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3Dプリンターも活用、プレハブ工法によりネットゼロ住宅を実現するMighty Buildings

  • 住宅市場は、製造過程においてコンクリートが排出する二酸化炭素と、住宅需要の増大という二つの課題に直面
  • Mighty Buildingsは、オフサイト工法、3Dプリンター、脱炭素コンクリートを組み合わせたネットゼロの住宅建設技術を開発
  • 同社の住宅建設モジュールキットは、従来の工法に比べて工期を1/3に短縮、耐久性を5倍に、廃棄物を99%削減する

はじめに

画像引用元 Mighty Buildings公式ホームページ

住宅供給は次の二つの課題に直面しています。一つは住宅製造に使われるコンクリートの環境負荷への対応です。コンクリートは製造過程で多くの二酸化炭素を排出しており、それが世界全体の二酸化炭素総排出総量に占める割合は8%にものぼると推定されています(U.S. Department of Energy, 2023)。

もう一つは都市部における住宅供給のひっ迫への対応です。全世界の住宅市場は2023年の40兆5000億ドルから、2032年までに72兆8000億ドルへと年平均で7.6%の高成長を続けると予測されています。これは新興国における人口増加と都市化、及び先進国における都市集住が主な要因となっています(Reserach and Markets 2024)。

今回ご紹介するMighty Buildings(マイティ ビルディングス)は、コンクリートの脱炭素化と、3Dプリントによるプレハブ住宅建設技術の開発を通じて、上記二つの課題にアタックしています。一体どのような企業でしょうか。詳しく見ていきましょう。

Mighty Buildingsとは?

Mighty Buildingsは2017年にアメリカのカリフォルニア州・オークレーにて創業された、3Dプリント技術を活用したプレハブ住宅開発のスタートアップです。2023年9月にシリーズBにて5200万ドル(約78億4000万円)の資金調達を実施し、合計調達額を1億5380万ドル(約231億7000万円)としました。リード投資家としてカリフォルニア州のVC、Bold Capital Partnersとサウジアラビアの国営企業であるサウジアラムコ傘下のWa’ed Venturesが参画。その他にKhosla Ventures、KB-Badgers、Decacorn CapitalKlaff RealtyArcTern VenturesCore Innovation CapitalMicroVentures、日本からもAbies Venturesが参画しています。直近の資金調達は特にサウジアラビアやドバイでの事業拡大、そして同社の次世代モジュール住宅建設キットの販売促進に充てられる予定です。

Mighty Buidlingsは元々、カリフォルニア州における住宅供給のひっ迫を受けて市場が拡大していたアクセサリー住戸(Accessory Dwelling Unit: ADU)のサプライヤーとして頭角を現した企業です。2017年にベンチャー投資家のSlava Solonitsyn(スラーヴァ・ソロニチン)氏と連続企業家のDmitry Starodubtsev(ディミトリ・スタロドツェフ)氏によって創業され、Yコンビネーターのアクセラレータプログラムに採択されました。2019年にADU
として初となる3Dプリント住戸のプロダクトを開発。アメリカで3Dプリンタによる建築物の製造に必要な許認可UL3401を受けた最初の企業となりました(Abies Ventures 2022)。

2022年にはさらなるサステイナブル住宅の供給を目指し、住宅デベロッパー向けB2Bプラットフォームをローンチ。アメリカ国内の住宅デベロッパーとの関係構築を進めてきました。南カリフォルニアにて40戸強のコミュニティを開発するプロジェクトに参画し、プレハブ3Dプリントパネルを使ったネットゼロ住宅を世界で初めて建設しました。ここでのネットゼロ住宅とは、クリーンで再生可能な資源を活用することによって、消費エネルギーと同量以上のエネルギーを生産する住宅のこと。ネットゼロを目指すことは環境負荷の低減において非常に重要となります。

