都市における廃棄物処理は、公衆衛生と生活環境の維持のための重要な事業です。特に建設過程や家屋の解体で排出される廃棄物は、C&D (Construction & Demolition)マテリアルと呼ばれ、コンクリート、木、アスファルト、石膏、金属、レンガ、ガラス、プラスティック、製品(ドア、窓、配管、電気)などが含まれます。やや古いデータながら2018年のアメリカにおけるC&Dマテリアルの年間排出量は6億トンで、うち4.6億トンが再利用や焼却による熱利用、1.4億トンが埋め立て処理されました。全世界では、2050年までに年間排出量が34億トンとなる見込みで、現状はその8割が埋め立て処理されています。
そうした中、近年の環境基準の高まりから、C&Dマテリアルの利活用への取り組みは加速しています。処理ロボット市場は2022年から2031年までに年平均成長率19.6%の成長が予測されており、3031年までに100億ドル(約1兆4200億円)へと成長することが見込まれています。そこで今回ご紹介するのは、廃棄物を画像認識して分別するリサイクルロボットを展開する、Waste Robotics Inc.(ウェイスト ロボティクス)です。一体どのような企業なのでしょうか。詳しくみていきましょう。
Waste Roboticsは廃棄物の種類を認識して分別するリサイクルロボットを展開する企業で、カナダのケベック州にて2016年に創業されました。最近では2023年7月にフランスのサステイナブル関連ベンチャーキャピタルのMirovaより1000万カナダドル(約10億7000万円)の資金調達を受けており、累計調達額を9800万米ドル(約139億円)としました。主要株主としてカナダのソーシャルビジネス向け投資企業Fondaction、トロント大学インキュベータのCreative Destruction Lab、カナダの政府系環境テック向けファンドSustainable Development Technology Canada、カナダのエンジェル投資企業V3 Ventureが名を連ねています。直近の投資は、ヨーロッパ諸国や北米における事業拡大に活用される見通しです。
Waste Roboticsが提供するのは、AIによる画像認識システムとFANUC社製のロボットアームを組み合わせた廃棄物分別ロボットです。この製品はベルトコンベア上を通過する混合廃棄物を認識し、ロボットアームの先端に備え付けられたグリッパーで対象物を掴んで分別します。ロボット一つにつき、1時間に9トンの廃棄物を処理することができ、C&Dマテリアルのほか一般家庭廃棄物にも対応。グリッパーは一度に20kgまでの廃棄物を保持できます。
廃棄物処理施設における人的労働力をロボットによって代替することは、安全性や処理能力の向上だけでなく、リサイクル効率の改善にもつながります。製品価格は非公表ですが、およそ18か月で投資額の回収が可能としており、これまでの試験で従来の分別処理と比べてリサイクル率を40%向上させたとしています。これまでにオセアニアやヨーロッパなど15の処理施設で展開しており、今後はヨーロッパを中心に販路拡大を進めていく予定です。
Waste Roboticsは、廃棄物の画像処理を行うAIビジョンの技術開発を行っています。画像処理には、ハイパースペクトルと呼ばれる技術が活用されています。これは分光技術を用いて波長ごとの輝度値を測定するもので、これに機械学習やAIを組み合わせて解析することで、廃棄物ごとの波長の特性を学習し、廃棄物の識別に必要な推論の精度を不断に向上させていくものです。この技術を用いることで廃棄物の組成が明らかになり、分別の純度を高めていくことができるのです。Waste Roboticsは、廃棄物処理ロボットにハイパースペクトル技術を導入しているのは同社が初めてとしています。
Waste Roboticsは分別プロセスに応じて4種類のグリッパーを開発しています。主にリサイクル可能な小型廃棄物に用いられる吸着型のグリッパー、主にC&Dマテリアルなど重量固形物に用いられる強力なグリッパー、プラスチック製品を針で刺して回収するもの、分別袋ごと回収するグリッパ-が用意されています。
これらのグリッパーはそれぞれの国や都市における廃棄物の特性に合わせて調整され、ラインごとにカスタマイズが可能です。
いかがでしたか?今回は廃棄物の分別プロセスを効率化するリサイクルロボットを展開する、Waste Roboticsをご紹介しました。Waste Roboticsが焦点をあてるのは、C&Dマテリアルなどのリサイクル可能な廃棄物のリサイクル率の向上です。
同社が拠点を置くカナダのケベック州における85箇所の分別センターでは、その分別作業のほとんどが人的労働力によって担われており、回収した廃棄物のうち、リサイクルされているのは35%に留まります。そこでWaste RoboticsはAIによるソリューションでこれらの数値を改善し、環境負荷を抑制していくことを目指しています。
同社の今後の展開が注目されます。