画像引用元:TG Gallagher Improves Prefabrication Processes with ManufactOn
皆さんは建設現場という言葉を耳にしたとき、資材を一から組み立てる様子をイメージするでしょうか?
しかし、現在の建設業界では、「オフサイト建築」が大きなトレンドとなっています。2011年のMcGraw Hill Constructionの調査によると、建築部材および構造物の製造会社のうち84%は工場で資材を構築・組み立て(プレハブ)を行い、建設現場に配送しているという結果が示されています。
工期を短縮できるというメリットがある一方で、このような「プレハブ工法」には欠点も存在します。それらの問題を解消するソリューションを提供しているのが、今回ご紹介するManufactOn(マニュファクトン)です。
ManufactOnは、建設の製造過程を最適化することを掲げて2014年にアメリカ合衆国マサチューセッツ州で創業されたスタートアップです。
建築予定地以外の場所で予め組み立て作業を行う「オフサイト建設」を念頭に置いて構築されたSaaSプラットフォームを提供しており、元請け企業から現場作業者までの全ての関係者が、資材の管理・建設計画・配送・現場での施工までをワンストップでより効率的に管理できるようになりました。
オフサイト建設が普及した理由として、都市特有の建設環境があげられます。
都市の建築物は年々密集する傾向にあります。そのため住居や公共施設が隣接している現場が増加し、作業や荷下ろしのスペース、作業員の駐車場の確保が難しくなりました。
こうした状況下で、建築資材の配送は騒音や渋滞を最小限に抑えるために厳しくコントロールしたり、現場での作業員数や作業時間を減らすなどの必要が生じ、郊外の工場で予め資材を構築・組み立て(プレハブ)する工法が普及しました。
しかし、オフサイト建設が普及すると、いくつもの建築資材が現場外の工場で同時に製造されるため、現場の管理者はそれらのパーツの製造状況や配送状況、現場に配送された後のパーツの管理が非常に煩雑になります。
このような背景のもと、都市環境からはプレハブ工法のサプライチェーンの効率化を、建設現場の管理者からは製造・配送工程の可視化を求める声が高まっていました。
プレハブ工法とは、建築資材を工場であらかじめ加工し、柱・屋根・床・壁、機械設備などの構造体(パーツ)を完成させた上で、建設予定地に搬入して組み立てる工法です。
プレハブ工法自体には歴史があり、アメリカにおいては20世紀初頭から、日本では1960年代より、この工法を用いた建築が普及しました。工場では製造物を標準化したり、ロボットによる生産が可能になるため、低コストで高品質の製品を出荷でき、廃材を少なく抑えられるというメリットがあります。
もとよりプレハブ工法には設計の不自由さや強度の低さが指摘されていましたが、プレハブ工法の需要の高まりから研究及び普及が進み、現在はこれらの技術的課題はほとんど克服されています。
同社の創業者兼CEO、Raghi Iyengar氏は、CADソフトウェア(2次元・3次元での製図ツール)を提供するAutodesk Inc.(オートデスク)の出身であり、Autodeskとパートナーシップを結んでいます。
AutodeskのCADを利用して製図された3次元設計図はManufactOnのソフトウェア上で確認することができます。
また、ManufactOnはプレハブの製造計画・配送・品質管理・施工までをソフトウェア上で管理することができます。具体的には、ソフトウェア上ではタスクの進捗状況、期限、責任者、パーツの情報などを確認することができます。
ManufactOnは煩雑なパーツの管理問題に対し、上記のCADツールを提供したり、パーツの計画から施工までの高度な管理機能を実装することにより、資材管理から施工までのサプライチェーンを統合し、これらの煩雑さを解消することに成功しました。
ManufactOnを導入した企業の例として、TG Gallagher(ティージー ギャラガー)をご紹介します。
参照:https://youtu.be/7r4PX6cleCo
TG Gallagherはアメリカマサチューセッツ州ボストン郊外に本社を置く機械設備の会社で、空調・配管・消化設備・冷凍設備類の施工及びメンテナンスを主力事業としています。
近年都市の過密化に伴い、ボストン周辺の建設産業の需要は高まっていました。しかし同時に、より少ない予算と短い工期でのプロジェクト進行が求められるようになったということでもあり、TG Gallagherもこの要請に応える必要が生じました。
TG Gallagherは、このような建設環境の変化と需要の増加を受け、2000年代前半より機械設備のプレハブ化を開始しました。2003年に “Massachusetts General Hospital’s Yawkey Center” の建設プロジェクトで200平方メートルのプレハブ工場の借り入れを行ったことを皮切りに、プレハブを利用したプロジェクトが拡大し、2013年度には約3700平方メートルのプレハブ工場設備を購入しています。2014年度は工期の約15%がその工場内での作業で完結しています。
2015年、TG GallagherはManufactOnとの提携を決定し、プレハブの計画から現場施工までの管理をManufactOnのソフトウェア上に統合しました。
それまでTG Gallagherでは、プレハブ工法のサプライチェーンの管理や、施工現場での資材管理を、Excel・メール・電話等のツールで実行していましたが、ManufactOnのクラウドおよびモバイルソリューションが導入されたことにより、プレハブに関わる全ての作業工程がより簡単に管理できるようになりました。
さらに、現場の監督者がプレハブの製造および出荷の状況を各モジュールに付与されたQRコードを通じて追跡できるようになったことで、現場での作業の遅延や前倒しに合わせた効率的な配送ができるようになりました。
以下の画像はボストン大学の空調設備の設置作業の様子です
TG Gallagherは今後もプレハブ工法による建設プロジェクトを拡大させていく中で、ManufactOnと長期的なパートナーシップを続けていく考えを示しています。
プレハブ工法は、作業の一部を現場外の向上に移転するという一見シンプルな建築工法であるようにも思われますが、上記で見てきたようにその建設過程には複雑さを伴います。ManufactOnが提供するソフトウェアは見事に上記の課題を解決したものだと言えるでしょう。
ManufactOnはAutodeskとのパートナーシップを結ぶにあたり、プレハブの計画から製造、施工までの統合をより一層強化していく方針を示しており、これからソフトウェアがどのような変化を遂げるのか、今後の動向に注目です。