アメリカの住宅流通市場における新築物件の割合はたった10%だといわれています。背景には古い家を修繕しながら長く使う文化や、住宅の資産価値が下がりにくいこと、さらに、家を建てるまでに数年以上を要することが理由としてあります。また、新築戸建てのうち約90%を占める建売住宅市場では、新規参入コストの高さからホームビルダーが従来の工法に固執するため、住宅の品質は画一化されており、デザイン、テクノロジー、サービス等様々な面でイノベーションが進んでいません。
一方で、以上のトレンドにも変化が起きています。昨今新築住宅の着工件数は増加傾向にあり(注1)、さらに古い住宅設備を新らしい住宅設備へと交換したり、スマート機器を導入するといった需要も増加しています(注2)。また、全世界的なトレンドとしてスマートホームの着工数が増加していくことも見込まれています。調査によると2021年から2026年にかけてスマートホーム市場の成長率は年平均で25.3%となると予測されています(注3)。
そこで今回ご紹介するHOMMA, Inc.(ホンマ、以下HOMMA)は、日本の住宅設備や関連製品をアメリカに持ち込むことで、住宅にIoT技術とソフトウェアを導入したスマートホームの建売住宅事業を行っています。日本では、システムキッチンやユニットバスといった住宅設備や、住宅設備をモジュール化して現地でインストールするプレハブ工法が発達しており、住宅を比較的短期間で効率的に建設することができますが、こうした技術を通じて米国の住宅市場をアップデートすることを目指しているのです。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
注1:米国勢調査局 「New Residential Construction」
注2:Wakefield Research「米国スマートホーム市場についての調査」
注3:Mordor Intelligence 「GLOBAL SMART HOMES MARKET – GROWTH, TRENDS, COVID-19 IMPACT, AND FORECASTS (2021 – 2026) 」
HOMMA, Inc.(ホンマ、以下HOMMA)はアメリカ合衆国カリフォルニア州に拠点を置く住宅ベンチャーで、2016年に日本人起業家の本間毅氏により創業されました。本間氏は、中央大学在学中にWebインテグレーションのイエルネットを設立しており、その後ソニーや楽天で新規事業開発を担当した経歴を持っています。
HOMMAは2021年10月15日にシリーズAのセカンドクローズとしてベンチャーキャピタルファンド「KUSABI」等を引受先とする6億円強の資金調達を実施しました。5月にはシリーズAのファーストクローズとして800万ドル(約8億9600万円)の資金調達を実施したばかりで、これまでの資金調達総額を約3190万ドル(36億3000万円)となっています。
出資は、B Dash Ventures(ビーダッシュ ベンチャーズ)、Mistletoe(ミストレトウ)、D4V(ディー フォー ヴィー)、レモンガス、城東テクノ、野原ホールディングス、Goldengate Investment Club(ゴールデンゲート インベストメント クラブ)といったベンチャー企業や戦略的投資家の他、新たにNTTドコモ・ベンチャーズ、コクヨ、プロパティエージェント、アクアクララ、サニーサイドアップといった企業が名を連ねており、今回の調達資金は製品開発を加速するための組織の強化・拡大に充当される予定です。
HOMMAのビジネスモデルは土地を取得して住宅を新築し販売する、従来の建売住宅ビジネスそのものです。現在は新規開発中のスマートハウスを市場に投入する段階にあり、2020年9月にHOMMA初のスマートハウス、HOMMA HAUS Waterside(ホンマ ハウス ウォーターサイド)が完成、2021年11月には18戸の開発プロジェクト(HOMMA HAUS Mount Tabor、ホンマ ハウス マウント テイバー)の完成を見込み、2022年以降に向けて、”HOMMA 100”というコンパクト住宅の開発プロジェクトを予定しています。
既存のスマートホームの問題点として、スマート機器を既存住宅に導入したのみで各スマート機器間の連動がうまくいかないといったことが挙げられます。例えばスマートスピーカーに照明の消灯スイッチを連動させているのに、照明の電源を落としていたがためにスマートスピーカーから音声で消灯ができないといった事例が頻繁に発生しているのです。
そこでHOMMAは、スマートホームデバイスを設計段階から住宅に組み込むことにしました。設計段階からスマート機器を導入することで、例えば、住宅の隅々に設置したセンサーを通じて気温や湿度のデータを収集し、住人の操作なしに快適な温度を保つように自動で冷暖房を操作することや、住人の動きや時間帯に合わせて照明や環境光を調整するといった、住人のUX(顧客体験)を重視した空間設計が可能となるのです。
スマートキーやセキュリティカメラ、照明等のハードウェアには既存の製品を利用しつつも、センサーや配線の位置を考慮した空間設計を行うことで、それらの機器を個別に制御するのではなく、HOMMAが独自に開発したモバイルアプリを通じて一元管理・操作ができるようになっています。また、居住環境に関する様々なデータを活用することにより、空調や照明を住人に合わせてパーソナライズすることもできます。
さらにHOMMAがこだわるのは、日本の住宅設備技術にIoTやソフトウェアを組み合わせたスマートホームです。日本の住宅設備は、デッドスペースの活用に工夫を凝らし、デザイン性と機能性を兼ね備えた製品が多く存在します。そこでHOMMAはサンワカンパニー、Panasonic Life Solutions Company of America(パナソニック ライフソリューションズ カンパニー オブ アメリカ)などの日本メーカーと提携し、一般的なアメリカの建売住宅とはことなる住環境を提供しています。例えば前者からは高機能のシステムキッチンやタイルなどを、後者からはIAQ(Indoor Air Quality、室内空気質)システムを導入し、住宅内の空気環境の自動制御をすることが可能としています。
HOMMAは米国のスマートホーム市場に日本の住宅設備関連製品を持ち込むことで、日本の住宅設備関連企業が米国に進出する際の足掛かりになるという構想も公表しています。
2020年9月に完成したHOMMA ONEでは、スマートホーム技術では「スマートオーケストレーション(画像参照)」の第一フェーズを実装しました。これは、住宅設備を音声認識によって制御する従来の制御システムとは異なり、部屋に実装されたセンサーと独自のルームエンジンが住人の動きを解析し、人の操作を必要とせずに、ライティングとブラインドを自動で調整するというものです。
このスマートオーケストレーション技術により、例えば住人が帰宅して入り口のドアを開ける際に、リビングの照明を自動で点灯させ、ブラインドを自動で開けるといったことが可能になります。
いかがでしたか?HOMMAは、アメリカの住宅市場にイノベーションを起こすことを目的に、デザイン性の高いスマートハウスの建売を手がけている企業で、新たなライフスタイルを提供するために、モダンデザインとIoT及びソフトウェアを組み合わせたスマートハウスを開発していました。
HOMMAの強みは、日本の住宅関連企業との積極的なパートナーシップを結び、日本の住宅設備技術を生かした住宅建設を行うことができるという点にあります。CEOの本間氏はインタビュー(注4)の中で「米住宅市場にリーチできていない日本の住設メーカーの入り口になっていきたい。」と述べています。同社はこれからどのように展開していくのか、今後の動向が注目されます。