
- EV(電気自動車)充電インフラ市場は2025年の476億1000万ドルから2034年には4155億8000万ドルへと、年平均27%の成長が予測されているみ
- ニューヨークのEV充電インフラ企業3V Infrastructureは、1時間あたり10〜60マイル(約16〜96km)が充電可能な「レベル2」の充電設備に特化
- 3V Infrastructureは集合住宅やホテルの物件オーナーが初期投資ゼロで設備を導入できるビジネスモデルを提供
はじめに

画像引用元:3V Infrastructure公式ホームページ
EV(電気自動車)充電インフラ市場は、ここ数年で急速な成長と構造変化を遂げています。全世界の市場規模は2025年時点で476億1000万ドル(約6兆7000億円)のところ、2034年には4155億8000万ドル(約58兆円)へと、年平均27%の驚異的な成長が予測されています。この成長は、政府の補助金やEV普及の加速、そして消費者の充電体験に対する期待の高まりに支えられています。
主なトレンドとしては、技術革新によるEV本体やEV充電インフラの設置コストの低下、共同投資を通じた充電事業者、電力会社、自動車メーカーによる全国的なEV充電ネットワークの構築などが挙げられます。
EV充電インフラは、その充電効率により3つのレベルに分類されます。
レベル1 | 家庭用電圧を利用し、1時間あたり2〜6マイル(約3〜10km)程度の走行距離分を充電可能 |
レベル2 | 240Vの専用電圧を利用し、1時間あたり10〜60マイル(約16〜96km)程度の走行距離分を充電可能 |
レベル3 | 480V以上の高電圧直流を利用し、容量の80%を30分程度で充電可能 |
例えばレベル1の充電設備は長時間駐車が想定される自宅などに、レベル2の充電設備は一時滞在が想定されるレジャー施設などに、レベル3の充電設備は移動途中での利用が想定される高速道路のSA・PAやコンビニなどへの導入が考えられます。
ある試算では、アメリカでは2030年までのEV需要増加により、レベル2の充電設備が200万基、レベル3の充電設備が17.2万基必要になるとしています(Wissenergy)。そこで今回ご紹介するのは、集合住宅を主要顧客にレベル2のEV充電器の開発・設置を進める3V Infrastructure(スリーボルト インフラストラクチャー)です。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
3V Infrastructureとは?
3V Infrastructureは、2024年にアメリカのニューヨークで創業された企業で、レベル2のEV充電設備に特化して普及を進めています。2024年には環境関連投資に強いGreenbacker Capital Management(グリーンバッカーキャピタルマネジメント)より、同社初となる資金調達を実施、4000万ドルを取得しました。
現在同社が注力しているのは、集合住宅や一時滞在施設におけるレベル2のEV充電インフラ市場です。EV充電の80%が自宅で行われている一方で、現在アメリカの人口の約31%が居住する集合住宅におけるEV充電インフラの普及率は約5%です。EV充電インフラの不在はEV普及の課題となっているのです。
そこで3V Infrastructureは、集合住宅大手とのパートナーシップ締結を積極的に進めることで、この課題に取り組んでいます。2024年10月には大手不動産サービス会社のCamden Property Trust(カムデンプロパティトラスト)と提携、2025年2月には大手不動産サービス会社のCBREと提携、2025年3月には、大手投資運用会社のBridge Investment Group(ブリッジインベストメントグループ)との提携を発表しました。これらの企業の持つ集合住宅ポートフォリオ全体にEV充電インフラを導入を発表。全米に対象物件を広げています。
3V Infrastructureのビジネスモデル

画像引用元:3V Infrastructure公式ホームページ
3V Infrastructureは、EV充電設備の普及における最大の障壁である投資回収の不透明さを解消するビジネスモデルを構築しています。
同社は、EV充電器の設置から運用・保守までを一括で担い、施設側に初期投資リスクを負わせないスキームを提供。充電利用料や広告収入などの収益をもとに、設置費用を段階的に回収します。さらに、AIを活用した需要予測により最適な設置場所を特定し、高い稼働率を実現します。
物件オーナーはEV充電設備の利用に応じた電気代を払い戻しを受け取るのみ。その代わりに、EV充電設備の設置による駐車場占有率の向上や賃貸価格の上昇を通じて、物件価値を上げることができるのです。3V Infrastructureはこの「ゼロ初期投資」モデルにより、レベル2のEV充電インフラの拡大を目指しています。
2023年における欧州のEV充電設備数は75万台で、うち84.4%がレベル1および2のAC(交流)充電設備で、そのうち75%がレベル2となっています。市場の寡占化は北米ほど進んでおらず、Shell RechargeがACの5.3%、TeslaがDCの12.6%を占めます。
他方で北米のEV充電設備数は25万台で、うち73.3%がレベル1および2のAC(交流)充電設備、22.7%がレベル3のDC(直流)充電設備です。市場シェアはACの44.1%がChargingPointにより、DCの43.4%がTeslaによって占められています(Research and Markets 2024)。
3V Infrastractureは2024年の資金調達を受けて今後市場展開を進めていく見込みです。これまでEV充電設備の空白地帯となってきた賃貸不動産にターゲットを絞り、「ゼロ初期投資」モデルで差別化を図っています。
トランプ政権下でインフラ投資環境の不確実さ増す

画像引用元:3V Infrastructure公式ホームページ
2024年の創業と同時期に資金調達を実施した3V Infrastractureですが、トランプ政権の誕生によりEV充電設備への投資環境は不確実性を増しています。
これまでのバイデン政権下では、2021年の「インフラ投資雇用法(IIJA)」により、EV充電網の拡充が国家戦略として位置づけられていました。この法律に基づき、「国家EVインフラ(NEVI)プログラム」には50億ドルが割り当てられ、州ごとに高速道路沿いの充電ステーション整備が進められる予定でした。
しかし、2025年初頭の政権交代により、トランプ政権はNEVIプログラムの一時停止を指示し、連邦政府のEV充電器の運用停止を決定しました。既に契約が締結されている州のプロジェクトは継続されるものの、今後の動向は不明です(npr.org)。
3V Infrastructureは、これらの公的資金に頼らずに、民間物件オーナー向けのEV充電設備を展開していく予定です。しかし今後のEV市場はトランプ政権により足元を左右される可能性があり、同社の取り組みは今後も注視すべきといえるでしょう。
まとめ

画像引用元:hotelbusiness.com “3V Infrastructure launches for EV charging”
いかがでしたか?今回は集合住宅を主要顧客にレベル2の電気自動車EV充電器の開発・設置を進める3V Infrastructureをご紹介しました。EV普及の加速とともに、集合住宅やホテルなどへの充電インフラ整備需要は急速に高まっており、同社は不動産オーナー向けの「ゼロ初期投資」モデルでEV設備普及を目指しています。
一方で、トランプ政権によるインフラ投資プロジェクトへの資金拠出停止など、インフラ投資環境は不確実さを増しています。同社の今後の動向が注目されます。