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インフラ建設にAIで効率化するUnlimited Industries

  • エネルギー転換やデータセンター需要の拡大により、前例のない規模で高速かつ柔軟なインフラ建設が求められている
  • Unlimited IndustriesはAIで数万通りの設計を並列検証し、設計から建設までを一体化した新しいインフラ構築モデルを提供
  • 取り組みが実現すれば、事前エンジニアリング期間を大幅に短縮し、建設コストと不確実性を削減、野心的な計画を実行可能にする

はじめに

画像引用元:Unlimited Industries公式ホームページ

現在、世界はエネルギー転換と産業構造の変化という大きな局面にあります。再生可能エネルギー、データセンター、先端製造、重要鉱物などの分野では、今後10年で前例のない規模の物理的インフラ整備が必要とされています。一方で、建設・インフラ業界の生産性は長年ほとんど向上しておらず、大規模プロジェクトは「遅く、高く、リスクが高い」ものになっています。

その背景には、設計・調達・建設を分業する従来型EPCモデルと、コストプラス契約に代表されるインセンティブの歪みがあります。工期が延びるほど収益が増える構造では、反復的な改善や技術導入が進まず、結果として数十年前よりも建設コストは上昇しました。特に、これまでに建設実績のない新技術や初号機プラントでは、仕様の不確実性が高く、従来モデルとのミスマッチが顕著に表れています。

こうした状況の中で、AIの進化は設計・エンジニアリングの在り方を根本から変える可能性を持ち始めています。ソフトウェア開発のように高速な試行錯誤を物理世界にも持ち込めれば、建設コストと時間は大きく削減され、実現可能なプロジェクトの幅は一気に広がります。インフラ建設は今、変革の入口に立たされているのです。

そこで今回は、AIを活用してインフラ建設の在り方を根本から再設計する取り組みを展開するUnlimited Industries(アンリミテッド インダストリー)をご紹介します。いったいどのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

Unlimited Industriesとは?

Unlimited Industriesは、2025年に創業されたAIネイティブな建設・インフラ企業です。本社は米国カリフォルニア州サンフランシスコにあり、創業者はAlex Modon、Tara Viswanathan、Jordan Sternの3名です。2025年12月、同社は1,200万ドル(約19億円)のシード資金調達を実施し、Andreessen HorowitzCIVが共同でリード投資家を務めました。今回の調達資金は、事業拡大と独自AIプラットフォームの開発強化に充てられます。

Unlimited Industriesの強みは、シリコンバレーのソフトウェア思考と、重厚長大産業の現場知識が融合している点にあります。創業者兼CEOのAlex Modon (CEO)氏は、複数のSaaS企業を創業後、ディープテックやエネルギー省との連携プロジェクトに従事した経験を持ちます。またCPOのJordan Stern氏とCOOのTara Viswanathan氏はヘルステック企業Rupa Healthを創業し、複雑なオペレーションをソフトウェアで効率化して急成長させた実績を持ちます。さらにプロジェクトリーダーのJames Betts氏は、BPやアングロ・アメリカンで巨額のインフラプロジェクトを指揮してきた、建設現場のベテランです。

Alex Modon氏は、現在のインフラ建設が抱える根本的な問題として、従来のEPC(設計・調達・建設)モデルのインセンティブ構造を挙げています。EPCの多くはコストプラス契約を採用しており、時間をかけるほど収益が増える仕組みになっています。また、リスクを極端に嫌うため、設計変更や不確実性に対しては価格変更を請求することが状態化。その結果、プロジェクトの遅延や肥大化が起こりやすく、継続的な改善や技術革新を促す動機が生まれにくいのが実情です。

特に問題となるのが、気候テックや次世代産業のように「これまで存在しなかった施設」を建設するケースです。従来のEPCは、事前に仕様を完全に確定させ、リスクを最小化する前提で動くため、反復や試行錯誤を必要とする新技術とは本質的に相性が悪いとModon氏は指摘します。その結果、設計段階で検討される案はせいぜい数案にとどまり、本来あり得たはずの最適解にたどり着けないまま建設が進んでしまいます。

Unlimited Industriesのソリューション

画像引用元:Unlimited Industries公式ホームページ

Unlimited Industriesが取り組んでいるのは、こうした課題が最も顕在化する「設計・事前エンジニアリング」の領域です。同社のAIプラットフォームは、数千から数万通りの設計案を並列に生成・評価し、コスト、安全性、性能など複数の制約条件を同時に満たす最適解を探索します。重要なのは、エンジニアリングの限界費用を極限まで下げることで、反復回数そのものを劇的に増やしている点です。

Modon氏は、エンジニアリング費用自体はプロジェクト全体の中では決して大きくないと語ります。本当の価値は、同じ予算で2〜3回しか回せなかった設計サイクルを、AIによって1000回、1万回と回せるようになることにあります。これにより、建設に着手する前の段階で不確実性を大幅に減らし、後工程での手戻りや変更指示を最小限に抑えることが可能になります。またAIによる事前検証で不確実性を排除できるため、Unlimitedは顧客に対して「固定価格(Fixed Price)」での契約を提示し、原則として変更命令を出さない方針を掲げています。これにより、発注者と施工者のインセンティブを「プロジェクトの成功」に向けて完全に一致させます。

さらにUnlimited Industriesは単なるソフトウェアベンダーではなく、自ら設計と建設を担う点も特徴です。自社チームが日常的にツールを使うことで、現場に即した改善が高速で回り、結果として顧客にもより完成度の高い体験を提供できるとしています。

なお同社は現在プロダクト開発の途上にあり、今後市場での展開を目指している段階です。

Unlimited Industriesのビジョン

画像引用元:Unlimited Industries公式ホームページ

Unlimited Industriesの最終的なビジョンは、建設そのものをソフトウェアのように高速かつ自動化されたプロセスへと変えることです。Modon氏は、将来的にはエンジニアリング、調達管理、さらには自律型建設機械やロボットによる現場作業まで含め、建設の大部分が自動化されていくと考えています。

同社は自らを脱炭素企業とは定義していませんが、結果として多くの気候テック企業やエネルギー転換プロジェクトを支えています。理由は明確で、初期建設コストと時間を大幅に下げることができれば、これまで経済的に成立しなかった技術や構想が一気に現実味を帯びるからです。Modon氏は「多くの社会課題は、制約ではなく豊かさによって解決できる」と語ります。

Unlimited Industriesが目指すのは、野心的な構想を「建てられない理由」ではなく、「どうすれば最速で建てられるか」という問いに変える世界です。AIを起点に、設計と建設の常識そのものを再定義しようとする同社の挑戦は、インフラ開発の在り方を根本から変える可能性を秘めています。

まとめ

画像引用元:Unlimited Industries公式ホームページ

いかがでしたか?今回は、AIを活用してインフラ建設の在り方を根本から再設計するUnlimited Industriesをご紹介しました。同社は、設計・調達・建設を分断してきた従来のEPCモデルに対し、AIによる高速な反復と垂直統合型の体制で挑んでいます。数千、数万通りの設計を事前に検証することで、建設コストや期間を大幅に削減し、これまで実現が難しかったプロジェクトを可能にしようとしています。エネルギー転換や先端産業の拡大により、今後ますます求められる物理インフラ。そのボトルネックを解消し、「建てられない理由」を「どうすれば建てられるか」に変えるUnlimited Industriesの挑戦は、インフラ産業の未来を占う重要な試みと言えるでしょう。

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