無人運転も可能な電動トラクターを展開するMonarch Tractor

画像引用元:Monarch Tractor公式ホームページ
海外事例
  • 完全電動・自律走行対応のスマートトラクター「MK‑V」を展開するMonarch Tractor(米国カリフォルニア州)が注目を集めている
  • 高出力・長時間稼働に加え、AIによる遠隔管理プラットフォーム「WingspanAI」で農作業を最適化
  • 補助金活用で実質負担は3万ドル台、次世代農機として環境性能と省力化を両立

はじめに

画像引用元:Monarch Tractor公式ホームページ

農業分野への次世代技術の導入は加速度的に進んでいます。特に注目されるのは、無人運転や電動技術です。例えば世界の電動トラクター市場は、2022年時点で1億3200万ドル(約191億円)規模のところ、2030年までに2億5000万ドル(約360億円)へと、年平均にして約13%の高成長が予測されています(Custom Markets Insight)。特に欧州では公道走行における環境規制への対応に迫られる農家が多く、電動・無人トラクターへのニーズが急速に高まっているのです。

そこで今回ご紹介するのは、無人運転も可能な農業用電動トラクターを展開するMonarch tractor(モナーク トラクター)をご紹介します。一体どのような企業なのでしょうか 。詳しくみていきましょう。

Monarch Tractorとは?


Monarch Tractor(リーガルネーム:Zimeno Inc.)は、2018年にアメリカ合衆国カリフォルニア州にて設立された、無人・電動トラクター製造のスタートアップ企業です。CEO兼共同創業者はインド出身のPraveen Penmetsa(パラヴィーン ペンメツァ)氏です。本社および研究開発拠点はカリフォルニア州のリバモアに位置し、製造はオハイオ州ロードスタウン、営業やサービスではインド(ハイデラバード)やシンガポールなども拠点に据えています。同社は2020年10月に愛知県豊橋市の武蔵精密工業株式会社に戦略的パートナーシップを締結。翌2021年1月には武蔵精密工業が追加出資を行い、両社はパワートレインやAI、自動運転技術などの分野で連携しています。

Monarchは2020年に初の製品「Founder Series MK‑V」(ファウンダーシリーズ エムケーヴィ)をリリースし、2021年にはシリーズBで約6,100万ドル(約88億4000万円)を調達。その後、2024年7月22日には欧州の環境系ファンドAstanor(アスタノア)と台湾のフォックスコンの共同運用ファンドであるHH-CTBC Partnershipの主導で、シリーズCで1億3,300万ドル(約205億円)を獲得し、累計調達額は2億2,000万ドル(約319億円)を超えました。シリーズCの参画企業としては、環境テック系スタートアップへの投資で知られるAt One Ventures(アット・ワン・ベンチャーズ)、ベルギーの成長資本ファンドであるPMV(ピーエムブイ)、そしてオランダを拠点とする社会貢献型投資ファンドのThe Welvaartsfonds(ウェルファーツファンズ)などが名を連ねています。

現在展開しているのは、100%電動トラクター「MK‑V」シリーズと、これを統合管理するAIプラットフォーム「WingspanAI(ウィングスパン エーアイ)」です。導入先は、ぶどう園、果樹園、ブルーベリー農園、乳製品牧場、公共緑地、空港の敷地管理など多岐にわたり、米国内12州に加え、インド・シンガポールにも展開、400台以上のMK‑Vが稼働しています。

無人運転も可能な電動トラクターMK‑V

画像引用元:Monarch Tractor公式ホームページ

Monarch Tractorの主力製品「MK-V」は、世界初の完全電動・自律走行型スマートトラクターとして開発されました。70馬力相当のピーク出力とゼロ・エミッションを両立し、農業現場における環境負荷の低減と省エネを実現しています。4輪駆動と高トルクによる高い牽引力を備えており、従来のディーゼル機と同等以上の作業性能を確保しています。フル充電時には最大14時間の稼働が可能で、80Aの急速充電器を使用すれば約6時間で充電が完了します。ただし、高負荷作業では稼働時間が4〜5時間程度に短縮される場合もあります。エクスポータブル電源機能として、最大5.6kWの外部機器向け電力供給にも対応しており、災害時や他用途での活用も期待されています。

