カスタムハウスで住宅課題を解決する!Coverの描く建築設計の未来

海外事例

  • Cover Technologies Inc.(以下Cover)はデザイン性の高いカスタムハウスの提供を行うシードラウンドのスタートアップ
  • Coverが掲げる使命は「思慮深く設計されたよい家で暮らすことを誰にでも現実のものとすること」

はじめに

Cover は2014年に設立されたカスタムハウス(デザインを充実させたプレハブ住宅)の設計・製造を行っているスタートアップです。

カリフォルニアで生まれたCoverはBackyard Homeという、裏庭に建てる目的のプレハブ住宅の設計・製造・販売を行っています。
すでにシードラウンドで、160万ドルを含む2度の資金調達に成功しており、国内外から予約注文を受けているそうです。
この記事ではCover社のカスタムハウスと、その目指すビジョンについて取り上げます。

美しいカスタムハウスを提供する建設スタートアップCoverとは

Coverは2014年に設立され、高品質のカスタムハウスを設計・製造しているテクノロジー企業です。カスタムハウスとは「デザインを充実させたプレハブ住宅」のことで、Cover以外にも Amazon等が投資するPlant Prefab というスタートアップがカスタム住宅を提供しています。カスタムハウスは、デザイン性が高い上にコストが比較的抑えられるという点で住宅として近年大きな注目を集めています。

Coverはもともと普通の建築設計事務所であり、小規模のスタジオから大規模の邸宅に至るまで幅広い設計を手掛けていました。しかし、住宅を建てる工程において進捗の遅さや、コストの不確実性に対してのクライアントの不満が潜在的にあることを発見しました。

建設はゼネコンなど請負業者をはじめ現場の作業員など多数のステークホルダーが介在する分野です。現場の遅れや意思決定のタイムロスなど様々な要因が顧客の不満足につながります。そこで、Coverは既存の設計・許可・建設や材料、あらゆることを再構築することで真にクライアントが求める素晴らしい住宅の提供を目指しています。

その実現のために彼らが提供するのが「Custom Backyard Home」です。

こだわり抜かれたCustom Backyard Homeとは

Coverが扱うのは高品質なプレハブ住居です。アメリカの住宅に特徴的なバックヤード(裏庭)に建設することを念頭に作られており、Custom Backyard Homeと彼らは呼んでいます。

まず特筆すべきはプレハブとは思えない、風景と調和したデザインの美しさでしょう。写真を見ればわかる通り、まるで庭の中に美しい部屋があるような印象をうけます。

これは壁に代わって天井から床までの大きなガラス窓を用いており外部と内部をシームレスに接続しているためです。

大きなガラス窓は一般的に、騒音や遮熱性の問題が懸念されますが、Coverは注文設計された特殊な二重窓を使っており、騒音や汚染を軽減できているほか、空調によるエネルギーコストを最大40%節約可能だとしています。

他にも彼らは彼らの実現する「高品質な」住宅について以下の特徴を挙げています。

こだわりの照明システム

トラック式照明システム(レールを天井に設置し、スポットライトなどの照明器具を取り付けた照明システム)を採用しています。これにより自然採光にプラスして心地よい自然な照明を実現しています。また白熱電球に比べ、備え付けLEDは照明費の80%の節約に寄与します。

持続可能な設計

水冷式冷暖房システムと断熱材によって環境への影響を最小限に抑えながらエネルギー効率のいい住宅を実現しています。

精密に設計された部材

天井・床・壁はすべてプレファブリケーション(組み立てた部品で作る工法)で作られていますが、おさまりを意識して緻密に作られるために統一感のあるモダンな外観を演出します。

最高品質の電化製品

冷蔵庫、台所、浴室から蛇口に至るまで、最も良質で、最も長持ちする添加製品を選び抜いて使用しています。

いわゆるプレハブ住居の一種と言えど、ここまでこだわり抜かれていると住んでみたくなりますよね。

「裏庭の住宅」にニーズがあるワケ

日本の住宅では敷地面積の関係で、バックヤードが一般的ということもないので、なぜこうした住宅に需要があるのかイメージしづらいかと思います。

Coverは顧客の例として、Patsyというある女性ユーザーの例を紹介しています。

30年以上にわたってSan Fernando Valleyに住んでいるPatsyは、周囲の友人が特別養護老人ホームに行く中、今まで住んできた家と娘の家族とともに独立を保ちながら暮らして行きたいと望んでいました。そこで、庭にカスタムハウスをつくり、もともと住んでいた家を娘家族に譲るという行動を起こしました。ここで庭に建てられたのがCoverです。

これは日本でいうところの「隣居」の概念です。同一敷地内にもう一つの世帯を作ることで高齢者に対してよりよい住環境を築くことが可能です。

Coverの課題意識とアメリカの住環境の現状

1960年代にはアメリカにおける1世帯あたりの人数は平均3.3人でしたが、現在では2.5人に減少しています。そういった意味でアメリカの住宅は現在に適応していないと言えます。

アメリカで最も普及している住宅の形態は3ベッドルームが一般的であり住宅供給の40%を占めます。一方で世帯の28%は単身世帯であり、そのうち12%の世帯しかスタジオと寝室を保有していません。

この不均衡こそCoverが解決したい課題です。

また、こうしたBackyard Homeを作る上でも既存の建物から離れていい距離などの規制が存在するため、調べるのが大変なプロセスについても「Cover Planner Tool」と呼ばれるソフトウェアを開発することによって簡単にクライアントが検討することが出来るようにしています。

Coverの描くビジョン

まだシード期のCoverですが、彼らはどのようなビジョンを描いているのでしょうか?

現在、Coverは、価格として250~375$/feetでの提供を行っています。これはアメリカにおける高級住宅建築並みの価格です。

しかし一方で、彼らが目指すのは「誰にでも」暮らせる住居の実現です。そして前述の住宅における不均衡を解決することでもあります。

既存の住宅市場に、手ごろな価格で提供するために大幅なコストダウンが求められます。Coverは、得た収益を効率的な設計ソフトウェア・
建築システム・製造プロセスに再投資することでこの実現を図っていくとしています。その意味で彼らの挑戦は始まったばかりです。

まとめ

日本だと宅地面積の関係からこうしたCustum Backyard Homeは実現が難しそうですが、アメリカにおいては大変可能性を感じます。安価な住居の実現という目線だけではなく高齢者のニーズに応えるなど違う目線を持っている点が興味部会

高齢者のニーズに建築の視点から解決を試みるという視点は、大いに日本においても参考になるでしょう。今後のCover社の動向に注目です。