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「地下開発」の注目度が高まる!トンネル掘削機を開発するPetra

  • カルフォルニア州では山火事や暴風雪等の自然災害による被害抑制のため、インフラ設備の地下化が課題となっている
  • 従来の技術では大深度、硬質の岩盤掘削にはコストと時間がかかる
  • Petraは高温高圧ガスで岩盤を掘削する新技術、サーマルドリル工法を開発し、従来より30~90%安価な掘削が可能に

はじめに

画像引用元: 朝日新聞GLOBE+ 2019年12月17日 「『もういい。さよなら』 カリフォルニアの市民を動揺させる、地元の電力会社」

アメリカ合衆国カリフォルニア州では頻繁に山火事が発生しています。特に2019年10月に発生した山火事は、強風により切断された送電線からの失火が火災の発生原因となったことが分かっています。現在でも、火災発生の可能性が高い時期に送電線切断による山火事の発生を抑制するための計画停電が実行されており(注)、住民生活に負担が生じています。

地表面の送電設備は災害の原因になるばかりでなく、山火事や暴風雪等による損傷を受けやすく、自然災害に対して脆弱です。そこで検討されているのが、送電設備の地下化です。ただし送電設備を埋設する大深度、硬質の岩盤掘削には、従来の技術ではコストと時間がかかり採算が取れません。今回ご紹介するPetra, Inc.(ペトラ)は、1000度の高温高圧ガスを吹き付けて岩盤を掘削する技術、「サーマルドリル工法」を開発し、従来の技術に比べコストを30%~90%抑えることに成功しました。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

注) 朝日新聞GLOBE+ 2019年12月17日 「『もういい。さよなら』 カリフォルニアの市民を動揺させる、地元の電力会社」https://globe.asahi.com/article/12965165 (閲覧日2022/03/31)

新しい掘削技術を開発するPetraとは?

ペトラは2018年にアメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコにて創業されたスタートアップで、岩盤掘削の技術開発を行っています。2021年に3000万ドル(約36億4000万円)の資金調達を実施し、累計調達額を3300万ドル(約40億円)としました。主要な引受先としてはテクノロジーによる産業課題解決を謳うDCVCの他、ACME Capital、Congruent Ventures、8VC、Real Ventures、Elementum Ventures、Mac Venture Capitalが名を連ねています。

同社CEOのKim Abrams(キム エイブラムス)氏は、NASAのビジネス部門やAIロボットのスタートアップRipcord(リップコード)の創業経験を持つ起業家です。2018年にカリフォルニア州で発生した山火事の被害を受けたことをきっかけに当時ArcBytという社名で創業し、インフラを埋設するソリューションの技術開発を進めてきました。特に従来の掘削方法では対応できない硬岩地帯で、地中に送電網を設置するために熱核破砕掘削技術の改良に取り組んでいます。Tesla(テスラ)の共同創業者であり、電気自動車およびデータ通信技術の特許技術者のIan Wright(イアン・ライト)氏がCTOとして同社に参画しています。

地下開発に対する注目度は年々高まっており、送電設備故障により山火事を引き起こしたカリフォルニア州の電力会社PG&Eは、カリフォルニア州の中央部と北部で約16,000kmの送電設備を地下化することをすでに決定している他、バイデン大統領が署名した1兆3,000億ドルのインフラ法案の中で600億ドルが送電網に割り当てられています。また、Tesla(テスラ)のElon Musk(イーロン マスク)氏が率いるBoring Company(ボーリング カンパニー)は車両用の地下トンネルの開発を進めています。ただし、ボーリングカンパニーが自動車用の地下トンネルを計画しているのに対し、ペトラの焦点は公共施設に必要な20~60インチの小口径トンネルです。

以上のように地下開発への投資は今後加速していくことが予測されます。送電設備を地中に埋設する場合、地上に設置する場合と比べて約5倍から20倍のコストがかかりますが、一旦埋設できれば、メンテナンスコストは地上設備に比べてはるかに少なくなります。ペトラは将来的に事業者が送電設備を埋設できるまでに岩盤掘削のコストを下げることで、インフラ事業への参入を目指しているのです。

高温高圧ガスで岩盤を掘る「サーマルドリル工法」

画像引用元:Petra, Inc.公式ホームページ

ペトラは約1000度の高温高圧ガスを吹き付けることにより非接触で岩盤を掘削するロボット、Swifty(スイフティ)を開発しています。開発当初、プラズマトーチを用いて高温(約5500度)で岩を溶解する掘削技術が採用されていましたが、溶解したマグマの処理に課題が生じたため、高温(約1000度)高圧ガスで岩を破砕する技術へと変更されています。現時点では高温高圧ガスの成分等に関する技術詳細は公表されていません。

スイフティは半自動、遠隔で操作できる掘削機です。直径約20~60インチ(約0.5~1.5m)の穴を掘削可能で、砕いた岩は気圧差を利用して外に排出する仕組みです。ミネソタ州の採石場におけるトンネル掘削テストでは、コンクリートの約8倍の硬さに相当するスークォーツァイト(スー珪岩)に対し、1時間に約40フィート(約12m)で掘進を行いました。対応している地質は玄武岩、輝緑岩、花崗岩、ドロマイト、珪岩、斑れい岩、閃緑岩、片麻岩の8種類で、硬質の岩の掘削に特化しています。

画像引用元:Petra, Inc.公式ホームページ

従来のマイクロトンネル掘削(mTBM)、水平方向掘削(HDD)、トレンチレス工法では、カッターヘッドと呼ばれる部品が岩盤を直接砕くことで掘進します。これらの工法では計画される穴の直径に合わせてカッターヘッドをカスタマイズする必要があり、カッターヘッドが消耗したら交換が必要となります。一方ペトラが開発したSwiftyは、高温高圧ガスを吹き付けて岩盤を破砕することで掘進するため、穴の直径を50~150cmの範囲内で自由に設定でき、またカッターヘッドの消耗も抑えられます。そのため従来の工法に比べてコストを安価に抑えることができるのです。

掘削技術開発に参入する企業は増加しており、コロラド鉱山大学や中国・福建省のプロジェクトでは、カッターヘッド部分にウォータージェットを取り付け、掘削中に水を噴射することでカッターヘッドの負担を抑え、岩盤を軟らかくする技術がテストされています。また、掘削後に設置するパイプの3Dプリントを実現する「BADGER Project」(バガ-プロジェクト)や、敷設したパイプラインの検査に役立つハードウェア、ソフトウェアを開発するSilo AI、SewerAIといった企業があります。

まとめ

画像引用元:Petra, Inc.公式ホームページ

いかがでしたか?Petraは大深度、硬質の岩盤を掘削する新工法、「サーマルドリル工法」の技術開発を進めており、送電網などのインフラ設備の地下埋設コストを抑制していくことを目指しています。同社は2023年までにヨーロッパや中東、北アフリカ地域の市場への参入を目指しているとのことです。今後どのような展開をしていくのでしょうか。今後の動向が注目されます。