価格は標準モデルで約88,999ドル(約1,300万円)と、同等の馬力帯のトラクターに比べて割高な印象を受けるかもしれませんが、カリフォルニア州のCOREプログラムをはじめとした州の補助金制度を活用すれば、実質負担額を3万ドル台前半まで抑えることが可能です。また、トラクターの主要部品であるバッテリーパックは交換式で、価格帯はおおよそ1万5,000〜3万ドルとされています。現時点では、無人走行そのものはカリフォルニア州では法的に認可されていませんが、法制度の整備が進めば、MK‑Vの無人運転機能が全面的に活用される可能性があります。将来的には、農繁期の深夜稼働や人手不足への対応といった面でも、省人化に大きく寄与することが見込まれます。

農業のスマート化をサポートするWingspanAI

画像引用元:Monarch Tractor公式ホームページ

「MK-V」の自律走行機能を支えるのが、Monarchが提供するSaaS型の運用管理プラットフォーム「WingspanAI」です。WingspanAIは、MK‑Vと連携することで、列トレース機能(Row Follow™)や完全無人走行モード(Autodrive™)を可能にし、複数台のトラクターを一括で遠隔管理することができます。運転データや作物の生育状況、地形情報などをリアルタイムに収集し、1日あたり最大240GBに及ぶ画像・センサーデータを自動で解析。作業履歴の可視化や効率的なスケジューリング、異常検知などにも対応しており、現場のオペレーション全体をスマート化する基盤として機能しています。
WingspanAIの導入によって、農業現場では単なる「農業のスマート化」が可能となります。たとえば収量予測や圃場ごとの肥料施用最適化、作物別の収穫時期判断といった、従来は熟練者の経験に頼っていた領域において、データに基づく意思決定が可能になります。また、複数の圃場(ほじょう)をまたいでトラクターを遠隔運用する事例も出てきており、機体1台の省力化にとどまらず、農業経営そのものの効率を底上げするツールとして期待が高まっています。

活用事例


最初にMK-Vを採用したのは、カリフォルニア州沿岸部の老舗ブドウ農家でした。排ガスや騒音の少ない電動トラクターは、果実の品質保持や環境負荷の低減といった点で歓迎されました。導入当初は半信半疑の声もあったものの、作物への煤の付着がなく、作業音が静かであることが評価され、徐々に他の農家にも広がっていきました。アメリカ最大級のビール供給会社であるConstellation Brands(コンステレーション ブランズ)や老舗ワイナリーのWente Vineyards(ウェンテ ヴィンヤーズ)といった大手も早い段階で採用を決めており、有機栽培やサステナブル農法を掲げる農家との親和性も高かったようです。

その後は、果樹園やブルーベリー農園、乳製品牧場などへの展開も進みました。たとえば、カリフォルニア州の酪農企業MVP Dairy(エムヴィピーダイアリー)では、MK-Vの乳業向けモデルが給餌作業を自律的に担っており、燃料費や作業負担の削減に貢献しています。遠隔から複数台を同時に運用する事例も増えており、安全装置やセンサーによる監視体制のもと、省人化と効率化が両立されつつあります。最近では空港や公共緑地といった農業以外の施設でも導入が始まっており、MK-Vの用途は農業機械の枠を超えて広がりを見せています。

まとめ

画像引用元:Monarch Tractor公式ホームページ

いかがでしたか?今回は、完全電動・自律走行機能と大規模データ分析機能を兼ね備えた電動トラクター「MK‑V」を展開するMonarch Tractorをご紹介しました。

同社は2024年に1億3,300万ドルのシリーズC資金調達に成功。この資金を活用してAI機能の強化、グローバル市場への展開、収益性向上の道筋づくりを進めていくとのことです。今後の農業機械市場へのインパクトとMonarchの展開には、大きな注目が集まります。