時価総額9400億円の大型IPOを達成!太陽光自動追従ソーラーシステムを展開するNEXTracker

画像引用元:NEXTracker Inc.公式ホームページ
海外事例
  • 全世界におけるソーラーシステム市場は2021年から2029年にかけて年平均6.9%の成長が見込まれる
  • 米国のNEXTrackerはソーラーシステムの弱点である発電効率と地形の問題を解決するソリューション「NX Horizon」を展開
  • 同社は2023年にNASDAQに上場し、時価総額は45億ドル(約9400億円)に達している

はじめに

画像引用元:NEXTracker Inc.公式ホームページ

大雨や猛暑(極寒)といった異常気象の増加が世界中で報告されるようになり、人々の地球温暖化への関心は年々高まっています。他方で民間部門では、地球温暖化に対する問題解決を目指すClimateTech(クライメートテック)と呼ばれる市場が活況を呈しており、とりわけソーラーシステム(太陽光発電)部門の伸びは顕著です。

過去10年間でソーラーシステムのコストは90%低下しており、天然ガスや風力発電と競争力の上では同等、石炭や原子力といった従来型の発電技術よりも大幅に低コストであるとされます。そのためソーラーシステムは今日の太陽発電は卸売エネルギー生産源の中で最も低コストな供給源のひとつとなり、世界的な需要を生じさせています。フォーチュン社調べによると、全世界におけるソーラーシステム市場は2021年時点で1680億ドル、2022年に2350億ドル、2029年には3740億ドルと、CAGR(年平均成長率)にして6.9%の成長が予想されています(注)。

今回ご紹介するNEXTracker Inc.(ネクストラッカー)は太陽光を自動で追従するスマートトラッカーという仕組みを備えたソーラーシステムを開発運営しており、2023年2月には、時価総額にして63億8000万ドル(約9400億円)の大型IPOを果たしました。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

注)Fortune Business Insight

太陽光発電をスマート化するNEXTrackerとは?


NEXTrackerは2013年に米国シリコンバレーで生まれた太陽光発電システムのユニコーン企業です。ソーラーシステム関連で30年以上の経験を持つベテラン、Daniel Shugar(ダニエル シュガー)氏の下で創業され、2015年にシンガポールの電子機器メーカーフレクストロニクス・インターナショナル(以下Flex)の傘下となってから急成長。2023年2月にNASDAQに上場を果たしました。

親会社のFlexは電子製品の国際的供給事業を行う企業で、医療分野から自動車、防衛、航空宇宙、家電など、5大陸30カ国にて幅広く事業を展開。グローバルサプライチェーンと豊富な資金力でNEXTrackerの事業拡大を支えています。Nextrackerの上場前のエクイティ調達額4760万ドル(約70億円)とユニコーンとしては少額です。

近年太陽光発電のコストは大幅に低下し、現在では公益事業規模の太陽光発電は、卸売エネルギー生産において最も低コストの供給源のひとつとなっています。さらに、国、産業、企業が二酸化炭素排出量を削減し、より積極的な脱炭素化目標を追求するにつれて、再生可能エネルギーへの需要は増加し続けています。さらに電気自動車の普及や、ビルや住宅の電化は、太陽エネルギーを含むエネルギー生産への需要増加を促進すると予想されています。

NEXTrackerのスマートトラッカー(太陽光自動追従システム)付きソーラーシステムは、スマートトラッカー部門において市場シェアの30%を過去7年間に渡って握り続け、現在の総発電容量は75ギガワットにのぼります(世界最大規模の原子力発電所である柏崎刈羽原発の総発電容量は8.2ギガワット)。現在30カ国、200以上の事業者に事業を展開しており、2022年度の収益は15億ドル(2210億円)となっています。

ソーラーシステムの課題と解決策

画像引用元:NEXTracker Inc.公式ホームページ

ソーラーシステムの課題の一つが「発電の効率化」です。

1980年代にソーラーシステムが開発された時期に設置された発電所の多くは、ソーラーパネルを一定の仰角で固定するもので、太陽光が適切な角度で照射する日中の数時間を除いて十分な発電容量を確保できません。一方、今日のソーラーシステムの多くは、ソーラーパネルの仰角を自動で変化させることができる仕組みを採用しており、太陽光を追従させる場合が増えています。この仕組みは「トラッカー」と呼ばれ、固定パネルに比べて最大25%多くのエネルギーを生成することができます。

現在、米国や中南米、オーストラリアなどの成熟市場だけでなく、中東やアフリカなどの発展途上市場でもソーラートラッカー技術の採用が拡大しており、2020年から2030年までの間にソーラーシステムの総発電容量は約682GW増えると予想されています。これは710億ドル(約10兆円)の市場が創出されることを意味します。

2つ目の課題が「用地」です。

ソーラーシステムの拡大に伴い、平準で安定した地形はますます少なくなっています。一方で山間や谷間にソーラーシステムを設置しようとすれば、地形の平準化のための土木工事などが必要となり、設置コストや管理コストが大幅に膨れ上がってしまいます。そこで検討されるのが、地形の自然な形に沿って設置可能で、各配列が独立して動作するシステムです。

スマートトラッカー付きソーラーシステムNX Horizon

画像引用元:NEXTracker Inc.公式ホームページ

1つ目の課題に対するNEXTrackerのソリューションは、低コストで導入可能なトラッカ-付きソーラーシステム「NX Horizon」です。電動モーターと制御システムのコストを大幅に抑え、また各列に対して独立の機構となっているため、故障耐性が強いとされます。このソリューションは従来型のトラッカーと比べてLCOE(建設費や維持費を含む発電コスト)において優位性があり、地形、気候、場所、その他の要因に応じて、最大9%に達すると謳われています。

2つ目の課題に対するソリューションが、起伏ある地盤においても通常通り制御可能な製品「NX Horizon-XTR」です。起伏のある地形に対処するための通常のアプローチは、トラッカー列を正確に直線に設計し、基礎杭の長さを長くするといった工夫がなされます。しかしこの方法ではシステムの規模が制限され、建設コストが増加します。

そこで「NX Horizon-XTR」は「直線的な列」という設計制約のパラダイムを打ち破り、南北に起伏のある地盤においてもそれぞれの列において太陽光に追従するようにシステムを改善。そのため基礎工事のコストを削減できるのです。

まとめ

画像引用元:NEXTracker Inc.公式ホームページ

いかがでしたか?今回はスマートトラッカー(太陽光自動追従機能)付きソーラーシステムを提供するNEXTrackerをご紹介しました。同社は2015年にシンガポールの電子機器メーカーFlexの傘下となって以降急成長し、2023年2月にはNASDAQに上場。時価総額にして63億8000万ドル(約9400億円)の大型IPOを達成しました。これはClimateTech(クライメートテック)に対する注目度の高さを示すとともに、コロナ禍による停滞を経験したアメリカ株式市場の「雪融け」を示すものともいえるでしょう。同社は今後どのように事業を展開していくのでしょうか。今後の動向が注目されます。