アメリカ西海岸・中西部州では毎年夏から秋にかけて山火事が多く発生し、住宅の焼失が相次いでいます。実際に、2021年7月にカリフォルニア州で発生した山火事「ディキシーファイアー」では、焼失面積が100万エーカー(約4000平方キロ)にも及び、1000軒以上の住宅が被害に遭いました。
そして、カリフォルニア大学バークレー校のコミュニティイノベーションセンターとNext10のレポートによると、カリフォルニア州の12軒に1軒以上の家が山火事で燃えるリスクが高い地域にあるという報告も。
そのような状況の中、アメリカでは保険会社と政府が家屋所有者に対し、hardening(ハードニング)を住宅に対して施すように呼びかけています。ハードニングとは住宅が火災に遭った際に被害を最小限に抑え、周りに火災を広げないための防火対策の事です。住宅の防火対策と聞くと、住居の改良を思い浮かべますが、延焼を防ぐ為の土地整備など、包括的な内容となっています。
今回ご紹介するFiremaps(ファイアーマップス)は、テクノロジーを利用した効率的かつ効果的なハードニングサービスを提供する企業です。
Firemapsは2021年にカリフォルニア州サンフランシスコベイエリアにて創業されたスタートアップ。同社が展開するサービスは、衛星やドローンの画像を使用して3Dマップを作成。そして、そのデータを元にハードニングのプランを構成して、提携業者に工事を依頼するというものです。
CEOのJahan Khanna(ジャハン・カンナ)氏はUberの元プロダクト責任者という経験を持つ人物で、弟のSharuk Khanna(シャルク・カンナ)氏とRob Moran(ロブ・モラン)氏の3人で同社を設立しました。カンナ氏は初期のライドシェアリングスタートアップ、Sidecar(サイドカー)の共同ファウンダー兼CTOで、モラン氏は同社の初期従業員の1人だったそうです。
カンナ氏は同社の設立以前、ソーラー関連の事業展開を考えていましたが、多くの人々に「カリフォルニア州では山火事で燃えてしまうので、何も建てられない」と言われ、火災ハードニング事業に興味を持ったとのこと。そして、同業界について調べて行くうちに、多くの利用者が安価かつスピーディーなハードニングを求めていることを知り、同社を設立。
同社は2021年8月にシードラウンドの資金調達を行なっており、AndreessenHorowitz(アンドリーセンホロウィッツ )やUber TechnologiesIncの最高経営責任者であるDaraKhosrowshahi(ダラ・コスロシャヒ)氏などから、550万ドル(約6億3,300万円)を調達。
それでは、こうして注目を集めるfiremapsが展開するサービスとは一体どのようなものなのか、詳しく見ていきましょう。
Firemapsが展開するサービスは請負業社から徴収する手数料で成り立っており、住宅所有者は無料で利用する事ができます。そして、同社のサービスの最大の特徴は、スピーディーかつシームレスなサービス形態。サービス利用の流れは非常に簡単で、下記の様なプロセスで契約が進んでいきます。
同社Webサイトに住所を入力をすると、衛星画像を元に住宅のリスク評価が行われる。
1で行われた事前の評価でリスクが高いとされた住宅については、同社によって認定された検査官の1人が派遣され、ドローンによる住宅の撮影が20分程行われます。そして、撮影されたデータを元に、3Dマップが作成され、1cm以内の精度で家の景観・地形・換気口の構造・デッキの構造・屋根の状態・ポーチやデッキの脆弱性などの詳細をレンダリングして確認が可能。
1〜2で得られた詳細な住宅情報やリスク評価を元に、ハードニングのプラン提案及び打ち合わせが行われます。提案されるハードニングのプランは、地域の消防署の指導内容や住宅所有者の保険要件などを考慮した内容となっています。また、データを元に自治体から受け取ることができる助成金なども自動で算出されるので、より良いプランの作成が可能。
作成されたハードニングプランは、同社のマーケットプレイスに参加している請負業者に公開され、請負業者がそれを入札します。そして、入札した請負業者は同社によって作成された詳細なプランを元に工事を進めていきます。請負業社は同社のサービスを利用する為に手数料を支払わなければなりませんが、煩雑な打ち合わせや手続きを踏まずとも、プロジェクトを獲得する事が可能になります。
従来であれば、これらの1~4の工程には数ヶ月掛かる事もありましたが、同社のサービスでは全ての行程を3週間ほどで完了する事が可能です。工事の規模にもよりますが、実際の事例では、2週間で入札までが終了し、2日間で作業が完了したという事例も挙げられています。また、工事完了後も同サービスを通した定期的なメンテナンスが可能で、利用者は常に最適な状態のハードニングを維持する事が出来ます。
同社では大きく分けて2種類のタイプのハードニングを行う事が出来ます。1つ目は住宅の改良で、スプリンクラーの設置や。屋根・窓・雨樋などのパーツを耐熱性の高いものへの変更。バルコニーやデッキなどに延焼を防ぐ塗料をコーティングしたりする事で、防火性を高めます。
2つ目は防火スペースの構築。ここでは森林と住宅の間の十分なスペース確保や、住宅付近に干ばつに強い植物や不燃性材料の設置、難燃性ジェルの散布などを行い、山火事が起きても火災の被害を受けにくい空間を構築します。また、住宅から道路へ続く道の整備を行う事によって、逃げ道を確保するだけでなく、火災対応チームの素早いアクセスを可能にします。
IBHS( Insurance Institute for Business & Home Safety )の調査によると、防火スペースの構築を行うことで、山火事が発生した際の防火率の90%向上が可能。加えて、住宅の改良を行う事によって、さらに50%の防火率の向上が見込まれるとのこと。
同サービスでは、住宅のハードニング状況や住宅情報を任意で保険会社や地方自治体と共有する事が可能。これらの情報共有によって、保険会社や自治体がどの程度の割合の住宅が山火事に対する安全対策が施されているかをすぐに確認することができるようになります。
アメリカの山火事の多い地域では、住宅に保険が適用されない事もありますが、ハードプランニングが施されている事によって、保険に加入しやすくなると共に保険の割引が適用される様にもなります。
そして、国や地方自治体は、同社のプラットフォームで情報を取得する事によって、地域ごとの火災リスクの管理が実現できます。また、利用者に関しては、同サービスを通して情報共有を行う事によって、自治体から助成金や税制優遇措置を受け取ることが可能です。
今回は山火事から住宅を守るハードニングサービスを展開するFiremapsをご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?同社は2021年に創業されたばかりのスタートアップですが、既に多くのユーザーが同社のサービスを利用しており、大きな期待が寄せられている事が伺えます。現在はカリフォルニア州でのサービス展開となっていますが、今後は多くの地域でのサービス展開が予想されますので、同社の動向に注目していきましょう。