大量生産・消費社会が資源枯渇や環境汚染を促進してきたことへの反省から、ものを修理したり再利用することで資源消費を抑制しようという考え方である、サーキュラーエコノミー(Circular Economy、循環型経済)への関心が世界中で高まっています。これについて先進的な取り組みを進めるフランスでは、2020年2月に公布された「廃棄物とサーキュラーエコノミーと戦う2020年2月10日の法律」により、家庭廃棄物削減の削減、ペットボトル廃棄物の削減、家電製品の修理可能性の点数表示や耐用年数表示の義務化、修理用品、スペアパーツの購入情報の公開が義務付けられました。
また米国では近年、企業が現在のバージョンの製品を既知の期間内に意図的に役立たないものにする「計画的陳腐化」と呼ばれるマーケティング戦略がサステイナビリティや業界の倫理観に逆行するとして、消費者が製品を長期間使い続ける権利を求める「修理権運動」と呼ばれる動きがあります。実際に旧製品の性能を意図的に落としていたことを認めたアップルが2018年にフランスで訴訟を起こされています。
フランスのeコマース企業、SOS Accessoires(エスオーエス アクセスワ)はそうした社会的潮流の中で発生した家電製品の修理需要に対応し、家電製品の修理に関する情報や修理用品、スペアパーツの通信販売を行っています。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
SOS Accessoireは、2007年に創業された家電製品の診断と修理を支援するフランスのスタートアップです。2021年4月に1000万ユーロ(約12億円)を調達し、合計調達額を1300万ドル(約17億円)としました。主な投資家であるETF PartnersとQuadiaは、ベルギーの銀行Degroof Petercamと共同で運営するサーキュラーエコノミーに特化したRegenero Impact Fundを通じて投資を行っています。また最新のラウンドには、環境問題解決に向けて取り組むスタートアップへの投資を積極的に行うStarquestやSeed for Goodが参画しています。創業者のOlivier de Montlivault(オリビア デ モントリボルト)氏は家電量販店大手のDarty(ダルティ)にて、スペアパーツとアクセサリー製品部門幹部を歴任しています。
同社によるとフランスでは毎年2800万台の家電製品が故障し、そのうち修理されるのは500万台に過ぎません。一方で、冒頭にご紹介したサーキュラーエコノミーへの関心の高まりから家電修理に対する需要は高まりつつあります。フランスの家電用スペアパーツ市場は5億7500万ユーロと推定され、そのうち20%はオンライン販売で、年率15%で成長しています。SOS Accessoireが事業拡大を目指すヨーロッパでは、市場規模は41億ユーロと推定され、そのうちオンライン販売は8億2000万ユーロとなります。
同社は創業2年目の2008年にサービスを開始し、家電製品の修理を目的としたスペアパーツの取り扱いを拡充してきました。2015年には修理支援ブログ(現在はYoutubeに移行)を開始し、400本以上のチュートリアルと200本弱の高品質のビデオを通じて診断支援やスペアパーツの取り付け、家電製品の修理に関する情報源としての役割を果たしています。2017年にはドイツ語、イタリア語、英語によるウェブサイトを立ち上げており、2018年には家電製品を含む消費財の計画的陳腐化に対する「修理権運動」に参加するために、企業ネットワークであるClub de la Durabilité(サステイナブルクラブ)に加入しています。2019年には本社と倉庫をイブリーヌのエランクールに移転し、倉庫機能とロジスティクス機能を強化し、2021年の最新の資金調達を経て現在に至ります。
SOS Accessoiresが運営するeコマースのウェブサイトでは、リペアパーツの通信販売に特有の問題を解消するためにさまざまな工夫が凝らされています。
注文された商品が顧客の使用している製品に適合する正しいものであるかどうかを確認するため、注文後により詳細な情報(製造番号、寸法、色など)を要求するメールが送られています。
全ての商品がオリジナルメーカーまたはその請負業者によって作られた新品となっており、使用している電気製品が当初の設計と同じように動作し、同じレベルの性能を提供し続けることが保証されます。
家電メーカーから提供されたすべての説明書とレビューがウェブサイト上で提供されています。これにより、消費者が探しているリペアパーツが見つけやすくなり、またサイトに掲載されていない場合でも見積もり依頼を送ることができます。
多くの場合リペアパーツがすぐに届くことが要求されますが、同社の製品のほとんどは在庫があり、すぐに発送されます。ただし一般的ではない、より特殊な製品の場合、私たちはサプライヤーに直接部品を発注し、合理的な時間内に届けることが謳われています。
世界中のどこからでもリペアパーツを購入することができ、また返品が必要な場合でも集荷サービスを利用することができます。
注文の有無にかかわらず、ヘルプとトラブルシューティングのデータベース、修理チュートリアル、YouTubeのビデオに無料でアクセスすることができ、これらのコンテンツは常に更新されています。
法律で定められている最低キャンセル期間を14日間から30日間に延長して適応しています。
SOS Accessoireの直接の競合は、Spareka(スパレカ)やAdepem(アデペム)など、小売顧客に焦点を当てた他のデジタル企業です。しかし、SOS Accessoireは、同社は、オンラインで入手可能なスペアパーツの大規模なカタログ(13,500以上の参照先)、迅速な配送、価格の低さを競争力の源泉であるとしています。また、月間100万人のユーザーを抱えるウェブサイトの運営を続けながら、顧客満足度9.7/10(4200人以上のユーザーによる評価)を獲得しています。
SOS Accessoiresは、自宅で修理するための6つの技術的オンラインサポートを提供しています。
家電製品を修理する前に、障害を特定する必要があります。SOS Accessoiresの故障診断支援ツールでは、順番に表示されるチェックシートに沿って分析を進めることで、故障箇所を特定します。また、web診断ツールのみならず、1分あたり0.45€(約61円)から0.8€(約108円)通話(+電話料金)による故障診断も提供しています。
実際に修理を始める前に、欠陥のある部品を交換する方法や、汚れや水垢でブロックされた要素をきれいにする方法を説明するチュートリアルを受けることができます。このチュートリアルでは、SOS Accessoiresの技術者とチャットを通して疑問を解消することができます。
SOS AccessoiresはYoutubeにて修理の手順を説明するビデオを提供しています。また、必要に応じて、故障状況に最も近いビデオにコメントすることで、SOS Accessoiresの技術者に質問することができます。
正しい故障診断とスペアパーツの特定のために、年中無休の自動応答チャットが提供されています。休日やすぐに修理が必要な場合でも、チャットを通して技術的な支援を受けることができます。
スマートフォンでのビデオ会議を通じて自分で修理する際の指示を仰ぐことができます。使い方は簡単で、SOS AccessoiresのWebサイトで時間枠と故障状況を入力し、技術者とのビデオ会議の予約を行います。テレビ通話を受けることで、故障状況を技術者の目により確認しながら修理を進めることができるのです。このサービスは1回あたりおよそ40分で、15.90€(約2200円)から35.90€(約4900円)で購入することができます。
いかがでしたか?今回はオンラインで家電製品の修理用品、スペアパーツの販売、技術サポートを行うフランスのSOS Accessoiresをご紹介しました。同社は環境負荷の高い大量生産・消費型社会において、消費者が家電製品を長く使い続けることで資源の利用を抑えることに貢献しています。同社の今後の展開が期待されます。