建設産業はCO2排出による環境負担が大きい産業の一つです。世界グリーンビルディング協会の2017年の報告書によると、全世界のエネルギー関連のCO2排出量のうち39%は建設産業に関わるものとされています。それらのエネルギー消費の多くは、建設資材となる鉄やセメントを製造する過程で発生していますが、建設現場における重機使用や建設資材運搬、梱包材、コンクリート型枠等の副産物によるCO2排出についても考慮する必要があります。
今回ご紹介するLeko Labs SA(レコ ラブス、以下Leko Labs)は、鉄やコンクリートに代わる高強度の木の建材を活用した木造住宅製造技術の開発と、ロボットによるオフサイト建設を通じて、鉄やセメントを使わない環境に優しい住宅製造技術開発を行っている企業です。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
Leko Labsは2017年にルクセンブルグのFoertz(フォエッツ)にて創業された、木造住宅製造技術を開発する企業です。2022年2月にシリーズAで1860万ユーロ(約25億円)を調達し、累計調達額を2100万ドル(約27億700万円)としました。主な株主として都市サステイナビリティ関連の投資を行っている2150、温暖化に関連する技術開発企業への投資を行っているMicrosoft’s Climate Innovation Fund、 その他にTencent、 AMAVI、 Rise PropTech Fund、Extantia、Freigeistなどが参画しています。筆頭株主の2150は低炭素セメントのCarbonCureへの投資も実施しており、低炭素建設分野をリードする投資家の一つと言えます。
環境負荷の少ない住宅製造を目指すLeko Labsのアプローチは、木材を利用した建材の技術開発です。鉄やコンクリートは製造過程でCO2が排出されてしまいますが、木材は成長過程で空気中のCO2を体内に蓄えるためカーボンフットプリント(注)を抑制することができるとされています。低ヨーロッパの森林のバイオマスに蓄積された木材の量は5億5,000万m³、炭素の重さは過去30年間で50%増加しており(SoEF 2020)、サステイナブルな林業から供給された場合、つまり木材のために伐採された木が再植され、材料や建物の寿命が長く生産性が高いと仮定すると、従来のコンクリートと鉄を使った建築物と比較して大幅にCO2排出量を抑制することができるのです。
Leko Labsが開発した試験住宅による比較では、コンクリート製住宅に比べて建設コストを1戸あたり10%、CO2排出量を900トン抑えることができ、また壁を40%薄くできることで10%居住面積を増やすことができたといいます。居住スペースを広くできることで市場における住宅価格を高め、さらに建設コストを抑制することにより、個人の環境配慮や政府による助成金に頼ることなく、住宅市場での経済的競争優位を確保できるのです。
(注)カーボンフットプリントとは、商品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量のこと(社団法人 産業環境管理協会「カーボンフットプリントコミュニケーションプログラム」公式ホームページ)。
Leko Labsの課題は高層住宅にも耐える木の建材を開発することでした。そこで開発された「アドバンスド・コンポジット構造」は、木材を直角に交互に組み合わせて作成したパネルに断熱材を組み合わせたもので、CLT(Cross Laminated Timber、直交集成板)の1種です。
この構造は都市部の多層建築における高い圧縮荷重に耐えられるように設計されており、強度、断熱性、遮音性に優れるとともに、厚さを40%削減し、スペースを節約することに成功しました。従来の建物の地上にある鉄骨やコンクリートは、事実上すべて置き換えることができます。
Leko Labsはこの建材を活用することで、1つの建物の建設に使用されている鉄とコンクリートの最大75%を置き換えられるとしており、従来の課題であった高層建築における木の建材の活用を可能としています。
Leko Labsはロボット工学、先端材料、設計、ソフトウェア開発、生産技術、機械工学の専門知識を持つ15カ国30人の国際的な専門人材が雇用されており、すでに7つの国際特許を取得しています。この7つの特許をベースに、ロボットによる建設工程の自動化を進めています。
まず同社は、建築家のデジタル設計図を数分でLEKOの組み立てシステムに変換するソフトウェアを開発しました。機械学習を利用したこのソフトウェアは、建築家の仕様を満たすために、各壁に最適な木材の量を計算します。続いてこのソフトウェアは、建物の各壁のデジタルモデルを作成します。そのモデルをコンピューターから自動生産ラインに送り、木製のパーツをCNC*で切断し、ロボットで組み立てて壁を作る。この3つの工程を、2000平方メートル弱の製造工場で実施しています。
同社は年間最大500棟の生産能力を想定し、最小限の労働力を配置する小規模工場を、原材料の供給源や顧客の建設現場に近接するよう最適な場所に設置し、在庫を少なくし、長い輸送経路を避けることを考えています。
(注)CADなどのデータを用いて、切削や旋盤などをコンピューター制御すること。
Leko Labsが開発した建材によって建設された木造住宅は、優れた環境性能を持っています。前述の壁システムは断熱性に優れ、冷暖房による電力消費を最大87%削減します。また、建材に使用されている木が固定している炭素の総量は300トンに及び、建物のライフサイクルを通じてカーボンフットプリントがゼロとなる「カーボンニュートラル」を維持できるとしています。
いかがでしたか?今回は鉄やコンクリートに代わる木材建設資材の開発・活用と、ロボットによるオフサイト建設を通じて、環境に優しい木造住宅の製造技術開発を行っているLeko Labsをご紹介しました。
Leko Labsが開発したCLTであるアドバンスト・コンポジット構造を用いた壁、床システムを活用することで、従来のコンクリート住宅に比べ10%居住面積が広く、断熱性に優れた住宅を建設することができます。また、同社が開発したロボットによるオフサイト建設技術により、建設に関わるコストも大幅に削減できるのです。同社が今後どのように展開するのかが注目されます。