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ヘルメット型ウェアラブル端末とセンサーネットワークにより建設現場の安全性を高めるWakeCap

  • 建設分野における安全管理市場は2023年の約114.6億ドル(約1兆6,900億円)から2030年の約330.4億ドル(約4兆8800億円)へ、年平均16.2%で成長見込み
  • サウジアラビア発スタートアップのWakeCap(ウェイクキャップ)は、建設現場向けのヘルメット型安全管理ソリューションを展開する
  • 作業員の位置情報や動態データを自動的に収集し、現場の安全と労務状況をリアルタイムで可視化する

はじめに

画像引用元:WakeCap公式ホームページ

建設分野における安全管理市場は、2023年の約114.6億ドル(約1兆6,900億円)から2030年の約330.4億ドル(約4兆8,800億円)へ、年平均16.2%で拡大すると予測されています。背景には、世界的な労働力不足と建設需要の拡大により、現場の効率化と安全性向上が不可欠となったことや、労働安全衛生に関する各国規制の強化(OSHA基準や中東・アジアでの安全基準の引き上げ)、AI、クラウド、BIM(Building Information Modeling)など他のデジタル技術との統合が進んでいることがあげられます(Grand View Research 2025)。

市場拡大に伴い、安全管理ソリューションのタイプは多様化しています。代表的なものとして、ヘルメットやベストにセンサーを組み込み、作業員の位置や行動を把握するウェアラブル型があります。現場にビーコンやタグを設置して人や資材、車両を追跡するIoTセンサー型も普及しており、立入禁止エリアの管理や盗難防止、進捗把握に役立ちます。さらに、カメラやドローン映像をAIで解析し、ヘルメット未着用や墜落リスクを検出する映像解析型は、大規模現場で監督者の目を補完します。施工データをデジタルツインに統合して工程ごとのリスクをシミュレーションするBIM連携型は、設計段階からの予防に活用されています。また、勤務状況や体温・心拍をデータ化して熱中症や過労を予兆検知する労務・健康管理型プラットフォームも導入が進んでいます。

そのような中で今回ご紹介するのは、危険区域への侵入や転倒事故の早期検知に役立つ、建設現場向けのヘルメット型安全管理ソリューションを展開する、サウジアラビア発スタートアップWakeCap(ウェイクキャップ)です。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

WakeCapとは

企業概要

WakeCapは2017年にサウジアラビアで創業された建設テック企業で、現在はドバイ拠点を中心にグローバル展開を進めています。現場の安全性と効率性を高めるセンサー技術とデータプラットフォームを提供しており、建設業界の安全性向上とDXに取り組んでいます。

調達情報と買収・パートナーシップ

2025年5月、WakeCapはシリーズAラウンドで2,800万ドル(約41億円)の資金調達に成功しました。UP.Partnersが主導し、Graphene Venturesや米国・アジア圏の戦略的投資家も参加しています。調達資金は中東での事業強化や、日本、米国など新市場への進出、製品高度化やクラウド統合の強化に活用される予定です。

2024年7月には、AIによるプロジェクト遂行支援プラットフォームCrews by Coreを買収しました。同買収により、WakeCapはIoTとSaaSを一体化した包括的なソリューション提供を可能とし、シリコンバレーにR&D(研究開発)拠点を開設しています。買収技術は米国、UAE、日本、サウジアラビアなどの現場にも導入されています。OpenSpaceとは戦略的パートナーシップを締結し、建設現場における360度リアリティキャプチャ技術での協業も展開中です。

ソリューションの概要

WakeCapは堅牢なハードウェアとエンタープライズ向けソフトウェアを組み合わせた、現場向けリアルタイム監視プラットフォームを提供しています。ハードウェアはヘルメット型のウェアラブル端末となっており、主な機能には、作業員や資機材の動態追跡、予測安全アラート、進捗・生産性のダッシュボード表示により、現場の「見える化」と即時対応を支援します。導入実績は150百万労働時間をトラッキングし、アラムコ、NEOM、Qiddiya、King Salman Parkといった大型プロジェクトを含む、総額800億ドル規模の案件にも及んでいます。導入効果として、安全インシデントの91%削減、生産性25%向上、事故対応時間70%短縮という成果が報告されています。

