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高温超電導技術で送電インフラの課題に挑むVEIR

  • 次世代送電技術として注目される高温超電導(HTS)電線市場は、2024年時点で131億1,000万ドル(約1兆9300億円)のところ、2030年までに222億6,000万米ドル(約3兆2700億円)へ、年平均9.17%成長が予想される
  • アメリカのVEIR(ヴィア)はHTS技術を活用した次世代送電網開発で注目されている
  • VEIRは、既存設備と比べて最大5倍から10倍の電力容量を実現可能な技術を開発している

はじめに

画像引用元:VEIR公式ホームページ

スマートグリッド(Smart Grid)とは、電力供給と需要を最適化する次世代電力網のことを指します。2050年のカーボンニュートラルに向け、省電力化や電力効率化に不可欠な技術革新とされます。

スマートグリッド技術の導入先は、大きく送電系統、配電系統、需要者の3領域に分かれています。このうち本記事で注目するのは、送電系統に関する技術です。欧州や米国においては既存設備の老朽化により、また新興国においては人口増加に伴い、さらに各国に共通の課題として生成AI普及などによる電力需要の増大が見込まれる中で、効率的な送電網への置き換えや新設が進められています。

送電系統に関する技術革新として注目されているのが高温超電導(HTS)技術です。HTS技術の最大の特徴は、一定の温度で電気抵抗をほぼゼロにする特性にあり、従来の銅線と比べて、電線の断面積あたりの送電能力を増やしながら、低損失での送電を可能にすると期待されています。HTS市場は2024年時点で131億1,000万ドル(約1兆9300億円)と予想されています。年平均9.17%で成長し、2030年には222億6,000万米ドル(約3兆2700億円)に達すると見込まれています(株式会社グローバルインフォメーション 2024)。

そこで今回ご紹介するのは、アメリカでHTS技術を基盤とした次世代送電システムの開発で注目を集めるVEIR(ヴィア)です。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

VEIRとは?

VEIRは2019年にアメリカのマサチューセッツ州にて創業された、HTS技術を基盤とした次世代送電システムの開発を進める企業です。2025年1月にシリーズBで7500万ドル(約110億円)の資金調達を実施し、合計調達額を1億1170万ドル(約164億円)としました。シリーズBを率いるのはドイツの保険企業であるミュンヘン再保険の戦略的投資分野の100%子会社であるMunich Re Venturesで、そのほかマイクロソフトの環境系財団Microsoft’s Climate Innovation Fund, カリフォルニア州を拠点とするTyche Partners、カリフォルニアの環境インフラ系VCのPiva Capital、グローバル電力会社のNational Grid Partners、イギリスの家族経営VCのDara Holdings、ブルガリアのWeb企業のSiteGroundが新たに参画。既存株主からはマサチューセッツ州のVCのVXI Capital、ビル・ゲイツ主導の環境系投資ファンドBreakthrough Energy Ventures、テキサス州の環境系VCのCongruent Ventures、マサチューセッツ州のMITスピンオフVCのEngine Ventures、同じくマサチューセッツ州のVCのFine Structure Ventures、カリフォルニア州の環境系VCのGalvanize Climate Solutionsが参画しています。VEIRは2025年「Global Cleantech 100」に選出されており、クリーンテック分野で注目される企業の一つです。

VEIRは、高温超電導(HTS)技術を用いて、10kVの単一電圧で最大400MWを送電可能な技術の開発を進めています。10kVという比較的低い電圧で400MWの送電を可能にするのは、超電導による低損失特性と独自の冷却技術によるものです。この技術は理論的には従来の送電網に比べて5倍から10倍の電力容量を可能にするもので、莫大な電力容量を必要とするAIデータセンターや再生可能エネルギー事業者、送電事業者を主要なターゲットとしています。

例えばアメリカの再生可能エネルギー事業では、送電網の容量が確保できる最適な太陽光発電や風力発電の用地がすでに枯渇しており、開発業者が、長い配電線に対する厳しい許認可要件に苦慮しながら遠隔地の立地を検討せざるを得なくなっています。VEIRの送電網は、遠隔地に位置する再生可能エネルギー発電所から都市部への効率的な送電を可能にし、長距離送電における地理的制約を克服するソリューションとなっています。

VEIRの高温超電導(HTS)技術

画像引用元:COMMENTS OF VEIR, INC. (2013)“Response to the U.S. Department of Energy’s Grid Deployment Office Notice of Proposed Rulemaking and Request for Comment on the Coordination of Federal Authorizations for Electric Transmission Facilities”

VEIRの技術の鍵は、一定間隔で冷却ユニットを設置し、液体窒素を循環させることで超電導状態を維持する点にあります。これにより、長距離にわたって電力を効率的に輸送できます。この冷却システムを10キロメートル単位で配置し、電線内部で冷却ガスを循環させることで温度管理を可能とします。

上画像は、既存送電線とVEIRの送電線を比較したものです。左側の(a)においては従来の115kvの交流送電線では電力容量が180メガワットとなるところ、VEIRでは1000メガワットまで増強できることを示しています。また右側の(b)においては、5000メガワットの送電容量を達成するために、従来の高圧直流送電線において、345kvで6回路が必要となるところ、VEIRでは250kvの高圧直流送電線2回路で十分であるということを示しています。

このようにVEIRの高温超電導(HTS)技術は、電力容量や電力効率を大幅に改善させることで送電設備の空間的制約を大幅に緩和し、送電能力の向上に貢献するのです。

2026年までに商用規模のパイロットプロジェクトを実施予定

画像引用元:VEIR公式ホームページ

VEIRは2026年までに商業規模パイロットプロジェクトを計画しており、その進捗状況として2024年には初期試験段階を完了しました。この初期試験は2022年マサチューセッツ州ウォバーンで、約100フィート(約30メートル)の長さの送電線を敷設するものです。この送電線は従来の送電設備と同様の設置面積と電圧レベルで、従来の送電線の5倍から10倍の電力を輸送できるように設計されています。

今回のプロジェクトで構築されたシステムは、従来の送電網と見た目は同様ですが、VEIRが開発した高温超電導技術が活用されています。

まとめ

画像引用元:VEIR公式ホームページ

いかがでしたか?今回は高温超電導(HTS)技術を活用した次世代送電網の開発を進めるアメリカのVEIRをご紹介しました。VEIRは安価な液体窒素冷却によって低温を維持することで超電導状態を達成する技術を開発。既存設備と比べて最大5倍から10倍の電力容量を実現可能と期待されています。同社は2026年までに商業規模のプロジェクトを実施予定です。

近年のAI技術の進展に伴うデータセンターの電力需要の増加や都市人口増加に伴う電力需要の増加など、効率的かつ大容量の送電設備が今後求められていく中で、VEIRは有効なソリューションとなるのでしょうか。今後の動向が注目されます。