2019年3月、Scope ARはシリーズAで970万ドル(約10億円)を調達しました。彼らは2016年、作業現場での機械操作をARで指導できる新たなプラットフォームを開発しました。このようなARによるスマートな指示・学習プラットフォームの実現は業界初です。この記事ではAR技術を用いて業界の変革を図っているScope ARについて取り上げます。
Scope AR(スコープエーアール)は2011年に設立されたサンフランシスコのスタートアップです。シリーズAで資金調達を実施したばかりのスタートアップです。
Scope ARは、専門知識が必要になるフィールドメンテナンス、製造、およびトレーニングに焦点をあて、AR技術を活用するマニュアル化サービスを提供しています。著名なクライアントにはロッキード・マーティンや大手消費財メーカーのユニリーバ、キッチン用品製造企業Prince Castleなどが含まれます。
Scope ARはAR技術の提供によってどのような世界を作ろうとしているのでしょうか。それを理解する上ではアメリカの製造業等を取り巻く環境の理解が欠かせません。
米デロイトの調査によると2018年から2028年の間にアメリカでは460万人もの製造業での雇用が必要になると言われている一方、その半分以上にあたる240万人の雇用が不足するとされています。
また、日本同様アメリカでも技術者層の高齢化は深刻で、若い労働力の不足が懸念されている中で、機械は産業の高度化に伴い複雑化しており、より熟練した若い労働力が求められているというのが製造業をとりまく現状です。
Scope ARは誰もがすぐにエキスパートになれる世界をARを活用して構築することによって、現場での専門知識が必要となる業務の遂行や、専門知識の獲得を支援します。
そのために彼らが提供しているWorkLinkは、総合ラーニングプラットフォームとして大きく二つの機能を備えています。
①リモートで不明な点を教えてくれる「Remote Assistance」
②ARで操作の仕方が分かる「AR Work Instruction」
Scope ARはARというソリューションをベースに多角的に製造業での課題の解決を目指しています。
これらのサービスはどんなものなのでしょうか。それぞれ見ていきます。
1つのアプリを介して、即時に企業の専門家とコンタクトでき、必要な指示を受け取ることができます。
具体的には、以下のような大きく4つのツールをアプリ内に設けて詳細なリモート指示を可能にしています。
・注釈ツール
現場から共有されたビデオにおける機械などのオブジェクトに直接矢印や説明を描画でき、現場へのリモートの指示を可能にします。
・低帯域幅モード
電波の接続が悪い場所でも指示を仰げるように、ライブビデオの他にスナップショットを送信できます。
・連絡先リスト
アプリを起動すると専門家の連絡先リストが表示され、ワンタッチでその分野の専門家に接続できます。
・高精度ビューツール
高品質の静止画像を一時停止でき、ズームやパンを使って簡単に注釈を付けることができます。複数のビューを保存できるためライブビデオと横断的に使用することでより詳細な説明を可能にします。
これだけ見るとひどく平凡な機能のように思えますが、現場とリアルタイムで映像のやりとりができるからこそこれらのツールは有効性を発揮しているといえるので、彼らの映像技術の卓越性が伺えると思います。
Scope ARのサービスの特徴ともいえるのがAR技術を用いた近未来的な作業空間の実現です。作業者は特殊な技能を持たずともゴーグルを着用して該当の機器に近づくだけで、空間に映し出される指示に基づいて作業するだけで熟練したプロの技術者と同じように作業を行うことができます。
これを可能にするのはWork Linkのオープンなプラットフォームです。
「Work Link Create」を使うとだれでも簡単にARの指示書が作成できます。図面や作業指示書など紙媒体での意思伝達ではなく、現場での直感的な作業を可能にし、現場で作業者に余計な労力をかけさせません。
もちろんコーディングなど特殊な技能を必要とせずに作成可能なので多様な知識の集積が可能となっています。
Scope ARは世界有数の一般消費財メーカーであるユニリーバや航空会社ロッキード・マーティンなど既に大手への導入の実績を持っています。
導入実績からはトレーニング時間の大半の削減をはじめとして技術者の時間全体の短縮の観点でも3割程度以上の改善が見られています。
またアプリケーションをベースとしているので中小のメーカーへの導入も可能であるとしており、プラットフォームとして独占的な地位を確立すれば相当な拡張性を持った事業であると言えます。
ARという技術自体の目新しさ・スマートさでエンターテイメントとして注目されがちですが、Scope ARは法人における知識伝達の課題をARによって見事に解決しています。
今後Scope ARのプラットフォームが市場において支配的な地位を築けるかどうかが成長できるかどうかの一つのカギになりそうですが、革新的な動きであることは間違いありません。今後の動向に注目です。