日本の住宅市場と比べ、アメリカの住宅市場では住宅流通戸数に占める既存(中古)住宅の流通戸数の割合が大きいことが特徴です。少し古いデータですが、2013年の住宅流通戸数に占める既存住宅流通戸数は、日本が約14.7%であるのに対し、アメリカでは83.1%となっており(注1)、アメリカでは住み替えの際にほとんどの場合、既存住宅が選択されているということが分かります。
そんなアメリカで活況を呈しているのが住宅リノベーション市場です。アメリカの住宅リノベーション市場は2026年度までに約1兆130億米ドル(約111兆5千億円)を越える見込みとなっています(注2)。その背景には、住宅を購入する際に買い手は改装の必要がない即入居可能な住宅を好む傾向にあり、住宅の売り手はより高い価格で住宅を販売するためにリノベーションを行う習慣が根付いているということや、加えて住み替えのサイクルが早いこと、省エネ化や住宅設備のIoT化(設備をインターネットに接続して制御する仕組み)を推進する政府の動きなどが要因として挙げられます。
住宅リノベーション市場の拡大に伴い必要とされるのが、リノベーションのための資金調達手段です。多くの場合、建設ローンや住宅担保ローンといった金融商品が活用されています。今回ご紹介するPlunk, Inc.(プランク、以下Plunk)は、AI(人工知能)を用いた住宅価格査定サービスと住宅リノベーションに特化したローンを提供しています。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
(注1)国土交通省 土地・建設産業局、住宅局(2019)「政策レビュー 既存住宅流通市場の活性化」
(注2) Graphical Research “North America Remodeling Market Size, By End-use, Industry Analysis Report, Regional Outlook, Growth Potential, Price Trend, Competitive Market Share & Forecast, 2020 – 2026”
Plunkは2019年にアメリカ合衆国ワシントン州にて創業された企業です。AI(人工知能)を活用して、住宅所有者によるリノベーションのための住宅価格査定や資金調達を支援するサービスを提供しています。
アーリーステージ(創業初期)向けの投資ファンドとしては世界最大級の規模を誇るPlug and Play Tech Center(プラグアンドプレイテックセンター)や、同じくアーリーステージ向け投資ファンドのUnlock Venture Partners(アンロックベンチャーパートナーズ)を筆頭株主として、これまでに650万ドル(約7億1500万円)を調達しています。
Plunkが提供するサービスは主に2種類あります。1つ目はAIを活用した住宅価格査定サービス、2つ目は住宅リノベーションに特化したローン(ホームリノベーションローン)です。両サービス共にPlunkが開発運営するモバイルアプリを通じて提供されており、モバイルアプリは2021年3月に、ホームリノベーションローンは2021年7月にサービスが開始されています。
これまでにも住所や住宅の外観、内装の画像から住宅価格を予測するサービスは存在しましたが、どのようなリノベーションが不動産の価値を高めるのかについては住宅所有者が判断せざるを得ませんでした。そのため、リノベーションを施すことで得られたはずの売却益が得られなかったり、不必要なリノベーションにより本来得られたはずの利益が得られないといった問題が起きていました。
そこでPlunkは、AIが最適なリノベーション計画を予測することで不動産の潜在価値を可視化するサービスを開発しました。ステップは非常に簡単です。まずモバイルアプリから住宅外装や内装の画像を撮影し、送信します。AIが画像を解析して住宅価格査定が完了します。たったこれだけで、住宅所有者は現在の住宅にどれほどの価値があり、リノベーションを施すことでどれほど価値を高めることができるのかについて、より正確でリアルタイムな住宅価値の予測を知ることができるようになりました。
例えば、キッチンのリノベーションにはどれほどの費用がかかり、どれほど住宅価格を上昇させるのかといった予測を得ることで、住宅所有者はリノベーションを実施すべきか否かについて確信を持って判断することができるようになるのです。
Plunkのホームリノベーションローンとは、小規模なアップデートから大規模なリフォームまでの住宅修繕に特化した特別目的ローンで、融資可能額は2万ドルから20万ドルです。このリフォームローンは、クレジットカードや個人向けローンに比べて低金利で、柔軟な返済期間、税制面での優遇措置、申請・承認プロセスの簡素化などのメリットがあります。
このローンは将来の住宅価値の最大75%までを担保とすることができ、ほとんどの場合支払った利息が税制上の控除の対象となります。また、従来の住宅ローンやHELOC(Home Equity Line of Credit)では、現在の家の価値を担保にして借りることとなりますが、Plunkのホームリノベーションローンでは、将来のリフォーム後の家の価値を担保にして借りることができるので、より多額の融資を得ることができます。
また、特に申請、承認のプロセスの簡潔さが特徴です。申し込み自体は5分ほどで完結し、承認までに要する期間は10日から15日ほどです。アプリから申し込みを行うため査定や書類作成は不要で、銀行やローン会社、住宅ローン会社に行くよりもはるかに早く資金調達ができるのです。
PlunkはAIを活用することで住宅の潜在価値を可視化し、最適なリノベーション計画を提案する住宅価格査定サービスを提供していました。また、住宅ローンも同時に手掛けることで、不動産売却を考えている顧客に不動産価格を高めるために必要なサービスをワンストップで提供しています。
住宅リノベーションに特化したローンを提供する企業として、PowerPay(パワーペイ)やRenoFi(レノフィ)、Realm(レルム)といった企業が注目を集めています。そのよう中でPlunkはどのように事業を展開していくのでしょうか。今後の展開が注目されます。