施工管理とは、決められた工期と予算内で建設物の品質を損なう事なくプロジェクトを完成させるために、建設計画の打ち合わせ、工程管理、施工者への技術指導を行う役割のことです。
施工管理は建設プロジェクトを計画通りに進めるための要であり、建設事業者の7割が、工期遅延や予算超過の原因に「施工管理の失敗」をあげています*。しかし、現状は人の目による監督や情報共有などマニュアルな作業が多く、ICT活用による効率化は必須といえるでしょう。
今回ご紹介するFieldWireLabs, Inc.(フィールドワイヤラブス、以下Fieldwire)は、この問題を解決するために、アプリを通じて施工管理を効率化するサービスを提供しています。一体どのようなサービスなのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
Fieldwireは、2013年にアメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコに創業された企業で、建設テック専門VCのBrick & Mortar Venturesなどからこれまでに4120万ドル(約42.8億円)を調達しています。
Fieldwireが開発運営するFieldwire Construction Manager(フィールドワイヤ コンストラクション マネージャー)は、施工管理者や建設事業者が建設現場の監督を行うために設計されたアプリです。
日本を含むアジアとオーストラリアでは2015年より、ヨーロッパでは主にフランスを拠点に2017年よりサービスを開始しており、2021年1月までに、全世界で75万件の建設プロジェクトにおいてFieldwireのアプリが活用されているといいます。
アプリにはクラウド型の情報管理システムが採用されています。クラウドとは、中央のサーバーが情報を一元管理し、いかなるデバイスからでも最新の情報にアクセスすることができる仕組みのこと。
施工管理者や建設事業者はアプリを持っていれば建設プロジェクトに関わる情報にアクセスすることができ、情報の変更や修正もリアルタイムで共有することができます。
施工管理業務にとって、情報利用の効率化は不可欠です。Fieldwireの顧客の1社である建設コンサルティング会社FORMA2(フォルマ2)は、Fieldwireを活用する以前、施工管理担当者が現地で画像や検査結果等の情報を集め、オフィスに戻ってから情報を再度整理することで書類を作成していました。
しかしFieldwireを活用してからは、現場での施工管理業務の際にFieldwire Construction Managerを用いて情報を収集するようになり、集めた情報を元に自動で書類を作成できるようになりました。オフィスに戻ってから書類を作成する業務を自動化できたことで、施工管理業務を1日あたり1時間削減することができるようになったといいます。
アプリでは、「パンチリスト」を作成して工程管理を行うことができます。パンチリストとは、各作業を優先順位ごとに色分け、整理して記載したもので、上記の参考事例では「赤、オレンジ、黄」の順に優先順位の高い作業を、「緑」で完了した作業を、「青」で品質のチェックが完了した作業が示されています。
こうすることで、作業の優先度や進捗状況が一眼で分かるだけでなく、リアルタイムで情報が共有されるため、施工管理者間や、施工管理者と施工者間、施工管理者と建設事業者間で進捗状況を共有することも容易に。施工管理者が当日の作業報告を行う際にも、作業時にパンチリストを用いて進捗状況を記録しておくことで自動的にレポートが作成でき、手間を省略することができるのです。
Fieldwireアプリの強みの2点目は、多様なファイルの共有ができることです。専用のカメラがあれば、360度の建設現場写真を撮影して共有することができ、作業報告や品質チェックがより簡単にできます。
多様な画像形式、CAD(コンピューター上で作成された設計図)のファイル形式に対応しており、またDropboxやGoogle Driveなどのクラウドストレージと連携してファイルの共有を行うことも可能です。多様なファイルを扱うことができることで、チーム間の情報共有がよりスムーズになり、情報共有をより効率化することができるのです。
また、アプリ上でBIM(建設物の3次元モデル)ファイルを展開し、確認することもできます。プロジェクトの全体像を360度把握することができるだけでなく、各構造の寸法や形状等のデータを確認することができ、施工管理者はいちいち設計図面に戻ることなく施工管理業務を実施することができるのです。
カナダのアルバータ州カルガリーにおいて、2017年に工事が完了した高層オフィスビル「ブルックフィールドプレイス」は、同市の建設物としては最高の242mを誇ります。
建設プロジェクトを受注したゼネコンの一つ、EllisDon(エリスドン)は、施工管理にFieldwireを活用していました。MEP設備(機械、電気、配管)工事の段階になると、プロジェクトオーナーのBrookfield(ブルックフィールド)の施工管理者は毎日現場に入り、Fieldwireを通じて品質のチェックを行います。
品質基準を満たした部分からMEP設備の工事が開始されますが、Fieldwire上では全ての施工業者が情報を確認することができ、Brookfieldの担当者は現場で品質チェックを行う段階で各施工業者に次の作業指示を送ることも。これによって、施工管理の進捗状況をいちいち配管業者や電気設備業者に共有する手間が省けたといいます。
更に建設プロジェクトの完了後も、BrookfieldはEllisDonからFieldwire上に残されているプロジェクトデータを譲り受け、HVAC(空調システム)の維持管理等にこれらのデータを活用しているといいます。
Fieldwireは大規模な建設プロジェクトにおいて、プロジェクトオーナーとゼネコンをはじめとする施工業者間の情報共有を効率化するだけでなく、プロジェクト完了後の保守点検にも活用することができるのです。
同社は2021年の第4四半期に、建設ソフトウェア分野での存在感を大幅に拡大する動きとして、リヒテンシュタインを拠点とする工具メーカーのヒルティに買収されました。
大手工具メーカーであるヒルティは以前、2回のスタートアップ資金調達ラウンドでFieldwireを支援していました。ヒルティは従来の動力工具事業に引き続き注力していますが、近年、労働者管理プラットフォームやBIM環境用のコンクリートアンカー設計ツールなどのソフトウェアにも投資しています。その流れもあっての買収と考えられますが、契約に関する詳細な条件は明らかにされていません。
建設施工管理のICT化を支援するFieldwireをご紹介してきました。Fieldwireはタブレットやスマートフォンで使えるモバイルアプリを通じて施工管理業務を効率化しています。特にクラウドベースのタスク管理機能やファイル共有機能は、大規模な建設プロジェクトにおいて作業効率に大きな違いを生んでいます。
当メディアでは、建設施工管理サービスとしてFieldwireの他にも、PlanGrid(プラングリッド)、Fieldlens(フィールドレンズ)、などの競合サービスをご紹介しています。これらのサービスはそれぞれ大手CADメーカーのAutodesk(オートデスク)、コワーキングスペース事業のWeWork(ウィワーク)に買収されていますが、特に前者のAutodeskは、設計から建設までを一気通貫する建設ソフトウェアを展開しており、PlanGridの買収によりソフトウェアサービスの垂直統合を目指す意図が鮮明となっています。
建設業界のICT化の流れの中でも、建設施工管理の領域は新興企業の勃興や統合が進み、競争が激しさを増している状況があります。そのような中でFieldwireは今後サービスをどのように展開していくのでしょうか。今後の展開が注目されます。
同社は2021年11月、世界的な建設メーカーであるHilti North America(ヒルティ ノース アメリカ)に3億ドル(約350億円)で買収されています。