新型コロナウイルス流行の影響もあり、世界中でネット通販などのeコマースが大きな成長を遂げています。実際に、2022年2月にREPORTOCEANが発行したレポートによると、世界のeコマース市場は、2022-2030年の間に21.4%以上の成長率になると予測。
しかし、この様なeコマース普及の一方で、アパートなどの集合住宅では、大量の宅配物の保管が管理人への大きな負担となっています。そこで、これらの問題解決の為に宅配ロッカーを設置する物件が急増。しかし、宅配物の数に対してロッカーの数が足りていなかったり、宅配物のサイズが大きい為に、ロッカー外に宅配物が積み上げられているというのが現状です。
また、eコマースの普及に伴う宅配物の急増により、一般の配送業者では通常の配達件数や住民不在による再配達件数が増加しており、世帯数の多い集合住宅での宅配が大きな負担となっています。
今回ご紹介する Fetch Package (フェッチパッケージ)は集合住宅向けのラストワンマイル配送を行なっている企業で、住民が指定した時間での荷物の配送を可能にするサービスを提供しています。
Fetch Packageは2016年にアメリカのテキサス州オースティンにて設立された企業で、アメリカ国内16の市場において集合住宅向けの配送サービスを展開し収益を上げています。同社サービス利用料は1部屋につき月額10ドル〜 15ドル(約1100円〜1700円)。利用者は同社が提供するアプリを通して、商品の配達時間の指定などを行うことが可能。
既に18万世帯・650コミュニティが同社のサービスを利用しており、2020年には350万件、2021年には610万件以上の配送を行なっているとのこと。そして、今後2年間でアメリカ国内の24の新しい主要市場に参入予定と、現在急成長中と言える企業です。
同社CEOのMichael Patton(マイク・パットン)氏は、自身が住んでいたアパートで宅配されたはずの荷物が紛失してしまった経験からFetch Packageを設立。そして、同社の設立にあたり、集合住宅における荷物の管理方法を独自に調査したところ、週に最大300から400のパッケージをアパートの管理人が自身の手で管理しなければない状況であるという事が判明したとのこと。そこで、同社ではこれらの問題を解決するために、住民が時間を指定して荷物を受け取るための集合住宅向けのラストワンマイル配送サービスを開始。
2021年7月に行われたシリーズCラウンドの資金調達では、Signal Peak Ventures(シグナルピークヴェンチャーズ)やAlpaca VC(アルパカ)などから、5000万ドル(約57億4,000万円)を資金調達。そして、同社はこれまでに計7ラウンドの資金調達を行なっており、9200万ドル(約105億6,200万円 )の資金調達に成功しています。
それでは、こうして注目を集めるFetch Packageが展開するサービスとは一体どのようなものなのか、詳しく見ていきましょう。
Fetchの配送サービスはアパートなどの集合住宅向けとなっており、物件の管理者が同社サービスを導入する事によって、住民が利用できるようになります。そして、商品到着までは以下のような流れです。
同サービスの利用者は通販サイトなどで商品を購入した際に、配送先を自宅住所ではなくFetchの倉庫宛に設定する事で、同社の配送サービスを利用する事ができます。
通常ネット通販などで商品を購入した際には、販売者から購入者の自宅へ直接商品が発送されますが、同サービスを導入している場合は、自宅ではなくFetchが管理する倉庫へ商品が発送され、配達時間の指定などがあるまで倉庫内で保管されます。ここでは大小様々な荷物の保管が可能であるとともに、倉庫内には冷蔵設備も完備されているので生鮮食品などにも対応しています。
また、同社の倉庫では最長6カ月間荷物の保管が可能で、利用者は余裕を持って受け取り日時の指定が行えます。
倉庫に商品が到着すると、利用者のアプリに商品到着通知が送られます。そして、その後アプリから2時間枠で配達日時の指定を行う事ができます。配達日時の指定の際には、いくつかの希望日時を設定する事ができるので、万が一希望日時に不在の場合でも、第2希望日時に配送が行われます。
また、同社の倉庫を経由しての配送となると、商品到着までに時間が掛かるのではないかという疑問もありますが、一般の配送業者から同社倉庫までの荷物の配送は朝一番で行われる為、当日配達にも対応可能です。
配送日時の指定後は、Fetchの配達スタッフによって宅配物が直接自宅玄関まで届けられます。加えて、アプリ内では不在の場合の対応設定が可能で、置き配又は倉庫への持ち帰りを選択できます。置き配を設定した場合には、ドアの前に宅配物が置かれ、その写真が利用者に送られます。そして、持ち帰りを選択した場合には、宅配物は持ち帰られ、第2希望日又は再度指定された日時に配達が行われます。
この様な無駄の無い配送システムは、利用者にとって有用であるのは勿論の事ながら、配達員の負担を大幅に軽減する非常に効率的な配送システムであると言えます。
シカゴのハイドパーク地区において25のアパートの運営を行なっているivy residences(アイビーレシデンス)には、住民から宅配物の受け取りに関する多くの要望が寄せられていました。というのも、シカゴでは宅配物の盗難などが多く発生しており、安全に宅配物を受け取れるシステムが求められていた為です。
これらの要望に応える為に、同社では、宅配ロッカーや荷物預かり処などの導入が検討されていましたが、導入コストが高額である事や大量の宅配物に対応できないという点から導入が見送られていました。
そこで、同社が2年前に一部の物件で導入したのがFetchの配送サービス。同サービスの導入後は、盗難による被害や宅配物に関する管理者への相談件数も大幅に減少し、住民からの評判も非常に良かったとのこと。実際に、ivy residences社が2020年9月に住民投票を行った際には、Fetchのサービスへの満足度は98%。一方、Fetchを導入していない物件では、64%の住民が荷物事情に不満を感じているという調査結果がでています。
また、管理者目線では、宅配ロッカーなどに比べて費用対効果が高い点や宅配物に関する業務負担の軽減もメリットとして挙げられています。
今回は集合住宅向けのラストワンマイル配送を行うFetchをご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?同社が展開する配送サービスへの需要は、eコマースの成長に伴い、急激に増加しています。日本においてもラストワンマイル配送の領域は、宅配便ロッカーPUDO(仏ネオポストとヤマト運輸の合弁)、各運送会社のコンビニ受け取り、ecbo pickup(ecbo cloakを運営)、配達効率化サービス トドク(207社)などが様々アプローチで参入している。今後もeコマースの成長が見込まれていますので、同社の動向には注目です。