経営陣

WakeCapのCEOかつ創業者であるHassan Albalawi(ハサン・アルバラウィ)博士は、現場のリアルタイムデータ活用による建設効率化・安全性向上を推進するリーダーです。COOはIshita Sood(イシタ・スード)氏であり、両氏が企業の中核を担っています。CEOのコメントとして「リアルタイム現場データに基づく迅速な現場制御能力がプロジェクト成功に不可欠である」との見解が示されています。

WakeCapのウェアラブル安全管理ソリューション

画像引用元:WakeCap公式ホームページ

ソリューションの詳細

WakeCapのハードウェアは、既存の安全ヘルメットに取り付けられる小型IoTデバイスと、現場に配置されるアンカーと呼ばれる通信ノードで構成されています。このヘルメット装着型センサーは、GPSや複雑な配線を必要とせず、低消費電力無線でメッシュネットワークを形成する仕組みを採用しています。作業員が普段どおりヘルメットを着用するだけで、位置情報や動態データが自動的に収集され、現場の安全と労務状況をリアルタイムで可視化することが可能になります。

WakeCapのセンサーは、耐久性を重視した長寿命バッテリーが特徴です。Nordic Semiconductor(ノルディックセミコンダクタ)とWirepas(ワイアパス)の技術により構築されたWakeCapシステムでは、ヘルメット装着型センサーは 1 年から 1.5 年以上のバッテリー寿命を実現しています。ネットワークノード(現場に設置されるアンカー)はさらに長く、8年以上のバッテリー寿命といった設計になっています。

ソフトウェア面では、WakeCapのクラウドベースのダッシュボードが中核を担います。センサーから集めたデータを統合し、作業員の行動履歴、労務時間、ゾーンごとの稼働状況をマップ形式やKPIで表示します。また、危険区域への侵入や異常な滞留、過剰労働の兆候が検知された場合には、即時にアラートを発することができます。これにより現場管理者は、事故リスクの未然防止、作業効率の改善、資材や労務の最適な配置など、従来は困難だったリアルタイムの意思決定を可能にしています。

価格

WakeCapの公式サイトや公開資料には、デバイスやソフトウェアの具体的な価格は明示されていません。提供形態がB2B向けのサブスクリプションモデルであるため、導入規模やプロジェクト内容によって料金が変動する仕組みです。建設現場の労務人数、センサー台数、クラウド利用量などに基づき見積もりが提示される形になっています。

WakeCapの活用事例

画像引用元:WakeCap公式ホームページ

WakeCapは、ベルギー系建設大手BesixによるUptown Towerプロジェクトに導入されました。78階建ての超高層ビル建設現場において、WakeCapのヘルメット装着型センサーとメッシュネットワークによりゾーン単位での労務時間を正確に把握し、時間過剰申告を96%削減し、生産性を32%向上させるなど、大きな成果を上げました。また、導入により投資回収率(ROI)が10.4倍に達したことも報告されています。

未来都市開発の一環であるOxagonでは、100,000人以上の作業員がWakeCapのセンサーによって追跡され、未稼働時間が68%から8%に低減。さらに、従業員1人あたり1日77サウジリヤルのコスト削減、プロジェクト全体で80億サウジリヤル超の価値創出という効果が確認されています。

まとめ

画像引用元:WakeCap公式ホームページ

いかがでしたか?WakeCapは2017年にサウジアラビアで創業し、現在はドバイを拠点にグローバル展開を進める建設テック企業です。ヘルメットに取り付ける小型IoTデバイスと現場に設置するアンカー、そしてクラウド上のダッシュボードを組み合わせることで、作業員や資材の動きをリアルタイムに可視化し、安全性と効率性を同時に高める点が特徴です。

WakeCapは、建設現場の「見えないリスク」をデータ化し、安全・効率・コスト削減を同時に実現する次世代プラットフォームです。今後は中東にとどまらず、世界各地の建設プロジェクトにおいて標準的な安全管理インフラとなる可能性を秘めています。