環境テックと呼ばれる分野で市場が年々拡大しています。とくに全世界の廃プラスチック処理、リサイクル、再利用市場は、2022年時点で357億1000万ドル(約5兆3220億円)のところ、2030年までに463億3000万ドル(約6兆9050億円)へと年平均3.3%で成長が見込まれており、この市場の50%をアジア地域が占めています(注)。以上の市場拡大は、各国の環境規制が強化されるなかで、より効率的な廃プラスチックマネジメントソリューションが求められていることに起因しています。
今回はニュージーランド発の廃プラスチックマネジメントソリューションを展開する企業、NILO Limited(ニロ、以下NILO)をご紹介します。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
注)Coherent Market Insight, 2023, “Plastic Waste Management Market Size Worth $46.33 Billion by 2030”
NILOは2017年にニュージーランドにて創業されたスタートアップで、廃プラスチックからローディング(路面)やレジン(工業用接着剤)を製造することで、プラスチックの廃棄量抑制を目指しています。2021年6月に、共にニュージーランドのVCであるTindall’s K1W1 fund 、Icehouse Ventures Sustainable Technology Fundより2000万ドル(約29億8000万円)を調達。2023年6月に北欧家具最大手のIKEA(イケア)が12.5%の株式を取得しました。直近のIKEAによる株式取得により、IKEAのイノベーションベンチャーズよりAndrew Mackintosh(アンドリュー マッキントッシュ)氏がNILOの経営陣に参画しています。
NILOを率いるのは連続起業家のTim Williams(ティム ウィリアムズ)氏、及びNASAの燃焼系部門でアドバイザーを務めるGlen Willoughby(グレン ウィルビー)氏です。Williams氏はバリューコマース(現ヤフー子会社)の創業者でもあり、日本のIT広告業界に17年間携わっていたという経歴を持ちます。
現在全世界で廃棄されるプラスチックは年間3億5000万トンで、うち91%がリサイクルされずに廃棄されています。これは2060年までに10億1400万トンにまで増加する見込み。排出量別ではOECD諸国における排出量が多く、一人当たり平均238kgのプラスチックを排出しています。それに対して非OECD諸国では77㎏となっています。NILOはこの無尽蔵とも呼べる原料に着目し、これをリサイクルする技術を開発しました。
注)NILO公式紹介動画へのリンクはこちら
NILOの技術は様々な種類のプラスチック廃棄物からレジン(工業用接着剤)を製造するものです。リサイクルされにくい膨大な量のプラスチック廃棄物を接着剤に変化させ、これを細かい木片にして混合させて固めることで、家具などに使用される木質ボードなどの産業製品を製造するのです。
この接着材は特許取得済のプロセスでクリーンかつ低エネルギーで、建設廃材や繊維素材、電子廃材などのほかの廃棄物と組み合わせて新素材を作り出す可能性が検討されているほか、路面などに使われるセメント材としても活用が期待されており、技術開発が進められています。また、現在一般的な建材に使われる有害物質のホルムアルデヒドを置き換えられる点に強みがあります。
直近の株式取得を行なったIKEAは2028年までに自社製品パッケージにおけるプラスチック使用をゼロにすることを掲げており、製品についてもEnvironmental Positive(環境に優しい)を推進しています。
NILOが製造する木質ボードは、2025年までにIKEAにて製品化される計画です。また2024年頭には、IKEAはニュージーランド第1号店となるオークランド店の設置に向けて着工を始めました。2025年末にオープンする予定の店舗は34,000m²の規模を誇ります。
NILOにとってIKEAとの協業は、これらの接着剤の性能と価格が既存の代替品と同等であることを保証し、バリューチェーンに容易に適応できることを照明するための資金石であるとともに、循環型経済の実現にとって不可欠な製造技術としての地位確立のための一歩となります。
いかがでしたか?今回は廃プラスチックから樹脂を製造し、木質ボード等としてリサイクルする技術を開発する、ニュージーランドのスタートアップ、NILOをご紹介しました。NILOは2023年のIKEAによる出資を受けて、2024年第一四半期までに同社としては初のパイロットプラントの製造に取り掛かる計画です。
廃プラスチックの活用技術によって経済圏を切り拓いていくことは、廃プラスチックの収集を世界中で加速させることにもつながります。環境課題をビジネスチャンスにするアイデアに学ぶところも大きいでしょう。今後の同社の動向が注目されます。