配管、空調、電気といった住宅設備の不調は日々の生活につきもの。ある試算によれば住宅設備の修理・管理市場は1兆ドル(約146兆円)にものぼります(注)。しかし、消費者においては修理や点検には意外と手間や時間がかかり、業者においても作業の不確実性から仕事の予定を効率的に管理することはままなりません。
そこで今回ご紹介するServiceTitan(サービスタイタン)は、住宅サービス事業者のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援するサービスを展開しています。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
ServiceTitanは2007年にアメリカ合衆国カリフォルニア州にて創業されたスタートアップで、配管、空調、電気といった住宅設備の修理・管理を行う住宅サービス事業者のビジネスをサポートするクラウドベースのプラットフォームを展開しています。
2021年1月にはシリーズGで2億ドルを調達。合計調達額を11億ドル(約1580億円)とし、企業評価額は95億ドル(約1兆3800万円)に達しました(2023/7時点では75億ドル)。創業者のAra Mahdessian(アラ マデッシャン)氏はアルメニア出身で、スタンフォード大で経営科学及びコンピュータサイエンスを学んだ経験を持ちます。共同創業者のVahe Kuzoyan(ヴェヘ クゾヤン)氏もアルメニア出身で、アルメニア人起業家による企業としては初めてのユニコーン企業です。ともに父親が建設業者だったこともあり、建設業者のビジネスを管理するServiceTitanを設立しました。
株主としてシリコンバレートップVCのSequoia Capital、Tiger Global、Index Ventures、Dragoneer、T. Rowe Price、Battery Ventures、Bessemer Venture Partners、ICONIQ Capitalなどが名を連ねている他、シリーズGからSaaS企業買収で有名なプライベート・エクイティ(PE)、Thomas Bravo(トーマス・ブラボー)もリード投資家として投資しています。
創業当初は、創業者の家業である住宅配管、空調、電気設備に特化して事業をスタートし、その後ガレージ用シャッターや煙突といった近隣分野、商業用不動産にもビジネスを拡大。現在の年間経常収益は4億6000万ドル(約668億0500万円)にのぼり、サービス利用者の拡大によって成長を続けているほか、造園や害虫駆除のような市場ではより専門知をもった企業を買収し、多角化を進めています。最近では2021年6月に造園分野でAspire(アスパイア)、2022年7月にB2Cビジネスのコミュニケーション支援サービスSchedule Engine(スケジュール エンジン)を買収し、現在全米で11,800の事業者にネットワークを広げています。
ServiceTitanの調査によると、2022年度において住宅サービス事業者の31%は収入が横ばい、39%は収入が減少したと回答しました。一方、事業者の66%はデジタルトランスフォーメーションが収益改善の鍵であると考えています。約24%はすでに現在の業務に何らかの形で人工知能(AI)を組み込んでおり、うち8割はそれによりプラスの結果を得ています。収益改善のための業務効率化システム導入は、事業者の目標達成において重要な鍵を握っているといえるでしょう。
そこでServiceTitanは、HVAC(空調)、電気、配管、ガレージ用シャッター、処理槽などの6業種を含めた全21業種の住宅サービス事業者多岐に対応するソリューションを提供しています。いずれの職種においても、ServiceTitanの基本アプローチは同じ。すなわちより多くの顧客を見つけ、オペレーションを効率化し、決済を手早く済ませるサポートをすることです。
そこでServiceTitanのプラットフォームでは、フロントからバックオフィス業務まで使える機能を実装。公式ホームページによるとその機能は上表の通り。主なところでは、スケジュール管理、レポート作成、作業員派遣、給与計算、会計、在庫管理などがあります。
また一般住宅向けだけでなく、商業用不動産向け修理・管理業者にも対応、さらに新規の建設事業においても活用することができます。プロジェクトの規模や目的においても幅広く活用できるため、マネジメントの効率化を図ることができるのです。
例としてHVAC(空調)設備の修理プロジェクトにおける活用方法を見てみましょう。画像のように、HVAC向けのプラットフォームではプロジェクトや作業内容ごとにタブを設定し、担当者や設備、修理内容の詳細を確認することができます。また、作業のプロセスに沿って画面が設計されているため、オフィスや作業者の双方において情報処理のコストを抑えられます。
また、AIによるプライシングシステムを導入し、作業、交換資材、その他全てについての最適価格を提案。競争力を高め、顧客にとっても最適な価格でサービスを提供することができます。
さらに、課金制で使用可能なMarketing Pro(マーケティング プロ)といった機能を併用することで、顧客獲得にも活用することができます。この機能にはターゲットメールや広告配信の自動化、効率化をサポートする機能が含まれており、平均して受電率を45%改善、14%のリピーター獲得率を14%改善、利益率を14%改善できると謳われています。
いかがでしたか?今回は、住宅サービス事業者のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援するServiceTitanをご紹介しました。住宅設備の不調は消費者の生活に直結するため市場も大きいですが、事業者側のサービシングプロセスにはまだまだ改善の余地があります。同社はそこにダイレクトにアプローチするプロダクトを開発。周辺分野の企業を買収することで機能を豊富化し、ユニコーンにまで成長させました。今後はビジネスをどのように展開させていくのでしょうか。今後の動向が注目されます。