非常に勢いのあるスタートアップです。今後こうしたCO2利用技術をよって、2030年までに産業全体で温室効果ガス排出量を最大15%削減することが期待されています。
CO2を“貴重な資源”とポジティブに捉える、いわゆるカーボンリサイクルという考え方です。こうした動きは日本でも近年活発になっており、CO2をドライアイスや溶接、燃料として再利用するなど、多くのアイデアが生まれています。これは空き家をカフェや宿として再利用する感覚にも似ていると感じました。これらのように、マイナスイメージの強かったものをプラスに転じさせていくという意識が、これからの世の中を変えていくのかもしれません。