Mighty Buildingsの壁パネルの素材となっているコンクリートは、リサイクルガラスを60%使用した独自素材を3Dプリンターで層状に印刷していくことで製造されます。これは従来のコンクリートの5倍の強度を持ちながら、重量はその70%と軽く、製造時の二酸化炭素排出量を抑制することができるものです。当然のことながら、カリフォルニア州の建築基準法に準拠しています。

2022年にはADUをはじめとする住宅供給事業の売上が約500万ドル(約7億5600万円)に達したとしています。

最短4日で家が建つ住宅建設モジュールキットMighty Kit System™

画像引用元: Mighty Buildings公式ホームページ

同社はMighty Kit System™(マイティ・キット・システム: MKS)と呼ばれる、住宅建設モジュールキットの開発を行っています。建設3Dプリンターといえば建設現場にプリンターを設置し建設現場でプリントアウトをするという発想のプロダクトが主流となっています。しかしMighty Buidlingsでは、各モジュールを工場で製造するプレファブリケーション方式を採用。壁面パネルなどの製造過程で3Dプリンターを活用しています。

モジュールは大きく次の7つにて構成されます。①3Dプリントされたパネル、②汎用性の高い構造システム、③窓、④外部ドア、⑤防水処理が施された屋根とフロア、⑥給水管を壁面に通すヘッダー構造のパネルと屋根を支える膝壁、そして⑦土台となる基礎です。

画像引用元:Mighty Buildings公式ホームページ(左がMKS® 2.0、右がMKS® BASE)

壁面パネルには2種類が用意されており、それぞれMKS® 2.0、MKS® BASEと呼ばれています。MKS® 2.0システムは完全な断熱、耐候性、塗装が施された製品で、MEP(給水設備)を内側に通すことも可能です。よりデザイン性にすぐれているのがBASEです。これは費用対効果が高く組み立てが簡単でありながら、酸化マグネシウム構造断熱コアと耐久性の高い3Dプリント被覆材を採用し、弾力性と持続可能性のために設計されており、耐火性と耐水性において業界最高基準を満たしています。

アメリカ及び中東での住宅供給事業を加速

画像引用元: Mighty Buildings公式ホームページ

Mighty Buildingsは住宅デベロッパーと共同して住宅fコミュニティの開発を進めています。現在カリフォルニア州の都市ランチョ・ミラージュでは28戸の3Dプリントプレハブ住戸の供給を予定しています。一戸当たりの面積は2300平方フィート(213平方メートル)で、各戸には3ベッドルーム、2.5バスルーム、1アクセサリー住戸、2カーガレージを備えられています。砂漠地帯という気候条件に耐える技術仕様、及び山並みの景観に沿ったデザインが採用されています。なお住戸の価格は明らかにされていません。

また、直近の資金調達を経て同社はサウジアラビア及びドバイ市場への進出を予定しています。両国は近年の住宅供給のひっ迫を受けて、住宅政策に力を入れています。とくに付加製造(Additive Construction: AC)ともいわれる3Dプリント住宅への投資を長期的なインフラ計画に位置付けています(3Dprint.com 2023)。さらにEUと米国は今後欧州と中東とインドを鉄道と海路で結ぶプロジェクトへの支援を発表しており、インド政府もここ最近急速にAC投資を積極的に進めています。Mighty Buildingsにとって中東は、住宅供給のインドや欧州などの国際市場への展開を見据える上で重要な場所であるとも言えます。

まとめ

画像引用元: Mighty Buildings公式ホームページ

いかがでしたか?今回は廃棄物の再生原料を活用したコンクリート素材の3Dプリントによる住宅建設モジュールキットを開発するMighty Buidlingsをご紹介しました。同社のコンクリートパネルは、リサイクルガラスを60%使用することで、従来のコンクリートの5倍の強度を持ち、重量を70%に抑制し、ネットゼロの住宅供給を可能にしています。住宅供給にもサステイナビリティがますます必要となっていくなかで、今後同社はどのように展開していくのでしょうか。今後の動向が注目されます。