インフラ設備の故障は産業や人々の生活に大きな損失をもたらします。アメリカでは1930年代のニューディール政策期に建設された社会インフラの老朽化が1980年代頃に問題化したことから、現在は米国土木学会から4年に1度、社会インフラ調査報告「Infrastructure Report Card」が公表されています。2021年度の報告書では、アメリカ全土の社会インフラに対する評価は5段階のうち3段階目の「C-」の評価となり、適切とされる「B」には及んでいません。(注1)
そうした中で注目されているのが、設備や施設の維持管理を費用効率的に行うためのインフラメンテナンスのデジタル化です。具体的には、インフラの状態データや人口動態等の社会経済状況から将来の利益やコストを予測し、限られた予算の中で最適な整備・維持管理の戦略を立てることが重要視されており、そのためのデータ収集・分析のためのロボティクスの活用や、戦略策定のためのソフトウェアの開発が進んでいるのです。
今回ご紹介するGecko Robotics(ゲッコー ロボティクス)はロボットによるインフラ設備検査サービスの開発運営を行っている企業です。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
注1:American Society of Civil Engineering(米国土木学会), 2021, ”Infrastructure Report Card”
参考:三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2018)「イギリス及びアメリカにおける近年の公共事業に対する取組と会計検査に関する調査研究-老朽化対策と官民連携の取組を中心としてー」
Gecko Roboticsは2013年にアメリカのペンシルベニア州ピッツバーグで創業された企業で、社会インフラの検査ロボット “TOKA”をはじめとする各種の設備検査技術の技術開発、および分析ツールの “Gecko Portal”(ゲッコー ポータル)の開発運営をしています。
2022年3月にはシリーズCラウンドで7,330万ドル(約97.7億円)を調達。この資金調達には成長著しいスタートアップヘッジファンドとして知られるXNが主導し、Founders Fund、XYZ、Drive Capital、Snowpoint Ventures、Joe Lonsdale、Mark Cuban、Gokul Rajaramなどが参加しました。これまでの累計調達額は1億2230万ドル(約163億円)となっています。
Gecko Roboticsが提供するインフラ検査ロボットは、非破壊検査(Non Distructive Testing, NDT)と呼ばれる検査手法に特化しています。NDTは橋梁や建築物、航空宇宙のみならず石油・ガス、電力、パルプ・製紙、化学産業など幅広い産業で使用されている検査手法で、超音波探傷などのNDT技術を活用して腐食、亀裂、溶接欠陥などの損傷とその位置を特定し、定量化します。このNDT技術に、検査データを整理・分析するソフトウェアを組み合わせることで、損傷や欠陥に対して適切な判断を下すためのサポートが可能となります。以上のように、ロボティクスとソフトウェアを導入することで、インフラ検査にかかるコストを抑制しながらも、危険な検査作業を行う人間を保護し、機器の不具合による怪我を防ぐという安全性の向上につなげることもできるのです。
動画のようにGecko Roboticsの検査ロボットは、滑らかな表面からリブ状の外装まで、さまざまな面上で移動・運搬する能力を持ち、曲線や円筒形の機械の中をどの方向にも移動することができます。さらに前面にはライトを備えており、照明の少ない場所でも使用したり、走行中に水を噴射することで、機械のオーバーヒートや機器全体のメンテナンスをおこなっています。これらの技術には電磁力が活用されています。
同社のロボット「TOKAシリーズ」には、TOKA 3、TOKA 4、TOKA 4 GZ、TOKA Flexがあり、それぞれ特定の状況下で性能を発揮するよう設計されています。例えば、TOKA 3は中型配管や高温面の検査に、TOKA 4はボイラーの壁や曲面の検査に適しています。ちなみに、TOKA 3は毎分60フィート、他のシリーズは毎分30フィートが最高速度となります。
Gecko Roboticsのロボットは従来の手作業では困難な膨大な量のデータを取得することも可能とします。例えば、RUG(Rapid Ultrasonic Gridding、 超音波グリッド)は、タンクやボイラーなどの設備をロボットが超音波で検査するものです。Gecko RoboticsのRUGの場合、12″ x 12″ から ¼” x ¼” (0.3 x 0.3m から 6 x 6mm) まで検査精度を調整することができ、検査ロボットに備え付けられたRUG機器を通じて取得されたデータから、腐食や環境影響により壁が薄くなった部分を特定するための「厚みグリッドマップ」が作成されます。最高温度275°F(135°C)のあらゆるフェライト系表面に適しています。一般的な RUG 検査と比較して、10 倍の検査時間で 1,000 倍のデータを収集できるとしています。
また、Gekko Roboticsは検査に必要とされる精度により使い分けができる、RUG(Rapid Ultrasonic Gridding、RUG)、Rapid AUT、PAUT(Phased Array UT)の4種類の検査技術を保有しています。これらの技術を組み合わせることで、設備全体のスクリーニングから細かい損傷メカニズムの検出まで、超音波検査の生産率を向上させています。
Gecko Roboticsが提供する分析ソフトウェア、Gecko Portal(ゲッコー ポータル)は、施設や設備の全体像のデータを取得し、可視化することができます。
上の動画で示されているように、Gecko Portalでは、検査ロボットが取得したデータを即時的にコンピュータ上でモデル化している様子が読み取れます。視覚的に分かりやすく色分けされており、施設や設備の壁厚が相対的に薄い部分を容易に認識できるようになっています。戦術のRUGでは、設備の壁面が薄い部分、つまり機械的な完全性が損なわれ故障が予測される部分を簡単に特定することができるのです。
2次元の平面図は、問題箇所を特定する最も効率的な方法といえます。タンク、パイプ、または圧力容器に、モデルの各グリッドの位置を重ね合わせることで、プラントのメンテナンス担当者は問題箇所を迅速に特定することができます。施設検査に関わるダウンタイムを最小限に抑えるためには、こうしたモデル化は必要不可欠だといえるでしょう。
また、検査データの3次元モデル化も可能です。3次元モデルとすることにより問題箇所の状況を全体的に理解することができます。例えば、地上貯蔵タンクの充填ラインレベルでよく見られる腐食は水平方向に進む場合が多く、そうした欠陥箇所の傾向を掴むことができるのです。
いかがでしたか?今回はインフラ検査ロボットと分析ツールを提供するGecko Roboticsをご紹介しました。
現在Gecko Roboticsは、石油・ガス、エネルギー、防衛など、最も脆弱なインフラを持つ重要な産業の支援に注力していますが、今回の資金調達を受けてサービスを隣接する産業にも拡大していくことを目指しています。今後の同社の展開が注目されます。