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特許取得数は100以上!鉄骨造建物の建設に特化して設計から施工までを最適化するPrescient

  • 鉄骨造とは、建物の基本構造に鉄や鋼を利用する施工法のこと。特に小さな三角形を組み合わせたトラス構造は強度があり、橋梁や体育館などの大規模建設で採用されている。
  • トラス構造は一般的に集合住宅では採用されないが、Prescientはトラス構造にプレハブ工法を組み合わせた独自の施工技術を開発し、集合住宅向けに提供している。
  • Prescientの鉄骨造は鉄筋コンクリートと比較して躯体工事費を20~25%削減でき、さらに施工期間も短縮することができる。

はじめに

画像引用元:Prescient Co Inc 公式ホームページ

建物の基本構造には、主に3種類の施工方法、「木造」「鉄筋コンクリート造」「鉄骨造」が採用されています。特に鉄骨造は少ない部材で構造を形成できるため自重が軽く、施工期間を短く抑えることができます。そのため、大規模な空間を必要とする建物で採用されています。

鉄骨造の中でもとりわけ特徴的なのが、「トラス構造」と呼ばれる組み方です。これは小さな三角形の構造を組み合わせて強度を高めるもので、橋梁や体育館などの大規模な建設物で採用されています。一方で、施工期間が比較的長くなるため、集合住宅など住居用の建設物には採用されてきませんでした。

今回ご紹介するPrescient(プレシエント)は、ソフトウェアとハードウェアの両面で独自の技術を開発し、施工期間やコストを抑えたトラス構造の躯体施工を実現しました。さらに、トラス構造を採用した施工技術を、マンションや高齢者住宅のような集合住宅向けにも提供しています。一体どのような技術が活用されているのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

鉄骨造建物の建設に特化して設計から施工までを最適化するPrescient

Prescient(プレシエント)は、鉄骨造建物の躯体工事、及びMEP(機械、電気、配管)設備工事やHVAC(空調)設備工事を提供している建設事業者です。2012年にコロラド州で創業されました。

同社の主力製品は、軽量鋼を用いたトラス構造の建物躯体の施工技術です。この技術は「統合トラス構造システム」(The Unified Truss Configuration System, UTCS)と呼ばれており、①トラス構造による構造設計を算出するソフトウェア、②建設部材の製造過程の機械化、③あらかじめ工場で製造した建設部材を現場で組み立てるプレハブ工法、の3つの技術を組み合わせたシステムとなっています。

画像引用元:Prescient Co Inc 公式ホームページ

Prescientは創業以来、施工技術の最適化を目指して研究開発を進めています。これらの技術に関して既に30カ国で合計103の特許を取得しており、さらに75の特許を申請中です。特許取得技術の中には、躯体工事における施工技術やトラス構造そのものに関する特許、設計や製造過程を最適化するためのソフトウェアに関する特許が含まれています。

現在、合計130,000平方フィート(12,080平方メートル)の2つの製造工場を所有して建設資材を商用製造しています。ソフトウェアとハ​​ードウェアの両面で建物構造部分の設計から製造、施工までを一貫して支援しているのです。Prescientは、学生寮や集合住宅、病院、高齢者向け住宅を取り扱っており、これまでに手掛けた建設プロジェクトは全米で57件となっています。

2021年5月に、証券や不動産関連事業を中心に資金提供を行っているEldridge(エルドリッジ)と、建設事業者のJE Dunn Construction(ジェーイー ドゥン コンストラクション)から合計1億9000万ドル(約207億円)の資金調達を実施しており、創業以来の総資金調達額は2億9540万ドル(約321億円)に達しています。

設計から施工までを最適化するソフトウェアを自社開発

画像引用元:Prescient Co Inc 公式ホームページ

Prescientは構造設計から施工までに必要なソフトウェアを自社で開発しています。このソフトウェアには、「構造設計の最適化」「MEP設備の干渉の除去」「費用・スケジュールの予測」「5次元のBIMデザインの出力」「資材の輸送管理」「施工計画の策定」など、数多くの機能が盛り込まれています。

Prescientがソフトウェアを自社で開発する背景には、躯体工事に関わるあらゆる工程を継ぎ目なく管理し、最適化するという理念があります。

例えば躯体工事の設計から施工までの過程では、①構造設計の3次元モデルの作成から始まり、②続いて現地における施工計画が策定されます。さらに、③費用や輸送、施工人員の配置などのプロジェクト管理計画が策定され、この計画のもとで施工が実施されます。以上の流れを最適化し、間断なく実施するために、自社でするソフトウェアの開発が行われているのです。

建設部材製造の自動化とプレハブ工法

画像引用元:Prescient Co Inc 公式ホームページ

Prescientはハードウェアについても研究開発を進めています。前述の通り2つの工場をコロラド州とノースカロライナ州に保有しており、鉄骨部材の製造工程を高水準で自動化しているのです。

画像引用元:Prescient Co Inc 公式ホームページ

常温の鋼材に圧力を加えて塑性変形させる「冷間成型技術」を採用しており、3次元の設計図から鉄骨を成型しています。トラス構造に組み合わせることができる角材だけでなく、床材や壁パネルのような平面状の部材を成型することもでき、これらの部材の精度は1/32フィート(約9mm)ということです。鉄骨部材の加工にとどまらず、トラス構造の製造も自動化されています。

画像引用元:Prescient Co Inc 公式ホームページ

こうしてあらかじめ製造された鉄骨材は、現場でピースをはめ込むようにして施工されます。そのため、従来のトラス構造による躯体工法と比べて大幅に施工期間を短縮することができるのです。

Prescientによる建設事例


上の動画は2016年竣工のアメリカ合衆国カンザス大学における学生寮の建設事例です。プロジェクトの敷地面積は543,000平方フィート(約50,450平方メートル)で、ベッド数にして1200床を収容できる建物となっています。

工事期間は35週間と、学生寮の建設プロジェクトとしては短期間でしたが、Prescientの躯体工法を採用したことで施工期間を短縮することができ、期間内に工事を終了することができたといいます。

また、こちらはアメリカ合衆国イリノイ州シカゴの集合住宅の建設事例です。プロジェクトの敷地面積は63,840平方フィート(約5930平方メートル)で、12戸の住居用区画と、42戸の宿泊施設用区画が含まれています。

まとめ

画像引用元:Prescient Co Inc 公式ホームページ

いかがでしたか?今回は、トラス構造の躯体施工技術を持つPrescientをご紹介しました。同社は構造設計から施工までを最適化するソフトウェアを自社開発しており、さらに、鉄骨部材の製造を高度に自動化しています。さらに、あらかじめ工場で製造された鉄骨部材を建設現場で組み立てるプレハブ工法を組み合わせることで、従来と比べて施工期間と費用を抑えたトラス構造の躯体工事を実現していました。

同社CEOのMagued Eldaief(マギー エルダイエフ)氏はインタビューの中で、2021年5月の資金調達にて獲得した資金について、今後の研究開発や顧客獲得に使用すると述べています。同社の今後の展開が注目されます。