以前の記事で紹介した米・ Apis Cor のように、現在世界中で3Dプリント建築の可能性に期待が高まっています。
ICONはアメリカで初となる3Dプリント住宅の建設に成功。2018年にはすでに建設許可を取得しています。
今後彼らによって、3Dプリント住宅が次々と造られていくでしょう。
この記事では、シードラウンドで900万ドルを調達したICONの可能性を、技術面・ビジネス面での独自性に着目しつつ考察します。
ICONはテキサス州オースティンに本拠地を置く、2017年設立の比較的若いスタートアップです。
ICONは、世界中の貧国地区の住宅不足解消に取り組むNPO団体 New Story と連携し、独自の3Dプリンタを開発。2018年3月にオースティンで、アメリカで最初の許認可を得た3Dプリント住宅の建設に成功しました。
この住宅は、3Dプリンタによる恒久的な住宅建設の実証実験として、制作時間24時間以内、制作費約1万ドルで建てられました。このプロジェクトの成功は従来より早く、また手ごろな価格での住宅建設の可能性を示唆しています。
また、ハイチやエルサルバドルの田園地帯といった電力供給が安定していない地域でも機能するように設計されており、世界中の住宅不足を解決することが期待されます。
ICONは、既に建設用3Dプリンターを内製化し、2019年3月には建設用プリンター「Vulcan Ⅱ」として商用化、2020年には広く受注を開始する予定です。
同様に建設用3Dプリンターの内製化を行っているApis Corの3Dプリンターがまだ商用化に至っていない点を考慮すると、ICONの技術の成熟が伺えます。
「Vulcan Ⅱ」は、組み立て不要で、プリント幅が自在に調節可能な構造です。プリント可能な高さは8.5フィート(約2.6メートル)、幅は28フィート(約8.5メートル)、水平方向毎秒5~7インチの高速3Dプリントを実現しました。レールユニットを延長することで、プリント距離を無制限に延ばすことができます。この技術により、住宅をコミュニティごと産み出すといったことが可能となります。
また「Vulcan Ⅱ」には、タブレットに対応した統合OSが付属しており、機械の操作を直感的でシンプルなユーザーインターフェースで行うことができます。
ICONの3Dプリンターは発展途上国などの十分なインフラや設備がない場所でも機能するように設計されています。
それを可能にするのが、どこでも原料調達が可能なポルトランドセメントベースの材料です。「lavacrete(マグマのコンクリート)」と呼ばれる材料は、既存の建築材料に引けを取らない6,000psiの強度を誇りながら、高速で3Dプリントが可能なようにICONが独自に配合しています。
3Dプリンタに自動的に材料を供給するシステム「Magma」も設計されており、内部の貯水池から得た水と添加剤、「lavacrete」を自動的に混合して「Vulcan Ⅱ」にボタン一つですぐに供給できるようになっています。
さて、ICONは900万ドル(約10億円)もの資金調達を成功させましたがその要因は何だったのでしょうか。いくつかの要因をまとめてみます。
3Dプリンターの市場規模は年々拡大しています。世界市場で2015~2021年の年平均成長率は16.7%、2021年の出荷台数は48万台にのぼると予測されています。航空・宇宙や自動車などの分野でも注目されており今後も成長していく市場です。
現在、世界では約10億人もの人々が住む場所を持っていないと言われています。彼らにとって健康的な生活が営める安価な住宅やシェルターは喫緊のニーズです。ICONの3Dプリント住宅はこれらの問題を解決できるスケーラビリティを持っています。この点も大きな注目を集める理由でしょう。
まだ若いベンチャーではありますが、実験住宅の成功を始め、機械やシステムの内製化にも成果を出しているなど高い実現性が窺い知れます。
ICONは「住宅建設の革命」を同社の使命として掲げています。
彼らは「住宅の建築方法は中世以来変わっていない」とし、そのため、近年の人口増加に伴う住宅需要に追いついておらず、世界的な住宅不足の問題を招いていると考えており、伝統的な住宅建築方法に代わる、効率的かつローコストな住宅供給を目指しています。
たしかに従来の住宅建設は、構法自体ここ数十年で大きく変わっておらず、多くの人員が必要になるため、おのずと膨大なコストが発生し、住宅といえば「人生で一番大きい買い物」のイメージが強いのが現状です。住宅建設のコストの高さは、途上国での住宅不足の解消を行う上で障害になっています。
ICONは極力効率的で人の手を介さない設計、システム化によって住宅建設の概念自体を大きく変えようとしています。3Dプリントのシステムによって人の手を介さずに建設プロセスが効率化できれば大きくコストダウンに寄与することが想像できます。
2019年の夏、ICONとNew Storyはエルサルバドルで世界初の3Dプリントで造られたコミュニティの建設に着手します。また、ICONは非営利団体、開発者、建築家、および金融サービスとの複数のパートナーシップも発表。今後、3Dプリンタ技術を世界中の非営利団体や政府に提供し、世界各地の住宅不足問題に取り組んでいく予定です。
ICONの3Dプリント住宅事業は、人の手を極力介さず、いかなる場所でも建設可能なスケーラビリティを持ちます。3Dプリント建設が住宅建設の概念を変える日は近いかもしれません。