Categories: 海外事例

コンクリート吹き付けをIoT技術でデジタル化するMobbot

  • スイスのスタートアップMobbot SA(モボット)は、コンクリートを造形する技術開発を行っている
  • 欧州原子核研究機構(CERN)の粒子加速器開発事業への参画を機に、トンネル内壁のコンクリート吹き付け技術を開発
  • 同社の製品はコンクリート吹き付けをデジタル化し、最適なコンクリート覆工を支援している

はじめに

画像引用元:Mobbot SA公式ホームページ

これまでDX(デジタルトランスフォーメーション)が比較的進んでいなかったコンクリート施工にも、デジタル化の波が訪れています。今回取り上げるのはコンクリートの吹き付け施工です。これはトンネルの内壁や斜面の保護などのために行われるもので、これまでの施工ではコンクリート厚や締め固めの管理は職人の腕に任されてきました。しかし昨今はセンサーやIoT技術の発達によるデジタル化が進みつつあります。

今回ご紹介するのは、コンクリート吹き付け工事をIoTを用いてデジタル化し、作業の効率化を支援するスイスのMobbot SA(モボット)です。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

Mobbotとは?

Mobbotは3DCP(3次元コンクリートプリンティング技術)開発を進めるスタートアップで、2018年にスイスのフリブールにて創業されました。創業当初のプロダクトは電線埋設用の中空コンクリートブロックを3Dプリンターで製造するというものでした。2021年からは新規のプロダクトとして、トンネル内壁保護などに用いられるコンクリート吹き付けロボット及びその制御システムの開発運営をしています。2020年6月にはシードラウンドにて290万スイス・フラン(約4億7400万円)を調達し、累計調達額を310万スイス・フラン(約5億700万円)としました。主要株主として、フランスのベンチャーキャピタルAngelsquar、スイスの社会事業向け大学発ベンチャーキャピタルであるVenture Kickが名を連ね、そのほかにTR InvestCapital Risque FribourgVerve Venture、同ファンド傘下のConstructive Venture FundMutschler Venturesが参画しています。

Mobbotのプロダクトの変遷を理解するためには、創業者兼CEOのAgnès Petit(アグネス ペティト)氏の来歴の理解が欠かせません。

彼女はチューリッヒ工科大学で宇宙科学の博士号を取得した科学者であり、建設素材開発の化学企業でコンクリート技術やマーケティング部門からキャリアをスタートさせました。25年にわたるコンクリート産業での経験から、都市インフラである電線管の保護コンクリートの敷設過程に注目。3Dプリンターで電線埋設用の中空コンクリートブロックを製造することで、工期や施工プロセスを効率化するというアイデアでMobbotを創業し、チューリッヒ市政府を顧客として都市インフラ事業を着実に成長させました。2021年からは自らの専門に立ち戻り、宇宙技術の最先端を担う世界最大の素粒子加速器で知られるスイスのジュネーブの欧州原子核研究機構(CERN)の事業に参画。素粒子加速器新設のために地下200~300mで工事が進む全長100kmの巨大トンネル開発への取り組みを開始しました。

Mobbotは本プロジェクトにおいて、トンネル掘削で排出される900万トンの土砂の一部をコンクリートに混ぜ込み、トンネル内部に吹き付けることで壁を補強する特許技術Mobbot®を開発し、廃棄される土砂の量を削減することに貢献しています。

コンクリート吹付をデジタル制御するMobbotの技術

画像引用元:Mobbot SA公式ホームページ

Mobbotのコンクリート吹き付けロボットには大きく3つの技術が貢献しています。
①ロボットアームの吹き付け距離を最適化する技術(Shotcrete Distance Optimizer)
②コンクリート厚を測定するスキャンニング技術(Concrete Thickness Scanner)
③プロセスのマネジメントをサポートするダッシュボード(Dashboard for Shotcrete Processes Optimization)

ロボットアームの吹き付け距離を最適化する技術(Shotcrete Distance Optimizer)

①の吹き付け距離最適化技術(DEP™)は、吹き付け面との距離を測るセンサーとセルフクリーニングシステムで構成されています。吹き付け機の先端に搭載されたこのシステムは、吹き付け面との適切な距離でライトが緑に点滅し、適切距離を外れると赤く点滅する仕組みです。適切な距離を保つことで吹き付けたコンクリートの締め固めが良くなり、リバウンド(跳ね返ったコンクリート)の発生量を減らすことができます。

②コンクリート厚を測定するスキャンニング技術(Concrete Thickness Scanner)

画像引用元:Mobbot SA公式ホームページ

②のコンクリート厚スキャン技術とは、吹き付け機に搭載されたセンサーが吹き付けたコンクリートの厚みをリアルタイムで監視していくものです。リアルタイムで壁に直接カラーマップとして表示され、作業員は吹き付けられたコンクリートの量を正確に把握しながら、カラーマップに合わせてノズルヘッドを調整することで、最適な厚みでコンクリートの吹き付け作業を実施することができます。

③プロセスのマネジメントをサポートするダッシュボード(Dashboard for Shotcrete Processes Optimization)

画像引用元:Mobbot SA公式ホームページ

③のダッシュボードとは、コンクリート吹き付け機に搭載された各種センターがトンネル内に開通させたネットワークを通じて機器にリアルタイムの作業データを送信し、作業者や管理者が手元のデバイスでコンクリートの使用量、硬化促進剤、時間あたり効率など様々な指標を確認することができるものです。

この各種作業データは単に可視化されるだけでなく、作業の効率化や異常の検知に役立てることができます。たとえばコンクリートの噴出圧力に異変が生じた際に、他の出力、たとえば硬化促進剤の使用状況等と照らし合わせることで、それが機械のどの部分に生じた以上なのかを早期に発見でき、作業効率の低下を抑えることができます。

さらにデジタルデータは人工知能との相性が良いこともポイントです。これまでの作業データを組み合わせて人工知能に学習させることで、より精度高く機器を制御し、質の高い施工へとつなげています。

まとめ

画像引用元:Mobbot公式ホームページ

いかがでしたか?今回はコンクリート吹き付けをIoTによってデジタル化するMobbot SAを取り上げました。Mobbotはコンクリート吹き付け機に搭載するセンサーにより、吹き付け面に対する距離最適化、吹き付け厚の最適化、作業時の各種指標のデジタル化とAIを用いた作業精度の向上を行っていました。同社はこれまでに粒子加速器用トンネルのほか、送電線および水道管用トンネルの施工においても実績をあげています。同社の今後の展開が注目されます。

補記)Mobbot SAは2023年10月をもってサービス提供を終了しました。