2019年度、中国における新築・中古・賃貸住宅市場は22兆3千億元(約340兆円)で、2024年度までに30兆7千億元(約470兆円)に成長することが見込まれています。
ただでさえ巨大な住宅市場ですが、その中でも投資家や起業家から熱い視線が注がれるのが不動産テック。旧態依然とした商習慣、住宅の売り手と買い手間の情報の非対称性の大きさ、不動産業務の非効率性が課題とされており、これらを情報技術活用を通じて解決することで売り手と買い手、仲介業者の三者の利益を高めることが期待されています。
今回ご紹介する貝殻找房は、中国最大の不動産取引プラットフォームを運営しています。年間取扱総額は約32兆円にも上り、創業3年で新規上場を果たしました。一体どのような企業なのでしょうか?詳しく見ていきましょう。
貝殻找房は、中国の不動産仲介の鍵家(リエンジャー Lianjia)の子会社として設立されました。鍵家は「市場価格と売却価格の差を小さくする」というコンセプトの下、オフライン店舗の不動産仲介事業を展開しています。「一定期間内に売却を成立させる」という条件で住宅オーナーから物件情報を取得する「独占販売権」という仕組みで多くの物件を確保。2018年時点で50%の市場シェアを誇るまでに成長しました。
2017年、鍵家の子会社として設立された貝殻找房は、不動産エージェントと物件を探している消費者のマッチングプラットフォーム「Beike Platform(ベイク プラットフォーム)をリリース。リリース当初は鍵家の保有する物件情報を活用していましたが、その後急拡大。ACN(後述)という仕組みを活用して不動産エージェントやオフライン店舗のサービス登録者を拡大します。
2020年3月までにテンセント、ソフトバンクビジョンファンド、セコイアキャピタルなど名だたる投資会社からの調達を受け、現在は親会社の鍵家を傘下に組み込んだ体制が成立し、2020年8月にはNY証券取引市場への新規上場を果たしました。上場初日に株価は公開価格から87%も上昇、11月には時価総額7兆円を突破しました。これは不動産テック企業として注目されている米国企業Zillowの約3倍に及びます。
2019年の取扱高は前年比84.5%増の2兆1,277億元(約32兆円)で、現在の急成長を考えると1社の取扱額で日本の不動産市場46.5兆円へに迫る勢いがあります。さらに2020年上期のGTV(総取引額)は前年同期比49.4%増の1兆3,291億元(約20兆円)と、コロナ禍でも成長が続いています。
2019年の売上は460億元(約6,900億円)、2020年上期には273億元(約4,090億円)となっており、黒字化はまだですが、サイト構築・運営費用研究開発に昨年16億元(約255億円)を投じ、一般管理コストとして84億元と投資を継続しています。
物件情報を集める不動産のオンラインプラットフォームには、いくつもの競合が存在します。その中で貝殻找房が最大の物件情報網を構築できた理由の一つが「エージェント・コーポレーション・ネットワーク(ACN)」です。
ACNとは、不動産エージェントやオフライン店舗が持つ物件情報を登録、公開することで、他社が公開する物件情報へのアクセス、取引ができる仕組みのこと。米国の不動産情報公開の仕組み(MLS Multiple Listing Service)が応用されています。ACNでは会員となった事業者が「Beike Score(ベイクスコア)」を通じて評価されます。成約件数ではなく各プロセスのサービス品質が評価されることとなり、事業者には信用構築のインセンティブが発生するのです。
貝殻找房はACN上の事業者に物件情報への平等なアクセスを保障する一方、取引サービス品質を高める競争へと誘導することで、オンラインでの取引を活性化させています。2020年6月時点での会員不動産店舗数は4万2,247店舗(2019年末比12.6%増、エージェント数は45万6,047事業者(2019年末比27.5%増)になるといいます。
貝殻找房のプラットフォームでは賃貸・購入、新築・中古、住居用・事業用など、様々に条件をカスタマイズして物件を検索することができます。こうした検索精度の改善と合わせて同社が力を入れてきたのが、消費者を獲得する仕組みの構築です。
貝殻找房の筆頭株主であるテンセントが運営するWeChat(微信、ウィチャット)は、月間10億人以上が利用するメッセージアプリです。このWeChat上で多様なサービスを利用できるのが「WeChat ミニプログラム」。ホテルや交通手段の予約から公共サービスの利用まで、様々な外部事業者のサービスを利用できるのが特徴で、WeChat利用者の約7割が月に1度以上ミニプログラムを利用しているといいます。
貝殻找房はこのミニプログラム上に「Beike プラットフォーム」を設置し、住宅を探している買い手を獲得しています。「Beike プラットフォーム」のモバイルサービスの月間利用者数は3900万人、そのうち77%のユーザーはWeChatのミニプログラムを経由して利用しているといい、ミニプログラムが消費者獲得の大きな手段となっていることが伺えます。
さらに貝殻找房は、面倒な内覧がオンラインでできる「REALSEE VR(リアルシー ブイアール)」というサービスを開発しました。これは、「パノラマカメラ、スマートフォン、三脚」さえあれば物件のVRコンテンツを作成できるというもので、作成されたVRコンテンツはパソコンやスマートフォン、VRヘッドセットを通して確認することができます。
このシステムの強みは、簡単に高精度のVRコンテンツが作成できてしまうところ。アプリを通して指示通りに撮影するだけでよく、高価な撮影機材や撮影技術不要。撮影自体は20分で終了します。撮影された画像は、ディープニューラルネットワーク、データアノテーション、画像分割、画像認識などのAI技術を広範に活用して加工され、VRコンテンツが作成されます。完成したコンテンツは画像つなぎ目の結合精度がほぼ100%、遠近感を表す深度推定の誤差はわずか4.23%と世界最高水準の精度だといいます。
この「REALSEE VR」によってVRコンテンツが作成された物件は中国国内だけで500万件に上り、サービス導入後、貝殻找房のユーザー1人当たりの利用時間は平均150%増、担当スタッフが同行しての物件内覧の効率は16.6%も向上しました。
このオンライン内覧サービスは、導入から2020年5月までにのべ8億6千万回の利用があり、ユーザーの平均滞在時間は約7分32秒、契約に至ったユーザーは平均7.5件のオンライン内覧を実施しているということで、オンライン内覧が消費者の体験を向上させることが分かります。
今回は中国最大の不動産テック企業、貝殻找房についてご紹介しました。オンライン化が送れていた不動産領域において、独自の仕組みを構築することで中国最大の不動産テック企業に成長しました。
貝殻找房は日本でもサービスの提供を発表しています。2020年6月、日本の不動産テック企業である株式会社GA Technologiesと貝殻找房が提携を発表をしました。すでにGA Technologiesが運営する不動産仲介事業でVRコンテンツの提供が始まっており、同社は今後はオンライン内覧を強化し、2020年11月までに2,000件の掲載を目指すとしています。
日本でも、情報技術による不動産業界の刷新を目指す流れが起きつつあります。不動産テック業界の今後の展開が期待されます。