近年、技術の発展によって車や家電、家などのさまざまなものがインターネットとつながる、いわゆるIoT化を遂げています。家電や車、さらには家そのものをインターネットと接続することで、データをもとにより適切な効果を挙げることができるのです。
従来の製品をIoT化することで抜本的にサービスが改善される分野も多くあります。、セキュリティカメラもその一つです。従来の防犯カメラは撮影データをローカル環境に保存し、オペレーターが常時監視するか、事件発生後に映像を確認するといった運用をしていました。これではオペレーターの負担が大きい上、特定の人物や行動を見つけたい場合は映像の端から端までを確認する必要があり、とても非効率だったと言えます。
しかし、近年アメリカのスタートアップを中心にセキュリティカメラの技術革新も進み、あらゆる場面でその効果を確認。今回は、そんな最先端のセキュリティカメラを法人向けに開発するIT企業「Verkada(ヴェルカダ)」をご紹介します。
Verkada(ヴェルカダ、以下「Verkada」)は、技術者のFilip Kaliszan(フィリップ・カリザン)氏によって2016年に創設された、アメリカ・カルフォルニア州のスタートアップです。彼らは小型で高性能なセキュリティカメラと、撮影した映像をクラウド上で管理するプラットフォーム「コマンド」を開発しました。ちなみに、こうしたセキュリティカメラのIoT化は、同じくカルフォルニア州のスタートアップである「Dropcam」や「Nest」などが既に参入していましたが、これらのサービスはいずれも家庭用でした。そんな中で、個人よりもさらに高いセキュリティシステムが求められるビジネス向けサービスを展開したのが、今回ご紹介するVerkadaです。
同社は先進的な取り組みを買われ、Meritech Capital PartnersとSequoia Capitalが主導するシリーズBの資金調達ラウンドで4000万ドル(約42億円)、Felicis Venturesが主導するシリーズCで8,000万ドル(約85億円)をそれぞれ調達しています。これだけ注目される同社が掲げるセキュリティカメラのIoT化には、一体どのようなメリットがあるのでしょうか。Verkadaという企業の持つ特徴と併せて、早速みていきましょう。
まず、同社が打ち出している主なプロダクトがこの5種類のセキュリティカメラです。これらの商品は、それぞれ魚眼やドームタイプなどのレンズ、大きさや解像度、屋内か屋外かなどを、用途に合わせて選ぶことができます。さらに、スマートなビジュアルはいわゆる「カメラ」を彷彿とさせるものではなく、イメージが重要視される企業のオフィスという場を意識した意匠設計がなされているといえます。
また、Verkada製品はその設置の手軽さにも定評があります。従来のセキュリティカメラは一台一台をコンピューターに有線で接続し、その上でコンセントによる電源供給が行われていました。ですが、これでは無闇に配線が増えて煩雑になる上、コンセントがなければ都度電気工事で増設する必要が出てきたりと、とても非効率です。
一方、Verkada製品はLANケーブルからそのまま電源供給を受けられるPoEという給電方法を採用。コンピュータとの接続も無線かつ自動的に行われるため、煩雑な設定なども一切必要ありません。このように、従来の製品と比較すると取り扱いの手軽さや設置コストが飛躍的に改善されています。
セキュリティカメラがIoT化することで得られる最も大きなメリットは、映像データの扱いやすさ。冒頭でもご説明した通り、従来は撮影したデータをローカル環境に1つずつ保存していく必要があったため、大容量のハードディスクが必須となっていました。加えて長時間の映像データはファイルサイズも大きく、確認やチーム内での共有に時間がかかり、非常に効率が悪かったと言えます。
ですが、同社のサービスを利用すればこれらの映像データがクラウドに保存されるため大容量のハードディスクは不要になり、クラウドを通してチーム全員が手元のスマートフォンで映像を確認することができるようになりました。
同社のサービスが活かされた事例を2つほどご紹介。
まずはウェストバージニア州・パーカーズバーグ市の警察が、捜査にVerkadaを取り入れています。
パーカーズバーグ市は35,000人の市民を抱えており、街の発展と共に犯罪件数が年々増加傾向にあることを問題視していました。そこで市長と警察が手を組み、限られたリソースで物理的なセキュリティを維持するために取られた施策がセキュリティカメラの強化です。
Verkadaが持つ特徴の中でも、特に警察が重宝したのは映像の共有。1人の警察官がリアルタイムで複数の地点の状況を把握し、過去の映像にも手元のスマートフォンからいつでもアクセスすることができます。また、問題がおきた場所に居合わせた警察官がURLを発行すると、現場を捉えているセキュリティカメラの映像がチーム全体に共有されるなど捜査にはうってつけの機能も。
加えて、Verkadaのカメラはフル1080p HDビデオの1.5倍の解像度を誇っており、映像に写った人間の顔を鮮明に映し出します。この映像をもとにAIによる映像解析を行うこともでき、犯人特定に大きく貢献することは言うまでもありません。
教育の場では、生徒が安心して教育を受けられるようにするための安全性の高さが常に求められています。インディアナポリスに位置するZionsvilleCommunity Schoolsでは、8つのキャンパスに計7,500人の生徒が在籍しており、信頼性の高いカメラとビデオ監視システムを学校区内に装備することを望んでいました。
セキュリティカメラについて担当者は「従来の私たちのシステムでは、映像の処理やロード・共有に至るまでにとにかく時間がかかっていました。だからといって、広大な敷地に監視員を常駐させるのも現実的ではありません」と語ります。
そこで採用されたのがVerkada。リアルタイムで映像を共有してくれるだけでなく、何か普段とは違う動きがあったり、大きな音がでた場合は、その場所の映像リンクを自動でチームに配信することもできます。過去の映像を見返す際にも、例えば「赤色の服を着た男性」の不審者がいたと報告を受けた場合、「24時間・赤色の服・男性」という情報を打ち込めばそれに該当する映像を抽出するなど、学内の安全を高いレベルで保ち続けるために必要な機能が揃っていると言えます。
2020年9月、新型コロナウイルス感染拡大を受け、同社は複数のセンサーを搭載した新製品「SV11」を発表しました。SV11は従来のセキュリティカメラとしての性能に加え、センサーによって空気の質、温度、湿度、動き、空間の占有率を検知し、クラウドへ情報を流します。これによって人同士の密集を管理することはもちろん、どの部屋の空気が滞留していて換気の必要性があるのかなど、感染症対策に大きな効果を上げること可能になりました。このような応用は、セキュリティカメラの役割をITによって拡大させていくモデルケースになるのではと、注目を集めています。
セキュリティカメラのIoTで注目を集める「Verkada」、いかがでしたでしょうか。こうした技術の発展は、これまで防ぐことのできなかった犯罪への抑止力となってくれることはもちろん、感染症対策など、その他の分野への応用も期待されています。同社以外にもセキュリティカメラに力をいれる企業は年々現れてきているので、今後どのような進化を遂げていくのか、注目です。