Categories: 海外事例

前金不要で大家に?裏庭賃貸サービスのRent the backyard

  • Rent the backyardは、Yコンビネーターのアクセラレータープログラムの中で事業を開始したスタートアップ
  • このサービスは既存住宅の利用していないスペースに家を建て、収益化を図りたいユーザーに対しアプローチする
  • アメリカ西海岸で深刻化する家賃高騰・住宅不足を解決する一端を担うのではと期待されている

はじめに

サンフランシスコやシアトルなどのベイエリアでは住宅不足が深刻化しています。2019年7月にローンチした、サンフランシスコのスタートアップ企業Rent the backyard(レント ザ バックヤード)は、その問題解決に取り組んでいます。

本記事では、Rent the backyardがベイエリアの家賃高騰・住宅不足問題解決にどのように挑んでいるのか解説します。

Rent the backyardとは?

画像引用元:Rent the backyard 公式サイト

Rent the backyardは、Yコンビネーターのアクセラレータープログラムの中で事業を開始したスタートアップです。既存住宅の、利用していない裏庭などのスペースに家を建てて収益化を図りたいユーザーに対し、建設に至るまでのすべてを彼らはマネジメントします。

共同創業者のBrian Bakerman氏はカーネギーメロン大学にてコンピューター工学を専攻した後、MongoDB社でプロダクトマネジメントを、Apple社でソフトウェア開発を行っていました。CFOを務めるSpencer Burleigh氏もカーネギーメロン大学にて統計・機械学習を学んだ後に、UnitedHealth Group社にて機械学習に従事。その後、eコマース関連のビジネスを立ち上げた経験を持ちます。

気になるそのビジネスモデルは?

 

abc7newsで特集された際の映像

「Rent the backyard(=裏庭を賃貸する)」というサービス名の通り、裏庭物件に特化した賃貸サービスを提供しています。

同社は裏庭にスペースが余っている人に対し、アパートメントの建設を代行。物件のオーナーに必要なものは裏庭だけで、前金や面倒な手続きも一切不要となっています。

Rent the backyardはプレハブ住宅を提供するスタートアップNode(公式サイト)とパートナシップを組んでおり、プレハブ工法を用いて賃貸物件を建設。工期はたったの10日前後で済むため、家の敷地内で工事が行われることも大きな負担にはなりません。

さらに同社は、査定から行政への許可申請等も代行し、建設の監督、配電や配管処理もすべて行ってくれるというのだから驚きです。
また、竣工後もテナントの募集や選定、賃料の徴収・管理、さらには物件の修繕まで、諸々の煩雑な業務を引き続き代行。

なお、建設費用や諸々の作業の対価として物件オーナーが支払うのは、月々の賃料の50パーセント。支払いを完了すれば、レントハウスの所有権はオーナーに完全移行されます。

もちろん、物件のオーナーになるためには最低でも900sqft(約83平米・約25坪)の空き地を有していることが条件になります。これは賃料の高いエリアにおいて、一見すると高いハードルに思えるかもしれません。
しかし、共同創業者のBrian Bakerman氏は、とにかく多くの裏庭が「十分に活用されていない」とTechCrunchのインタビューで述べています。「ベイエリアのような場所では、人々は家にとんでもない金額を費やしている」と彼は付け加えました。

こういった「十分に活用されていない」土地に目を付け、賃料の高いエリアで単身者に向けた賃貸物件を比較的安価に貸し出すというのが、このRent the backyardの優れたアイデアです。
同社は、このモデルでほとんどの物件のオーナーが年に1万ドル以上の収益が得られると試算しています。

Rent the backyardに期待されること

高騰を続けるベイエリアの賃料

Rent the backyardが注目されることとなった背景として、現在のベイエリアでの家賃の高騰問題があげられます。

サンフランシスコやシアトルなど米・西海岸では家賃の高騰が続いています。2019年9月の調査では、サンフランシスコの1ベッドルームの家賃は月3550ドルでした。2009年から2015年の6年でベイエリアの家賃上昇率は9.7%を記録しており、家賃の高騰に伴って、住宅を失い、ホームレスが増加していることは社会問題となっています。

こういった問題を抱えるベイエリアでは、空いたスペースに賃貸できるような建物をつくり、運用したいと物件オーナーが考えていても、金銭的余裕がありませんでした。Rent the backyardは、そんな問題を解決できるのではと注目を浴びているのです。

期待が集まる“ADU”

またアメリカでは、所有している持ち家の付属住宅として「離れ」のような住宅を持つこと、その名もADU(Additional Dwelling Unit)という新しいカテゴリが生まれています。

通常ADUは敷地面積が3500sqft(約325平米/約98坪)以上であれば最大400sqft(約37平米/約11坪)まで、5000sqft(約464平米/約140坪)以上であれば800sqft(約74平米/約22坪)まで、新たに追加の部屋を増築することができます。

地価向上に伴い、賃貸物件不足が深刻化していることから、より多くの賃貸物件を確保することを目的に、ADUに関する法整備が進みました。もちろんADUは「母屋」と「離れ」といった使い方も可能ですが、それ以外にもADUを活用し、その一部で賃貸収入を得ることができるためにベイエリア全体でADUの人気が高まっています。

ADUの設計・製造・販売を行い、国内外から予約注文をうけるスタートアップ“Cover”についての記事はこちら
独自のビルシステム特許でわずか8時間でADUを建てることができるという、Amazon Alexa Fundも出資した“Plant Prefab”についての記事はこちら

自治体の支援も

また、ADU開発を積極的に促す自治体も多いようです。

カリフォルニア州サンノゼ市では、2016年におけるADUの申請はわずか16件でした。しかしその後、ADUに関する規制が緩和されたことにより、ADUの建設はより簡単で安価になりました。結果として、2018年にはサンノゼ市での申請件数は350件に急増したといいます。

しかし、サンノゼ市長のSam Liccardo氏は、ADUを2022年までに10万ユニット建設するという目標を2017年に掲げており、この目標数値と現実の申請件数には大きな乖離があります。そこで、面倒なADUの申請を請負い、資金面でもサポートをしてくれるRent the Backyardが、この乖離を埋めるであろうと期待されています。

まとめ

現在のところ、Rent the Backyardはベイエリア全体にサービスを提供していますが、申請の許可がおりるまでの時間が短いサンノゼなどの都市は、現時点で最も理想的な場所だとBrian Bakerman氏はいいます。

賃貸供給と需要の大きなギャップを埋めることにより、Rent the Backyardは地域の平均賃貸価格を引き下げるのに役立つ可能性があります。

市場からの期待が高いRent the Backyardが今後、どのように住宅不足の問題を解決していくのか、その動向に注目です。

Recent Posts

モジュール住宅を自動で建築するロボティクス企業AUAR

都市化とアフォーダブル・ハウス…

3週間 ago

AIが建材をサジェスト?建材調達プラットフォームのParspec

建設資材調達をDXするソフトウ…

3週間 ago

建設入札・調達業務をAIで効率化するスイスのScalera

建設調達・入札とは、建設プロジ…

3週間 ago

建築許認可の取得をAIで効率化するGreenLite

行政機能のデジタル化を民間が支…

3週間 ago

元Waymo技術者が挑む 建設機械を自動化するBedrock Robotics

自動運転建設機械市場は、202…

2か月 ago