企業経営上、所有する不動産をどのように活用するべきか、いかなる新規投資をどれほどの規模で実施すべきか、といったCRE(Commercial Real Estate:商業用不動産)戦略を検討することは、企業価値向上のために必須の検討事項であるといえるでしょう。
CRE戦略の重要性は、コロナ禍を経てより一層認識されるようになっています。アメリカ合衆国における調査によると(注1)、2020年度はコロナ禍によりオフィス需要は一時的に2018、19年度平均の15%以下にまで下落しました。その後2021年7月にかけて75%台にまで回帰していますが、商業用不動産を取り巻く環境はコロナ禍を経てより流動的になり、企業は信頼できるデータを元により早く正確な意思決定をすることが求められているのです。
今回ご紹介するView The Space, Inc.(ビュー ザ スペース、以下VTS)は、商業用不動産のオーナー、仲介業者向けに投資戦略策定、運用効率化、顧客関係管理を支援する不動産管理プラットフォームを提供しています。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
(注1)VTS Office Demand Index (VODI) – Monthly Report: August 2021
VTSは、商業用不動産のオーナー、仲介業者向けに不動産投資管理、マーケティング、リース、CRM(顧客関係管理)を支援するプラットフォームを提供する企業で、2012年にアメリカ合衆国ニューヨーク州にて創業されました。Boston Properties, Blackstone, Brookfield, LaSalle Investment Management, Hines, Boston Properties, Oxford Properties, JLL,CBREなど、世界の10大不動産オーナー企業のうち8社がクライアントで、、世界の商業用不動産業界のリーダーを含む45,000社の顧客を保有し、主要市場のオフィスビルにおいて65%以上のシェアを誇っています。プラットフォーム上で運用されている不動産の総面積は、約70億平方フィート(東京ドームの敷地面積14,000個分)にものぼります。
VTSは不動産やインフラ、エネルギー業界を中心に投資を実施しているBrookfield Technology Partners(ブルックフィールド テクノロジー パートナーズ)を筆頭株主として、2019年5月にシリーズDにて9000万ドル(約103億円)の資金調達を実施しました。これまでの調達額は合計1億8740万ドル(約214億円)にのぼり、主要株主としてグロース段階のソフトウェア企業を中心に投資を実施しているInsight Partners(インサイト パートナーズ)、Open View(オープン ビュー)、アーリー段階の消費者向けベンチャー企業を中心に投資を実施しているBessemer Venture Partners(ベスメア ベンチャー パートナーズ)などが名を連ねています。
VTSの製品は特に次の三点で商業用不動産の価値向上に貢献しています。一点目は、不動産管理業務の効率化です。同社の製品は商業用不動産の投資戦略の策定からマーケティング、リース、賃貸管理に至るまで、不動産管理業に関わる全てのデータやワークフローを一つのプラットフォーム上でシームレスに実施することができ、業務の効率化を期待できます。
二点目に、顧客の不動産投資戦略における情報活用支援です。45,000社の顧客を保有する業界最大手としての強みを生かし、日々の取引データを元に企業に最新の予測を提供することで投資効果の高いCRE(商業用不動産)戦略の策定を支援しています。
三点目に、入居者とのコミュニケーション支援を通じた顧客満足度の向上です。VTSは2021年3月に不動産テナント向けのCRM(顧客関係管理)ソフトウェアを提供するRise Buildings(ライズ ビルディングス)を1億ドル(約114億円)で買収し、VTS Rise(ライズ)として製品ラインナップに統合しています。さらに2021年10月には同市場で製品を展開するLane(レーン)を買収し、商業用不動産入居者向けに数千ものプロモーション、イベント、製品、サービスのプライベートネットワークへのアクセスを提供する機能を追加しました。これらの買収を通じて、現在VTS Riseは商業用不動産テナント向けのCRMソフトウェアとしては世界最大の顧客基盤を保有するに至っています。
以下、VTSの5つの製品をご紹介します。
VTS Data(データ)は商業用不動産の投資戦略策定を支援するデータ分析プラットフォームです。45,000社の顧客により年間2000億ドルが取引されるVTS Lease(リース)のデータをもとに、商業用不動産市場に関する大規模で確実性の高い予測を提供することができます。1日前のデータから活用することができるため、ほとんどリアルタイムに近い市場のインサイトを得ることができます。
VTS Market – CRE Online Marketing Solution | VTS
VTS Market(マーケット)は商業用不動産向けのマーケティングソリューションです。不動産広告や後述のVTS Market Place(マーケットプレイス)におけるデータに基づいたリスティング戦略策定を支援しています。
VTS LeaseとVTS Dataにシームレスに接続しており、顧客が保有する物件がインターネット上でどれほど閲覧されているのか、どのような人々をターゲットにすべきかといったことを理解するために役立ちます。さらに、物件のリスティングやDM、Eメールなどのマーケティング媒体の管理を行うことができます。
VTS Market Place(マーケットプレイス)は空き物件をリスティングすることができるオンラインプラットフォームで、テナント側は無料で利用することができます。
VTSによると、80%のテナントは実際に物件を見る前に、バーチャルな体験をしてから物件を絞り込みたいと考えており、VTS Marketplaceでは3D内覧やバーチャルツアーなどの機能があります。
Leasing & Asset Management Software for CRE | VTS
VTS Lease(リース)は、不動産のオーナーや仲介業者向けに、保有している不動産の賃貸契約や賃貸状況の管理を支援するソフトウェアで、ポートフォリオ全体のリースおよび取引を完全に可視化することができます。同製品上での年間取引総額は2,000億ドル(約23兆円)以上にのぼります。
VTS Market(マーケット)やVTS Data(データ)と組み合わせることで、空室となった不動産をより早く市場に投入し、競合他社に対する自社のパフォーマンスを最大化することができます。
The Ultimate Tenant Experience Platform
VTS Rise(ライズ)は不動産テナント向けのCRMソフトウェアです。物件に据え置かれたIoT機器を組み合わせることで入居者向けアメニティや物件のセキュリティを提供するというもので、入居者の体験を向上させることができます。
主な機能としては、物件への来訪者管理、QRコードによるエントランスキーの即時生成、物件のオーナーとのコミュニケーションの管理、物件内のコミュニティイベントやソーシャルアワーの促進、その他入居者に関するデータを取得し解析するといったものが含まれています。VTS DataやVTS Marketと合わせて用いることで、テナントが市場に戻ってくる割合や、それが自社の稼働率の傾向と比較してどうなのかを確認することができ、また新しいスペースが利用可能になった際に、既存のテナントに対して迅速にマーケティングを行うといったことが可能になります。
いかがでしたか?VTSは商業用不動産のオーナー、仲介業者向けに投資戦略策定、運用効率化、CRM(顧客関係管理)を包括的に支援する不動産管理プラットフォームを提供していました。
同市場における新規参入は継続的に増加しており、シカゴで商業用不動産マーケットプレイスを運営するTruss(トラス)、野村不動産と提携し不動産売買業務のデジタル化を進めるMusubell(ムスベル)、商業用不動産取引価格データプロバイダーのCompStak(コンプスタック)、不動産管理、テナント募集、賃貸管理を包括的にサポートする中国の匠人科技(ARTISAN TECHNOLOGY、アルチザン テクノロジー)などが挙げられます。
現在VTSは賃貸CRM(顧客関係管理)市場における優位性確立のためにVTS Riseへの積極的な投資を続けています。同社は今後どのように事業を展開していくのでしょうか。今後の動向が注目されます。