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建設デジタルツインによる現場管理プラットフォームを提供するTrack3D

  • 建設デジタルツインを用いた現場管理手法の導入が進展している
  • アメリカのTrack3Dは建設現場の測量、デジタルモデルの作成、現場管理までワンストップで支援するソリューションを提供している
  • Track3Dは従来は各現場ごとに異なるフォーマットで報告されていた情報を一本化し、マネジメント層における迅速な意思決定をサポートしている

はじめに

画像引用元:Track3D公式ホームページ

建設現場管理のDX(デジタルトランスフォーメーション)において、設計図や現場の状況をデジタル化して活用するデジタルツインという手法の導入が進んでいます。これは現場を記録してデジタルモデルを作成したうえで、設計図やスケジュールと突合し、異常や逸脱、遅延といったリスクを管理する手法です。

デジタルツインの導入には、データの取得をするための測量機材(カメラやLiDAR、ドローン等)、デジタルモデルを作成して可視化するソフトウェア、設計図やスケジュールと組み合わせた管理モジュールなど、いくつかのレイヤーで技術の導入が必要で、市場も厚みを増しています。建設デジタルツイン市場は2025年時点では648億7000万ドル(約9兆7,600億円)のところ、2030年までに1,551億ドル(23兆3,000億円)へと、年平均にして17.0%の高成長が見込まれています(Research and Markets 2025

こうした背景のなかで登場したのが、アメリカのTrack3D(トラック・スリーディー)です。一体どのような企業なのでしょうか。詳しくみていきましょう

Track3Dとは?


Track3Dは、360°カメラ、ドローン、LiDAR など複数のデータソースを統合し、建設現場の「今」をデジタル空間で再現するReality Intelligence Platform(リアリティ・インテリジェンス・プラットフォーム)を提供しています。創業は2022年で、創業者はChaitanya Naredla(チャイタンヤ・ナレドラ)氏、Kiran Gutta(キラン・グッタ)氏、Vineeth Paruchuri(ビニース・パルチュリ)氏の三名です。拠点はカリフォルニア州ミルピタスに置かれており、米国を中心に事業を展開しています。

Track3Dの特徴は、現場データの取り込みだけでなく、その後の解析プロセスを自動化している点にあります。プラットフォーム上では、アップロードされた現場キャプチャが設計データやBIMデータと自動的に照合され、進捗の遅れ、出来形のズレ、施工品質の逸脱が検知されます。さらに、過去の進捗履歴やパターンから、将来的に遅延が生じる可能性を予測し、事前にアラートを出す機能の強化も進められています。

Track3Dは2025年9月にシリーズAラウンドで1,000万ドル(約15億円)の資金調達を実施しました。リード投資家はIronspring Ventures、共リードとしてZacua Venturesが参加し、既存投資家のShadow VenturesMonta Vista Capitalも引き続き出資しています。これにより、同社の累計調達額は約1,430万ドル(約21億4,000万円)に達しました。

調達資金の用途は、AIモデルの精度向上、逸脱検知機能の強化、エンタープライズ向け導入体制の拡大、営業・カスタマーサクセスの拡充とされています。また、既に400件以上のプロジェクトで採用が進んでおり、Hensel PhelpsPCIといった米国大手ゼネコンとの長期契約も公表されています。

Track3Dのリアリティ・インテリジェンス・プラットフォーム

画像引用元:Track3D公式ホームページ

Track3Dは、建設現場の進捗と品質をリアルタイムで解析する「Reality Intelligence Platform」(リアリティ・インテリジェンス・プラットフォーム)を提供しています。360°カメラ、ドローン、LiDARなどによって取得された現場データをクラウド上で統合し、現場全体をデジタル空間として再構成することで、施工の状態を常時可視化できることが特徴です。従来の建設現場では、現地確認や写真報告が個別に行われ、情報が分散することによって判断の遅れが発生していました。Track3Dはこの構造的課題に対し、「データの収集」「解析」「判断支援」という三つのフェーズを一体化した仕組みを提示しています。

まず、現場の撮影データは自動的にアップロードされ、設計図やBIMデータと突合されます。この段階で、施工済みの範囲と未着工部分が自動認識され、進捗率が数値化されます。次に、出来形の逸脱検知が行われ、設計通りに施工されていない箇所が抽出されます。これにより、従来なら後工程で発覚していたズレや品質問題を、施工直後の段階で把握することが可能になります。また、過去の進捗データと照合した予測機能によって、特定区画の工程が遅れる可能性や、再工事のリスクが高い箇所が事前に警告されます。

さらに、Track3Dのプラットフォームは、現場監督やプロジェクトマネージャーがダッシュボード上で全体状況を俯瞰できるように設計されています。各拠点の現場データは同一のUIで整理されるため、複数プロジェクトを同時に抱える施工会社でも、遅延リスクの高い現場を即座に識別できます。導入企業のなかには、従来は各現場ごとに異なるフォーマットで報告されていた情報が一本化され、マネジメントレイヤーの判断が迅速になったと評価する例もあります。

Track3Dの活用事例

画像引用元:Track3D公式ホームページ

1937年に創業されたHensel Phelpsは、空港や政府事業を手がける大手ゼネコンです。同社は大規模な建設プロジェクトの進捗管理と品質監視の自動化にTrack3Dを活用しています。同社はこれまで、各工区の進行状況を現場担当者が手動で報告し、BIMデータとの照合も一部を除いて人力で行っていました。しかし、複雑な設備や内装の工程では、確認の遅れが再工やコスト増につながることが課題となっていました。

Track3Dの導入により、Hensel Phelpsは現場で取得される360°カメラ、ドローン、LiDARスキャンなどのデータをクラウド上で統合し、BIMモデルと自動的に比較する仕組みを整えました。これにより、石膏ボード、配管、ダクトなどの施工済み要素が自動的に認識され、設計との差異がAIによってリアルタイムで検知されます。従来数日を要していた出来形の確認が、数時間以内で完了するようになり、現場監督は確認作業よりも意思決定に時間を割けるようになりました。

Hensel Phelpsではさらに、Track3Dが生成するデータを活用して工種別の進捗分析を行い、リソースの最適配分やスケジュール調整に反映させています。プロジェクト全体のマイルストーン達成率が可視化されることで、支払処理や工程契約の管理にも透明性が生まれました。これにより、社内外の関係者が同一データを基盤として意思決定を行うことができるようになりました。

まとめ

画像引用元:Track3D公式ホームページ

いかがでしたか?今回は建設デジタルツインによる現場管理プラットフォームを提供するTrack3Dをご紹介しました。建設業界はこれまで「現場を見に行かなければ状況がわからない」という前提で動いてきました。しかし、Track3Dのようなリアリティインテリジェンスプラットフォームが導入されることで、現場は「確認する場所」から「データ化され、解析される対象」へと変わりつつあります。

施工状況の把握、進捗の定量化、逸脱の自動検知、リソース配分の即時判断。それらは従来の建設マネジメントでは分断されていたプロセスでしたが、Track3Dはそれらをひとつのデータレイヤーに統合して効率化しています。Track3Dの今後の動向が注目されます。

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