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ソフトバンクGが2200億円を投じたKaterra(カテラ)経営破綻へ

  • サプライチェーンの垂直統合を目指すKaterra(カテラ)が2021年6月6日に破産を申請。Katerraに投じられた資金の総額は30億ドル(3300億円)にのぼる
  • パンデミックによる人件費や労働コストの高騰が経営破綻の直接的要因
  • 性急な事業拡大のため多様な建設プロジェクトを請け負った結果、垂直統合されたサプライチェーンが効率性を発揮できなかった

はじめに

画像引用元:The Wall Street Journal “How a SoftBank-Backed Construction Startup Burned Through $3 Billion” 未完成のまま放置されたKaterraの建設プロジェクト

2021年6月6日、ソフトバンクグループが約20億ドル(2200億円)を投じた建設スタートアップのKaterra Inc.(カテラ、以下Katerra)が経営破綻を発表しました。現在は一部の資産を売却し、海外事業を維持することを含む、連邦破産法第11条に基づく再建策を策定しています。

建設業界では設計から施工までのプロセスが水平分業され、非効率的で高コストであることが指摘されています。そこでKaterraは、建設業における全てのプロセスを垂直統合し、各プロセスをテクノロジーを用いて効率化することで、建設の全工程の生産性を改善することを目指していました。

本記事では、投資家からの注目も高かったKaterraがなぜ経営破綻することとなったのかについて詳しくお伝えします。

サプライチェーンの垂直統合を目指すKaterra(カテラ)とはどんな企業だったか

Katerra Inc.(カテラ、以下Katerra)は2015年にアメリカ合衆国カリフォルニア州にて創業された企業です。2015年の創業以来急成長を遂げ、2018年にはシリーズDでソフトバンクGを筆頭株主として8億7500万ドル(962億円)の資金調達を獲得しました。しかしその後業績は低迷。新型コロナウイルスによる原料や労働コストの高騰が状況をさらに悪化させ、2020年末にはソフトバンクGより再建のための費用として2億ドル(約220億)の出資を受けていました。

ソフトバンクGの他、ソロス・ファンド・マネジメント・エルエルシー(Soros Fund Management LLC)、ソニー・ミュージックエンタテインメント(Sony Music Agency)を筆頭に、総額30億ドル(3300億円)の資金調達を実施しており、企業価値の評価額はピーク時で60億ドル(6600億円)に達しています。

画像引用元:Katerra公式ホームページ

Katerraのアイデアとは、①サプライチェーンの垂直統合、②テクノロジーを用いた設計から製造まで全過程の規格化、③さらに工場で建設部品のモジュールを製造し現場で組み立てるプレハブ化の導入の3点に集約されます。建設プロジェクトの設計段階から完了までを一気通貫してマネジメントし、さらに各プロセスを最適化することで、建設コストを抑制することを目指していました。

建設業界のサプライチェーンの垂直統合のために、Katerraはこれまでに数多くの建設関連企業を買収しています。主なものとして、インドに拠点を置く建設設計事務所のKGD(ケージーディー)や、米国の建設設計事務所のLord Aeck Sargent(ロード エック サージェント)、商業施設と住居用建物を中心に扱う総合建設事業者のUEB Builders(ユーイービー ビルダーズ)、複数世帯向け住居建物を中心に扱う総合建設事業者のFortune-Johnson (F-J) General Contractors(フォーチューン ゼネラル コントラクターズ)などがあります。

Katerraは、2018年のシリーズDの資金調達を行った頃には、住宅から病院、学生寮などの新築物件について、合計13億ドル(約1430億円)分の建設プロジェクトを受注していました。

経営破綻の背景

画像引用元:Katerra公式ホームページ

Katerraの経営破綻の直接的要因は、新型コロナウイルスの感染拡大による人件費や労働コストの高騰であるとされています。実際にKaterraは、2020年に数回のレイオフを実施し、全世界で8,500人以上いた従業員を2,400人にまで削減しています。

Katerraの業績悪化は新型コロナウイルスの感染拡大以前の2019年から指摘されていました。例えば2019年の業績目標は年間売上高17億ドル(1870億円)、プロジェクト受注額は150億ドル(1兆6500億円)でしたが、建設プロジェクトの遅延やキャンセルによりこれらの業績目標は達成されませんでした。さらに、Katerraは投資会社向けの決算報告において10億ドル(1100億円)超の金額を水増ししたとして、SEC(証券等監視委員会)の調査を受ける事態にまで発展していました。

性急な事業拡大により、垂直統合されたサプライチェーンが効率性を発揮できず

画像引用元:The Wall Street Journal “How a SoftBank-Backed Construction Startup Burned Through $3 Billion” 未完成のまま放置されたKaterraの建設プロジェクト2

米Wall Street Journal紙のインタビューによると、Katerraは収益を上げるための契約受注の拡大を急ぐ一方で、垂直統合されたサプライチェーンを効率的に稼働させ、十分な安さと速さでプロジェクトに提供する体制が構築できなかったとされています。

例えば単一の種類の建物を大量生産するのではなく、オフィス、ホテル、一戸建て、集合住宅など、さまざまな種類の建物を建設する場合、工場でプレハブ部品を大量生産することが難しくなります。当然のことながら、3階建てのマンション用に設計された壁パネルは10階建てのビルには使えないため、コストを下げることができなかったのです。

画像引用元:Katerra公式ホームページ

その結果、Katerraの工場で生産された部品を使って建物を設計しても、部品の供給体制が整わずにプロジェクトの遅延が発生するといった事象が発生していました。楽観的な予測に基づく価格で契約を結んだ後、社内の見積もりチームに実際のコストを確認させると数百万ドルの差が生じることもしばしばあったといいます。また、Katerraが買収したコントラクターは、Katerraの自社工場から部品を買い付けることを忌避し、以前からの元請けや買い付け先を選ぶといった事態も発生していました。

以上のような供給体制の遅れは、垂直統合・自動化されたサプライチェーンの構築の難しさを物語っています。

英金融会社グリーンシルキャピタルの経営破綻

画像引用元:Katerra公式ホームページ

Katerraの経営破綻に先立つ2021年3月8日、英国の金融会社Greensill Capital(グリーンシル キャピタル)が経営破綻しました。Greensill Capitalは、ソフトバンクGの出資を受けている金融会社で、Katerraにも4億4,000万ドルの貸付けを行っています。

Greensill Capitalの主力商品は、「売掛債権担保融資」と呼ばれるもので、企業が顧客から支払いを受けるまでの運転資金について請求書を担保として融資を行うものです。そしてこの売掛債権担保融資を証券化して金融機関に販売していました。

米Economist紙によると、問題となっているのは、リスクの高い投資へのガバナンスです。2019年5月より、Greensill Capitalは総額14億ドルの投資をソフトバンクGから受けていますが、Greensill CapitalはソフトバンクGが投資する企業のうちリスクの高い企業への融資を行う役割をになっていたことが指摘されています。KaterraはGreensill Capitalの経営破綻により資金の貸し手を失い、破産を申請したと見ることもできるでしょう。

まとめ

いかがでしたか?2015年に創業されたKaterraは建設スタートアップとしては異例の巨額の資金調達を実施し、注目を集めてきました。建設の全ての工程を垂直統合し、自動化、効率化するというアイデアは受け入れられたものの、実際に垂直統合され自動化されたサプライチェーンの構築には失敗しているといえるでしょう。

ソフトバンクGにとってKaterraの経営破綻は、WeWork(ウィ ワーク)に続く大規模な損失の事例として残ることになります。建設スタートアップへの投資熱への影響も決して小さくはないでしょう。今後の市場の動向が注目されます。