- 全世界のClimate Tech(地球温暖化対策技術)市場は2023年の203.4億ドルから2033年までに1825.4億ドルへと、年平均24.5%で拡大
- フロリダ州マイアミのKind Designsは、サンゴやマングローブを模した3Dコンクリート防潮堤により沿岸部の防災と環境保全に取り組む
- Kind Designsは2023年9月より製品出荷を開始。今後は政府と税制策定など多角的に環境保全に取り組む
はじめに
地峡温暖化対策のための環境技術はClimate Tech(クライメート テック)と呼ばれ、技術革新と市場拡大が進んでいます。例えば全世界におけるClimate Tech市場の規模は、2023年の203.4億ドルから2033年までに1825.4億ドルへと、年平均24.5%で拡大していくことが予測されています(注1)。その中でもこれまでContech Magが扱ってこなかった分野に、海面上昇をめぐる災害対策があります。
地球温暖化による海面上昇はすでに現実的脅威となっており、日本沿岸では30年前に比べて8.7センチメートルの海面上昇を観測(注2)、世界的には2030年までに最大16センチメートル、2100年までに最大3メートルの海面上昇が見込まれています(注3)。マイアミ、ニューヨーク、サンフランシスコといったアメリカ合衆国沿岸部の都市では、今後2040年までに総延長8万キロメートルの防潮堤の置換を必要とし、これには4000億ドルのコストがかかると試算しています(注4)。海面上昇は災害対策における重要課題となっているのです。そこで今回ご紹介するのは、フロリダ州マイアミを拠点に、サンゴやマングローブを模した3Dコンクリート防潮堤により沿岸部の防災と環境保全に取り組むKind Designs(カインド デザインズ)です。いったいどのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
注1)Future Market Insight, Climate Tech Market Outlook (2023 to 2033)
注2)気象庁報道「2020年の日本沿岸の平均海面水位が過去最高を記録」
注3)Kind Designs
注4)Floodlist, USA – Coastal Communities Face $400 Billion in Seawall Costs by 2040 Says Study
Kind Designsとは
Kind Designsは、2020年にアメリカ合衆国フロリダ州マイアミにて創業されたスタートアップです。2023年にサンゴやマングローブを模した3Dコンクリート防潮堤、Living Seawalls™(リビング シーウォールズ)を発表しました。2023年6月にFlorida Venture Forumより4万ドルの研究資金を獲得。2023年9月にはシードラウンドで500万ドルの資金調達を実施しています。2023年9月時点での調達元は、政府系テックVCのGOVO Venture Partners、フロリダ拠点のVCであるFlorida Opportunity Fund、同じくフロリダ拠点の家族経営VC、M4 Investingで、2023年11月には個人投資家のMark Cuban氏と、アーリーステージ向けClimate Tech VCであるAnthropocene Venturesが後から参画しています。
事業展開以降の成長も加速しています。2023年9月のシード資金の調達を受けて、2023年11月には製品出荷を開始。出荷前にすでに400万ドル分の受注を受けており、3Dコンクリートプリントロボットを増設、2024年2月までに製造能力を3倍にする計画です。2023年11月には従業員が10人を超えました。主要なメンバーには、ウクライナ系移民で法学科出身のCEO、Anya Freeman(アニヤ フリーマン)氏のほか、リード構造エンジニアにLeandro Fernandez(リアンドロ フェルナンデス)氏、チーフオペレーティングオフィサーには、イーロンマスク氏のThe Boring Companyなどで主要役職を歴任したJeremy Morris(ジェレミー モリス)氏が名を連ねています。
サンゴやマングローブを模した防潮堤Living Seawalls™
Kind Designsが展開するLiving Seawalls™は、サンゴやマングローブを模して製造された防潮堤です。3Dコンクリートプリント技術を開発しているCyB(シーべ)と、製造及び原材料について業務提携しています。Living Seawalls™は、従来の平面状のコンクリート防潮堤とは異なり、塩化物のような有害物質の溶解による水質のアルカリ化を防止するために、独自の添加剤で強化した再生海洋プラスチック繊維を使用しています。また、表面をサンゴやマングローブの表面のような凹凸のあるデザインにすることで、微生物が住みつきやすく、生態系を破壊しないことが目指されています。またコンクリートにはまた製品には炭素固定機能や、水質や水温を測定するセンサーを組み込まれており、水質悪化を事前に予測して対策に役立てることができます。
価格は平方フィートあたり30ドルで、従来のコンクリート防潮堤と同等となっています。また3Dプリント技術により従来よりも迅速に防潮堤パネルを製造することが可能としています。
まとめ
いかがでしたか?今回はサンゴやマングローブを模した3Dコンクリート防潮堤により沿岸部の防災と環境保全に取り組むKind Designsをご紹介しました。Kind Designsは今後政府機関と協力し、各行政レベルで沿岸部の環境保全税制の策定に取り組むことで、沿岸部の建設業界にさらなるイノベーションを促進する計画です。この制度は、この制度は、太陽光発電や電気自動車の税額控除など、すでに実施されている優遇措置と同様のものです。
Kind Designsの防潮堤は、従来の防潮堤と同様の防災要件と、生態系保全にとっても有用なデザインを融合させており、沿岸地域社会にとってより費用対効果の高いソリューションとなっています。同社の今後の展開が注目されます。