過去10年間でソーラーシステムのコストは90%低下しており、天然ガスや風力発電と競争力の上では同等、石炭や原子力といった従来型の発電技術よりも大幅に低コストであるとされます。そのためソーラーシステムは今日の太陽発電は卸売エネルギー生産源の中で最も低コストな供給源のひとつとなり、世界的な需要を生じさせています。フォーチュン社調べによると、全世界におけるソーラーシステム市場は2021年時点で1680億ドル、2022年に2350億ドル、2029年には3740億ドルと、CAGR(年平均成長率)にして6.9%の成長が予想されています(注)。
今回ご紹介するNEXTracker Inc.(ネクストラッカー)は太陽光を自動で追従するスマートトラッカーという仕組みを備えたソーラーシステムを開発運営しており、2023年2月には、時価総額にして63億8000万ドル(約9400億円)の大型IPOを果たしました。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
親会社のFlexは電子製品の国際的供給事業を行う企業で、医療分野から自動車、防衛、航空宇宙、家電など、5大陸30カ国にて幅広く事業を展開。グローバルサプライチェーンと豊富な資金力でNEXTrackerの事業拡大を支えています。Nextrackerの上場前のエクイティ調達額4760万ドル(約70億円)とユニコーンとしては少額です。
近年太陽光発電のコストは大幅に低下し、現在では公益事業規模の太陽光発電は、卸売エネルギー生産において最も低コストの供給源のひとつとなっています。さらに、国、産業、企業が二酸化炭素排出量を削減し、より積極的な脱炭素化目標を追求するにつれて、再生可能エネルギーへの需要は増加し続けています。さらに電気自動車の普及や、ビルや住宅の電化は、太陽エネルギーを含むエネルギー生産への需要増加を促進すると予想されています。
NEXTrackerのスマートトラッカー(太陽光自動追従システム)付きソーラーシステムは、スマートトラッカー部門において市場シェアの30%を過去7年間に渡って握り続け、現在の総発電容量は75ギガワットにのぼります(世界最大規模の原子力発電所である柏崎刈羽原発の総発電容量は8.2ギガワット)。現在30カ国、200以上の事業者に事業を展開しており、2022年度の収益は15億ドル(2210億円)となっています。
1980年代にソーラーシステムが開発された時期に設置された発電所の多くは、ソーラーパネルを一定の仰角で固定するもので、太陽光が適切な角度で照射する日中の数時間を除いて十分な発電容量を確保できません。一方、今日のソーラーシステムの多くは、ソーラーパネルの仰角を自動で変化させることができる仕組みを採用しており、太陽光を追従させる場合が増えています。この仕組みは「トラッカー」と呼ばれ、固定パネルに比べて最大25%多くのエネルギーを生成することができます。
現在、米国や中南米、オーストラリアなどの成熟市場だけでなく、中東やアフリカなどの発展途上市場でもソーラートラッカー技術の採用が拡大しており、2020年から2030年までの間にソーラーシステムの総発電容量は約682GW増えると予想されています。これは710億ドル(約10兆円)の市場が創出されることを意味します。
2つ目の課題が「用地」です。
ソーラーシステムの拡大に伴い、平準で安定した地形はますます少なくなっています。一方で山間や谷間にソーラーシステムを設置しようとすれば、地形の平準化のための土木工事などが必要となり、設置コストや管理コストが大幅に膨れ上がってしまいます。そこで検討されるのが、地形の自然な形に沿って設置可能で、各配列が独立して動作するシステムです。
2つ目の課題に対するソリューションが、起伏ある地盤においても通常通り制御可能な製品「NX Horizon-XTR」です。起伏のある地形に対処するための通常のアプローチは、トラッカー列を正確に直線に設計し、基礎杭の長さを長くするといった工夫がなされます。しかしこの方法ではシステムの規模が制限され、建設コストが増加します。
そこで「NX Horizon-XTR」は「直線的な列」という設計制約のパラダイムを打ち破り、南北に起伏のある地盤においてもそれぞれの列において太陽光に追従するようにシステムを改善。そのため基礎工事のコストを削減できるのです。