建物の安全性を維持する上で、精密な点検を行うことは非常に重要です。ですが、足場を組み立てなければ点検ができない高所や、人が入ることができない狭隘な空間など、人力で点検を行うにはコストや危険が伴う箇所が建設現場には多数存在します。
そして、それらの問題を解決するため、昨今ではドローンを使った点検が多くの建設現場で普及しています。しかし実際は、障害物の関係でドローンが入っていけない箇所も多く、ドローンによる点検は限定的なものとなっている現状があります。
今回ご紹介するスイスの企業Flyability(フライアビリティー)は、独自の点検に特化したドローンを展開しており、従来のドローンでは行う事ができなかった箇所の点検を可能にしています。それでは、同社のサービスが一体どのようなものなのか詳しくみていきましょう!
Flyabilityは2014年にドローン先進国スイスにて創業されたスタートアップです。同社は点検に特化したドローンの開発及び販売を行なっており、現在世界50カ国以上で建設やエネルギー、警備などの様々な業界向けにサービスを展開しています。
創業者であるAdrienBriod氏(アドリアンブロイド)とPatrick Thevoz氏(パトリックテヴォス)は、スイスのドローン産業の中心とも言われる、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)にてロボット工学を専攻。在学中は危険で複雑な構造をした区域に人に代わってドローンを送り込むというテーマのもと、ドローン研究に取り組んでいました。
そして、そうした研究の中で、一般的なドローンは衝撃に弱く狭い区域での使用には適さないということから、障害を避けるのではなく”ぶつかる”ことのできるドローンを制作しようと考えました。その後、衝撃耐性型ドローンのアイデアを動画サイトで公開したところ、多くの反響が寄せられたため、両氏はEPFLのスピンオフ企業としてFlyabilityを起業。
同社は2020年12月にFuture IndustryVentures(フューチャーインダストリーベンチャーズ)とSwisscomVentures(スイスコムベンチャーズ)が主導するシリーズCラウンドで、700万ユーロ(約9億1700万円)の資金調達に成功。そして、同社はこれまでに計10ラウンドの資金調達を行っており、総額2660万ドル(約30億1,689万円)の資金調達に成功しています。
また、2017年にはスイスのスタートアップ支援企業ベンチャーラボが発表した「2017年のスイスのスタートアップトップ100」で3位に選出されるなど、大きく注目されています。
それでは、こうして注目を集めるFlyabilityの点検ドローンとは一体どのようなものなのか、早速見ていきましょう。
同社が展開するドローンには初期型のELIOSと最新型のELIOS2がありますが、今回は最新機種であるELIOS2についてご紹介させていただきます。
Flyability社が展開するドローン最大の魅力は、通常のドローンでは点検する事ができない配管の入り組んだトンネル内や屋内の狭隘な空間などでも、40cm程度の幅があれば点検する事ができるという点にあります。
通常のドローンは屋内などの閉所では障害物への衝突を避ける事ができず使用する事ができませんが、ELIOS2はアームやカメラ部分に取り付けられた7つのセンサーによって、周囲や対象物との距離を測りながら飛行を行う為、障害物に接触する事なく点検を行う事が可能となりました。
このような精度の高い飛行が可能な事によって、触れると崩落の危険性がある狭い箇所においてもドローンを使用した点検ができるようになります。
また、機体は炭素繊維素材でできたケージで覆われていると共に、障害物に接触して機体姿勢が45度以上傾いた場合に、ローターを逆回転することで姿勢を維持するという機能も搭載されているので、常に安定した点検を実現します。
ELIOS 2の操縦はElios Ground Stationと呼ばれるコントローラーで行い、各種設定や飛行計画などは専用アプリケーションCOCKPIT2で設定する事ができます。操縦に際しては、常に壁などの対象物と一定の距離を保ちながら飛行することができる機能や、気圧センサーを利用した高度維持などのアシスト機能が備わっているため、専門的な知識や技術がなくとも、簡単に操縦を行えます。
また、こちらのコントローラーでは、リアルタイムで映像を確認しながらの操縦やドローンの詳細なステータス確認及び設定が可能です。
ELIOS 2は安定した長距離デジタル信号伝送によって、GPSが使えない環境下であっても操縦が行えます。加えて、ドローンと操縦者が地面や壁で隔てられた状況であっても操縦が可能。その距離は、密閉ボイラーの内部を調べる場合、パイロットがマンホールの入り口の横に立った状態で、100メートルを超える距離まで飛ばすことができます。また、地下の閉塞空間で点検を行う際に電波の送受信に制約がある場合は、RANGE EXTENDERと呼ばれる無線通信拡張ユニットを地下に垂らす事で、地下であっても安定した操縦が可能になります。
ELIOS 2は優れた飛行性能は去る事ながら、撮影機能やデータ処理にも長けています。上下180度駆動の4Kカメラや赤外線カメラが搭載され、正面・上方・下方の3には高輝度LEDライトも装備。明るく解像度の高い映像を送ることで、細かな傷や凹みもも見逃しません
また、配管などの閉所では塵とライトの反射により視界が悪くなる事がありますが、本機に搭載されたLEDライトには粉塵環境最適化の機能が備わっている為、そのような環境でもクリアな視界を保ち、良質な撮影をサポートします。
ELIOS2でキャプチャされた点検データは、INSPECTORと呼ばれるブルーイノベーション製のソフトウェアを利用する事によって、高度なデータ処理を行う事ができます。
INSPECTORを使わない標準のデータ処理では、飛行データとビデオの閲覧・興味のある箇所へのコメントの追加・Word又はPDFで報告書や静止画のエクスポートなどを行えますが、INSPECTORを利用すると、飛行後の3Dマップ作成・3Dマップで興味のある箇所の位置特定・映像の歪曲補正と2D距離計測などが可能に。この中でも特筆すべきは、優れた3Dモデリング及び3Dマッピング機能です。
3Dモデリング機能では、3D化された対象物の長さ・面積・体積などを計測することができます。これにより、写真だけでは伝わらなかった構造物の勾配や歪み、断面などを可視化することが可能になり、より精密な点検を行えます。
従来の点検では、発見した異常箇所とマップを照らし合わせる作業が必要でしたが、INSPECTORでは点検中にマークした異常箇所が反映された3D点群マップを飛行ログデータを基に作成が可能。この機能によって、異常箇所を空間座標で即座に把握することができるようになり、点検作業後の補修を効率的かつ正確に行う事ができます。
ここまでご紹介させていただいたFlyabilityの点検ドローンですが、日本ではBlue innovation(ブルーイノベーション)が販売代理店となりサービスを展開しています。そして建設現場での活用は勿論の事ながら、エネルギー施設のダクトやタンク内部・下水道や施設の地下空間・船舶のバラストタンク・鉱山の縦孔内など様々な場所で活用されています。
また、2011年3月11日に福島で起きた原子力発電所の事故をきっかけに開発された、ELIOS 2 RADと呼ばれる放射線の検知・計測ができるドローンも2021年10月から展開。今後は原発施設の安全管理に活用されていく事が期待されています。
今回は点検用ドローンを展開するFlyabilityについてご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?同社のドローンによって、作業効率が上がるだけではなく、建設及び作業員の安全性が大幅に向上することが期待されます。今回ご紹介したFlyability以外にも、当メディアではSkycatchなどの建設ドローン関連企業についても取り上げておりますので、是非チェックしてみて下さい。