現在多くの国では都市化が進み、経済が大きな成長を遂げる一方で、環境汚染や貧富の差の拡大、住宅価格の上昇などが問題視されています。この様な問題を踏まえて、2015年に国連において採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の17の目標の中にも「住み続けられるまちづくりを」という項目があります。
今回はこれらの問題の解決を目指し、持続可能で全ての人が手頃な価格で暮らすことができる都市開発に取り組んでいる、都市イノベーション企業Sidewalklabs(サイドウォーク・ラボ)についてご紹介します。
SidewalkLabsは、2015年にGoogleの親会社Alphabet(アルファベット)の傘下として設立されました。同社はニューヨークに拠点を持ち、都市をより持続可能で、すべての人にとって手頃な価格にするという理念のもと、都市化問題を改善する為の製品開発や、企業への投資などを行なっている都市イノべーション企業です。
2017年には、トロントのウォーターフロントエリアをスマートシティーとして再開発することを発表し話題となりましたが、2020年コロナウイルスの影響により撤退が決定。ですが、同社が構想を練っていたスマートシティー計画は自動運転、ロボット・デリバリーシステム、低コストのモジュラー式木造建築、および各分野におけるデータ活用などの、最新技術を盛り込んだ計画となっていました。
今回はこれらも踏まえて、同社が持続可能かつ手頃な価格で暮らせる都市を実現する為に取り組んでいる事業の中から、3項目を取り上げてご紹介します。
SidewalkLabsは環境問題、作業効率の向上、コスト削減を実現する為に、PMXプロジェクトと名付けられた高層木造ビルの開発に取り組んでいます。このプロジェクトでは、耐火性にも優れたマスティンバーと呼ばれる木片を圧縮して作る建築材料を使用。これによって高い強度を実現し、これまでに建てられた木造建築の中でも最高層である18階建ての木造建築を上回る、35階建ての木造建築ビルをプロトタイプに据えています。
現在多くの高層建築には、鉄鋼やコンクリートなどの建築資材が使用されていますが、これらの資材は世界的に高騰傾向にあるとともに、加工や運用の際の二酸化炭素排出による環境汚染や、加工・運搬時取り回しの悪さがありました。
しかし、同社のPMXで使用されるマスティンバーであれば、加工や現場での取り扱いも容易、二酸化炭素排出量を大幅に削減できるなどの効果が期待されます。さらに、開発コストにおいては従来の建築材料に比べ、建築コストを20%削減する事ができます。この削減は、利用者に低価格でビルを提供することに繋がります。
また作業効率という点においては、木材の加工のしやすさを活かし、建設パーツをモジュラー化。こうすることで現場での作業は組み立てのみとなり、製造プロセスがより速く、より予測可能になりました。同社はこの取り組みによって、建設時間を35%短縮できると見込んでいます。以下はPMXの建物を形成する代表的なパーツキットです。
つまり、同社の木造高層ビルは一般的な高層ビルに比べ、建設期間を短縮し、環境への負担も少なく、利用者にとって安価になるということです。
高層木造建築の安全性において問題視される点としては、風などの影響をどのように軽減し、安定化させるかということがあります。同社のシュミレーションによると、プロトモデルであるPMXは、同じサイズの従来のコンクリート造の建物と比較して約2.5倍軽量であり、35階建てでありながら40〜50階建ての建物のように風の影響を受けていることが分かりました。
この問題はコンクリートのコアを組み込むことによって解決する事が可能ですが、同社はあくまで木材による建設を模索しました。その結果、クロスブレースフレームと呼ばれる、高層ビルの外壁に見られるダイアモンド型のサポートシステムや、構造物の上部にバネを介して重りをつけ、揺れを抑えるチューンドマスダンパーなどのシステムを採用しました。
また、これらの技術はPMXを安定化させるとともに、ビルのコアの面積を最小限に抑えることができるため、内部の床面積を増やすことも可能としています。
Sidewalklabsによる高層木造ビル建築構想を紹介してきましたが、日本においては、2023年着工予定の三井不動産と竹中工務店による、17階建て木造ビル建築構想や、住友林業が2041年までの実現を目指す、高さ350mの木造ビル建築構想があります。
同社が展開するコンテンツの一つにDelve(デルブ)と呼ばれる、AIベースの都市設計ツールがあります。Delveは特定の土地における都市設計の際に、予算や制約、プロジェクトの入力(商業用又は住宅用の総床面積)などの優先事項を入力することによって、優先事項に合わせた、何通りもの都市設計プランを、クラウドコンピューティングと機械学習を活用して導きだします。
Delveは何通りもの都市開発プランを開発チームに提示することによって、従来であれば数ヶ月を要していた都市設計を、数分で行うことを可能にしました。それと同時に、コストや効率、環境への配慮というような面で、同社が掲げる持続可能で低価格な都市の開発を、より良い形で実現可能なものとしています。
代表的なDelveの実用例としては、イギリスとアイルランドに拠点を置く都市開発チームのQuintainが、ロンドン北西のWembly Parknoの都市設計の際に使用した事例が挙げられます。このプロジェクトはDelve導入以前、プロジェクト財務目標を達成するのに必要な住宅数と、それぞれの建物の昼光の確保のバランスが取れずに難航していましたが、Delveの導入によって、昼光の確保率を改善し、オープンスペースの11%の拡大に成功しています。
以下は同プロジェクトにおいての、Delve使用による改善値を示した表になります。
現在多くの国で商業ビルのエネルギー浪費は、都市に大きな環境影響を及ぼしています。例えばニューヨークでは、15%のスペースが商業ビルに占有されており、ビルからの温室効果ガス排出量は市全体の30%に及ぶと言われています。
そこで、エネルギーの浪費を削減するための設備や、システムなどを取り入れるビルやテナントが増えています。しかし、それらの設備の設置には多大な費用がかかる、複雑な仕組みである、古い建物のため取り入れる事ができない、という問題が発生しています
そのような問題を解決するために、同社と、ノルウェーを拠点とする世界最小のセンサーを提供するDisruptive Technologies社によって共同開発されたのが、ビルでのエネルギー使用を最適化するMESA(メサ)です。
MESAは以下の画像のプラグアンドプレイ型の小型キットであり、既存のwifiネットワークを介してそれぞれのオフィス設備に接続するため、複雑な配線や工事などが必要とされません。
MESAは外部から取り込んだ気象情報や、小型キットのセンサーによって収集した内部の温度や占有率などの非個人情報を元に、自動で冷暖房の管理や、使われていない電源をオフにすることによって、オフィスを快適化すると同時に、オフィスのエネルギー消費を最小限に抑えます。これらのエネルギーの節約はとても些細なことのように思われますが、最大で20%もの電気代の節約を見込めるとともに、環境への負担を減らす大きな一歩となります。
持続可能で手頃な価格の都市開発を最新技術で目指す企業「SidewalkLabs」、いかがでしたでしょうか?今回ご紹介した技術が、今後の都市の在り方や作り方を変えて、より良いものへとする事が期待されます。スマートシティは世界の大きな動きとなっております、Google(SidewalkLabs)が計画するカナダ・トロント、アリババが主導する中国・杭州、トヨタ自動車が計画する日本・ウーブンシティ(静岡裾野市)など、多く計画がされております。今後どのように、これらの技術が普及し実用化されていくか注目です。