コンクリート・セメントは世界中の都市建設に使用される重要資材。しかしその製造から使用までに排出されるCO2量は膨大で、例えば日本全体における年間CO2排出量のうち約17%をコンクリート・セメントが占めています。パリ協定は2050年におけるCO2排出量ネットゼロ達成をグローバルな共通目標として定めており、コンクリート・セメント関連のCO2排出量削減は急務となっています。
例えば欧州に拠点を置くグローバルセメントコンクリート協会(GCCA)の推計では、現在のコンクリート・セメント関連のCO2排出量は年間25億トンで、対策をしなければ2050年までに38億トンへと拡大すると見込まれています。そこでGCCAがネットゼロに最も貢献度が高いと注目しているのが、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage 二酸化炭素回収・貯留技術)とCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage 二酸化炭素 分離回収・有効利用・貯留技術)です(注1)。
これは、製造や建設過程において排出されるCO2を分離し、地中などに貯留する技術です。空気中のCO2を製品に取り込んで吸収貯蔵することで、製造過程で排出されるCO2排出量を相殺するものです。
今回ご紹介するのは二酸化炭素吸収貯蔵機能を持つコンクリート添加剤を展開するアメリカのCarbon Limit Co.(カーボンリミット)です。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
注1)グローバルセメントコンクリート協会(GCCA)「Getting to Net Zero」
Carbon Limitは、2021年1月にアメリカのフロリダ州ボカラトンにて創業された企業で、二酸化炭素吸収貯蔵機能を持つコンクリート添加剤 CaptureCrete®️(キャプチャクリート)を開発しています。この製品にかかわる技術や製造方法について同社は2023年に特許を取得しています。創業初期の製品は、ソーラーパネル、吸気ファン、フィルターを備えた可搬式コンテナの内部で、二酸化炭素をコンクリート中に捕獲・貯蔵するシステムを構築するというものでした。しかし、コンテナからコンクリート添加剤へと製品の方向性を変更し、現在に至ります。
2022年3月にプレシードラウンドにて金額非公開で資金調達を実施、2022年8月にもノンエクイティの資金調達を金額非公開にて実施しました。株主は環境系テック企業への投資実績のあるHG Ventures、世界最大級のプレシード投資企業Techstars、ノンエクイティで参画しているのは、スマートシティ関連NPO法人Leading Citiesの傘下ファンドAcceliCITYです。これまでに同社はHG VenturesとTechstarsの共同運営するアクセラレータプログラムにおいて技術開発に取り組んでいます。
2022年8月にはミネソタ州運輸局と共同して、アメリカの州間高速道路において1/4マイル(約400メートル)の舗装材敷設試験を実施しました。このパイロット試験では、製品の炭素固定状況を3年間追跡する予定です。データ・センサーやその他の試験装置がコンクリート・セルの打設と舗装前に設置されており、リアルタイムでデータを取得しています。
同社はこれまでに建設・都市計画関連技術についての様々な賞を受賞しています。例えばBIM World Munichではスマートビルティング・シティに関するコンペティションで入賞。CEMEX Venturesの建設テックに関するコンペティションでは金賞を獲得。米国国防総省主催のXtechSBIRの環境系テックのコンペティションにて入賞。Google for Startups Climate Change Cohort 2022における11社のスタートアップの1社として選定されています。
同社はCaptureCrete®️(キャプチャクリート)の製造と、CO2排出権取引の両軸でビジネスを展開していく予定です。
ここでカーボン・オフセットについて確認しておきましょう。カーボン・オフセットとは、企業が森林保全や省エネルギー化などCO2削減に貢献する活動を行った際、その活動により生じた削減効果(削減量・吸収量)をクレジット(排出権)として発行し、取引する仕組みのこと。CO2削減目標を達成した企業が、目標値以上に達成できた削減効果をカーボン・クレジットとして販売する代わりに、CO2の削減目標に届かない企業がカーボン・クレジットを購入して埋め合わせることを指します(注2)。
欧州を中心にカーボンオフセットは普及しています。日本では2013年よりカーボン・クレジット認証制度「J-クレジット」がスタート。国内取引所は2026年より公式に開設予定ですが、東京証券取引所は2023年11月より試験市場をすでに開設。自主参加企業による制度検証が進められています(注3)。
注2)環境省(2024)「我が国におけるカーボン・オフセットのあり方について(指針)」
注3)NHK WEB(2023)「「排出量取引」本格開始に向け 東証に新たな市場開設」
2023年8月、Carbon Limitは民間のCO2排出権取引市場を運営するCovalent(コバレント)のプラットフォームに参画したことを発表しました。
政府や欧州連合が運営するCO2排出権取引市場は先にご紹介しましたが、既存の取引市場は再生可能エネルギーなどについてのクレジット制度について多くの経験を持つ一方、炭素吸収や貯蔵といったソリューションに対するクレジット制度を十分に構築できていないという問題があります。
そこでサンフランシスコの気候変動スタートアップCovalentは永続的な炭素吸収・固定性能を持った製品に対するクレジット制度を構築しました。
Carbon Limitの製品であるCaptureCrete®️は、一度CO2を吸収・固定したCO2を1000年間保持し、漏れを0.01%以下に制限する性能を持ち、第三者認証機関のBureau Veritas(ビューローベリタス)による認証を取得しています。同社はCovalentのプラットフォームの最初のプレイヤーとして提携を実施。Covalentのプラットフォームにて炭素削減についてのクレジットの発行をうけ、今後取引を進めていく予定です。
いかがでしたか?今回は炭素吸収固定機能をもったコンクリート添加剤CaptureCrete®️を開発するCarbon Limitをご紹介しました。
CaptureCrete®️は既存のセメント製品に添加剤として混合させて整形するだけで空気中のCO2を吸収して固定するもので、建築物や道路などに使用することでCO2の削減効果をもたらします。
2050年中のCO2排出量ネットゼロを目指す国際目標を達成する上で、排出量割合の大きいコンクリート・セメント関連分野での技術革新は待ったなしとなっています。Carbon Limitは現在もアメリカ国内での試験を進めるとともに、Covalentの民間CO2排出権取引市場への参入も発表しました。今後の動向が注目されるところです。