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AIデータセンターの高電力需要に対応する 太陽熱発電システムのExowatt

  • 太陽熱発電市場は2024年の161億ドルから、2034年の377億ドルへと、年平均にして9%で成長している
  • アメリカ・マイアミのExowattは、AIデータセンターを主要ターゲットとした太陽熱発電システムを開発している
  • Exowattの主力製品「P3」は40フィートのシャーシに収まるコンテナ型で、将来的に1.5円/kWhの発電効率を目指す

はじめに

画像引用元:Exowatt公式ホームページ

太陽熱発電市場は、2024年の161億ドルから、2034年の377億ドルへと、年平均にして9%で成長しています。発電容量の観点では、2018年に496ギガワットだった市場が2032年には984ギガワットに倍増すると予測されます(Global Market Insight 2025)。

太陽熱発電とは、鏡やレンズで太陽光を集めて高温を得て、その熱を使って発電タービンを回す発電技術のこと。エネルギーを蓄熱できる点に強みがあり、夜間や曇天でも発電を継続できるディスパッチャブル電源として注目されています。

今回ご紹介するのは、アメリカ・マイアミに拠点を置く太陽熱発電企業のExowatt(エギゾワット)です。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

Exowattとは

Exowattは2022年にアメリカ・マイアミでGeneral Electric、アクセンチュア、テスラをへてVTOL型配送ドローンVolansiを創業したHannan Parvizianと、スタートアップスタジオAtomic CEO Jack Abrahamによって創業された再生エネルギー開発企業です。「24時間利用可能な再生可能エネルギーの供給」という明確なミッションを掲げ、再生可能エネルギーをいかに安定供給するかという課題に挑んできました。従来の太陽光発電は、日照条件に依存し夜間や悪天候下では発電ができないという弱点を持っていました。Exowattはこの制約を克服するため、太陽熱を集めて蓄熱し、必要に応じて電力として取り出す「太陽熱発電」方式を採用しています。

資金調達

Exowattは2025年4月22日にシリーズAラウンドで7,000万ドル(約104億円)の調達を完了し、累計調達額は9,000万ドル(約133億円)に達しました。このラウンドではFelicisがリード投資家を務め、調達額のうち3,500万ドルはHSBC Innovation Bankingらからの負債、残り3,500万ドルがエクイティとして調達された構成です。OpenAI CEOのサム・アルトマンアンドリーセン・ホロウィッツ8090 IndustriesStarwood CapitalMCJ CollectiveMVP VenturesGOAT VCStepStone Groupなど複数のVCやグループが出資に名を連ねています。

Exowattが開発する太陽熱発電システム「P3」は、太陽エネルギーを熱として集め、それを長時間蓄熱できるバッテリーに貯蔵し、必要に応じて電力として取り出せるモジュラー型のエネルギーシステムです。この3-in-1方式の設計により、従来の太陽光発電では克服が難しい「夜間や曇天でも使える」24時間ディスパッチャブル(dispatchable)な再エネの供給を可能にしています。

AIデータセンターとの連携

ExowattはAIデータセンター向けを主要なターゲット市場に据えています。生成AIの急速な普及により、データセンターの電力需要は世界的に急増しており、今後数年で数百GW規模の新たな電源が必要になると予測されています。

P3は現場へのインストールが容易で、データセンターに直接併設して電力を供給できます。そのため、グリッド接続の制約や遅延を回避でき、急速な需要増に応じやすい構造になっています。さらに、ディスパッチャブル(指令可能)電源であることが特徴です。日照の有無にかかわらず蓄熱したエネルギーを放出できるため、夜間やピーク需要時でも安定した電力を供給できます。これは24時間稼働が必須のAIデータセンターに適した特性です。

2025年4月のシリーズA調達発表時点で、Exowattは90GWh超の需要バックログを抱えていると公表しており、その大半がデータセンター関連需要であると報じられています。

Exowattの太陽熱発電技術

画像引用元:Exowatt公式ホームページ

主力製品「P3」

Exowattの主力製品「P3」は、標準的な40フィートのシャーシに収まるコンテナ型であり、工場製造されることで迅速な設置とメンテナンスのしやすさを実現し、耐用年数は30年とされています。原材料から国内調達され、米国内で製造されている点も特徴です。

まず、太陽光を効率的に集光して熱に変換する。次に、その熱を安価かつ耐久性のある素材に長時間蓄える。そして最後に、蓄えた熱を電力として安定的に供給する。このプロセスを標準的な40フィートコンテナに収めたモジュラー型製品として提供することで、迅速な設置やスケール調整を可能にしています。耐用年数は30年とされ、メンテナンス負担も小さいことから、大規模かつ長期的な運用が視野に入ります。

技術的には、Fresnelレンズのような集中型太陽熱(CSP)技術を応用し、太陽光を熱に変換し高温の状態で蓄える方式です。従来の溶融塩や相変化材料とは異なり、シンプルで安価な素材(粘土やセラミックス系)を使うことで、高い耐久性とコスト効率を両立させています。

コスト・課題

コスト面では現在4セント/kWh程度ですが、量産化に伴って100 GWh/年規模で展開されれば、1〜2セント/kWhにまで引き下げる可能性があるとしています。最終的には1セント/kWh以下を目指すとも述べられており、再生可能エネルギーとして極めて競争力のある水準です。

一方で、課題や懐疑的な見方も存在します。技術自体は以前から存在する集中型太陽熱(CSP)と蓄熱の組み合わせであり、「目新しさより新しい包装」と皮肉的に語られることもあります。類似の技術がかつて期待されたものの、コストやスケールの問題から大規模展開に至らなかった事例もあります。実運用における熱効率や蓄熱損失、長期信頼性、素材の耐久性、コスト低減が目標通りに進むかどうかは、今後のスケールアップと実証展開にかかっています。

Exowattの活用事例

画像引用元:Exowatt公式ホームページ

現時点(2025年9月時点)では、商業的に稼働を始めた具体的な導入事例は公開されていない状況です。ただし、いくつかの進行中のプロジェクトや、AIデータセンター向けの活用に向けた強い関心・需要が確認されています。

まず第一に、Exowattは2024年4月のシード資金調達時点で、AIデータセンター顧客への導入を前提とした第1弾の展開を「今年(2024年)中に開始する」と明言していました。これにより、現実の導入が近いことが示唆されています。さらに2025年初頭の報告によれば、同社は「2025年半ばから商業顧客とのパイロットプロジェクトを開始する」と公式に発表しています。

まとめ

画像引用元:Exowatt公式ホームページ

​​いかがでしたか。Exowattは、太陽熱を基盤とする独自のモジュラー型エネルギーシステム「P3」を開発し、再生可能エネルギーを24時間安定して供給できる技術を打ち出しています。とりわけAIデータセンターの急増する電力需要に応えるソリューションとして位置付けられており、従来の太陽光発電や蓄電池にはない長時間の蓄熱供給能力や、グリッド接続を前提としない柔軟な導入方式が評価されています。

資金調達面では著名な投資家や大手VCが参画し、累計9,000万ドルの資金を確保するなど、事業基盤の強化も進んでいます。現時点で商業稼働の具体的事例は限られますが、90ギガワット時を超える需要バックログや複数のパイロットプロジェクトが進行中であり、2025年以降には実際の活用例が次々と表面化していくと見込まれます。課題としてはコスト競争力の確立や長期信頼性の実証が挙げられるものの、もしこれらが達成されれば、AI時代に不可欠な電源インフラとしての地位を確立する可能性が高いといえるでしょう。