コンクリート産業は製造過程で多大なCO2を排出しています。例えば日本のコンクリート産業におけるCO2排出量は、原料石灰石由来が2533万トン、エネルギー由来が1614万トンです。これらを合わせると全産業におけるCO2排出量3億2437万トンの約12%を占める計算となります(経済産業省 2023)。そのためコンクリート産業の脱炭素化は、2050年のCO2排出量ネットゼロの国際目標を達成するためのキーファクターとなっています。
業界内の動向として、グローバルセメント・コンクリート協会(GCCA)は2021年、コンクリート産業の脱炭素化に向けたロードマップを発表しました。ここで脱炭素化に最も大きく貢献すると見込まれているのが、CO2の「吸収・活用・貯蔵」技術です。これはネットゼロに向けた貢献量の実に36%を占めると予測されています(GCCA 2021)。
そこで今回は、CO2をコンクリート内で吸収・鉱物化することで排出量削減に貢献するコンクリート技術開発を行うConcrete4Change Ltd(コンクリート フォー チェンジ、以下C4C)をご紹介します。一体どのような企業なのでしょうか。詳しくみていきましょう。
参考)
経済産業省(2023)「コンクリート・セメントのカーボンニュートラルに向けた国内外の動向等について」
Global Cement and Concrete Association(2021) “The GCCA 2050 Cement and Concrete Industry Roadmap for Net Zero Concrete”
C4Cは2021年に英国でスタートアップとして本格的に立ち上がった、コンクリート製造におけるCO2排出量削減を目指す技術開発企業です。2040年までにコンクリート製造業界で排出される20億トンのCO2を削減することを目標に掲げ、コンクリート内にCO2を吸収して鉱物化する材料の開発をしています。
2024年1月にシードラウンドにて250万ポンド(約4億8000万円)の資金調達を実施し、合計調達額を450万ポンド(約8億6000万円)としました。リード投資家には次世代建築技術への投資を進めるZacua Venturesが参画し、その他に、プレキャスコンクリートの世界的プレイヤーであるドイツのGoldbeck GmbHが参画しています。過去の資金調達においては、タイのセメント企業Siam Cement Group、英国の公的機関であるエネルギー安全保障・ネットゼロ省(Department for Energy Security & Net Zero、2022年9月の資金調達においては、その前身のDepartment for Business, Energy & Industrial Strategy: BEIS)、欧州連合の公的企業である欧州イノベーション評議会(European Innovation Council)を調達先としており、これまでの調達資金構成は、ベンチャー投資資金が300万ポンド(約5億7000万円)、公的資金が150万ポンド(約2億8500万円)となっています。
C4Cは、コンクリートの製造プロセスから排出されるCO2を材料に吸収させることでコンクリート内部においてCO2を鉱物化するソリューションの開発をしています。現在、投資元でありセメント・コンクリートメーカーのドイツGoldbeck GmbHなどと共同で技術の実証実験を行っており、2027年までの市場展開を目指しています。
受賞歴も多数あります。2021年11月、国際連合のCOP26における気候変動会議(Climate Challenge 2021)の最終候補に進出。2022年10月、王立工学アカデミー(The Royal Academy of Engineering)よる技術賞を受賞。2022年、スペインの商業銀行サンタンデールが主催するネットゼロに向けたグローバルカウントダウン(Santander X Global Countdown to Zero Challenge)において入賞。欧州のスタートアップ見本市ユーロパス(Europas) 2022にて最終候補に進出。2022年12月、欧州連合のテクノロジー部門(EU Tech Chamber)が主催した「持続可能な都市と開発」会議において最終候補に進出。2023年、イギリスビジネスエンジェル協会(UK Business Angel Association; UKBAA)よりハード技術投資2023(Hard Tech Investment of the Year 2023)に入賞。2023年、イギリスのスタートアップ100(UK Startups 100)にて入賞。2023年12月、イギリス・チェスター地方自治体が主催する環境企業の展示会、グリーン・エキスポ(Green Expo)に入選。2024年にはアースショットプライズ2024(Earthshot Prize 2024)に入選しています。
一般的なコンクリートには硬化した後にCO2を吸収し固定化する性質が備わっています。しかしこれまでのコンクリートでは、空気に直接触れる表層から50mmまではCO2固定が自然に進むのに対して、それより深部ではCO2固定が進みません。そのため一般的なコンクリートのCO2吸収・固定量はそれほど大きくなく、またコンクリートの年数が経るにつれて表層と深層で組成に差が生じるために耐用年数にも影響します。
そこでC4Cは、コンクリートの製造過程でセメントに混ぜる材料を開発。この材料のことをC4Cは「キャリアー材料」と呼び、リアクターでCO2と接触させると、CO2を吸収・固定します。このキャリアー材料はガラス、木材、セラミックといった産業廃棄物やポリマーを原料としています。これを他のコンクリート材料であるセメントや水と混ぜ合わせることで、コンクリートを製造します。
実用段階においては、セメント製造過程で発生したCO2をキャリアー材料と接触させることで吸収・鉱物化し、回収します。こうしてCO2を固定させたキャリアー材料を、セメントと混ぜ合わせるため、従来のコンクリート製造過程に大きな変更を及ぼさないことが特徴です。また、従来の製造方法と比べて、強度を維持しながらセメントの使用量を約20%削減できることも強みとしています。
2022年3月、C4C はEUおよび英国で最大級のコンクリートメーカーであるハンソン-ヘイデルバーグ(Hanson-Heidelberg、2023年に新ブランドHeidelberg Materialsへ移行)、都市開発事業者シスク(Sisk)、およびコンクリート型枠のサブコントラクターであるパンテラグループ(Panthera Group)と協力して実証実験を実施しました。
実験では、C4C のキャリア材料をコンクリートに手動で混ぜ、2つの型枠(各1トン)に使用しました。ハンソン-ヘイデルバーグ実験中にコンクリートの作業性をチェックし、28日間にわたり流動性の経過分析を実施。その結果はコンクリートの脱炭素化において好意的に評価されました。代替材料の価格上昇に直面しているパンテラも、C4Cの技術採用に関心を示しています。
さらに2022年10月、C4CはプレキャストコンクリートのグローバルプレイヤーでC4Cの投資家の一社であるGoldbeckと実証実験を主導しました。実証実験ではGoldbeckの工場で2回の試験を実施しました。Goldbeck の採用するセルフコンパクティングコンクリート(高い流動性と均一性を維持したまま型枠内で自己充填するコンクリート)にC4Cのキャリアー材料を加え、所定の流動性(レオロジー)やコンクリート特性を得るための調整が行われました。この成功を踏まえ、C4CとGoldbeck は今後さらなる実験を通じて技術開発を進めるとしています。
2022年以降の実証実験の動向は明らかにされていませんが、同社によれば2025年中はキャリアー材料を使用したコンクリート製造量のスケールアップを目指し、2027年中の市場展開を目指していくとしています。
いかがでしたか?今回はCO2を吸収・鉱物化するコンクリート混合材料を開発するイギリスのC4Cをご紹介しました。C4Cは従来のコンクリート製造過程に大きな変更を加えることなく、コンクリートにCO2を吸収・鉱物化させるキャリアー材料を開発しており、2027年までに商業化を目指しています。同社の今後の展開が注目されます。