- 建設調達・入札とは、建設プロジェクトそのものやそれに必要な資材やサービスを選定し、契約する一連の業務のこと
- スイスのScaleraは公共・民間を問わず建設プロジェクトの入札・調達業務をAIで効率化するソリューションを提供している
- Scaleraは建設調達の案件情報やその仕様書を読み込み、建設企業の入札への意思決定を支援する
はじめに
画像引用元：Scalera公式ホームページ
建設入札・調達とは、建設プロジェクトそのものや、それに必要な工事や資材、設備、サービスを外部の企業から選定し、契約するための一連の業務のことです。建設業界では現場に入る前から膨大な事前業務が発生し、そのコアにあるのが入札（Bid/Tender）と調達（Procurement）のプロセスです。この分野ではDX（デジタルトランスフォーメーション）が進んでおり、とくに建設入札ソフトウェア市場は2024年時点で15億ドル（約2,256億円）のところ、2033年までに38億ドル（約5,716億円）へと、年平均10.5%で成長していくことが予想されています（Market Size and Trends 2025）。
そこで今回ご紹介するのは、スイスのチューリッヒで設立された建設入札・調達を効率化するソフトウェア企業Scalera（スカレラ）です。一体どのような企業なのでしょうか。詳しくみていきましょう。
Scaleraとは？
画像引用元：Scalera公式ホームページ
Scaleraは2023年にスイスのチューリッヒで設立された建設テック企業で、ETHチューリッヒ出身のLeonardo Reinhard（レオナルド・レインハード）氏、Sven Affeltranger（スヴァン・アフェルトレンジャー）氏、Federico Gossi（フェデリコ・ゴッシ）氏によって創業されました。創業メンバーはいずれも建設業界の調達フローに深く関わった経験を持ち、入札プロセスが過度に紙とPDFに依存し、担当者の読み込みと整理作業に多大なコストがかかっているという課題認識を共有していました。
Scaleraは、入札情報の読み取りと処理をAIで自動化することをテーマにし、公共・民間問わず、建設案件の調達前段階を効率化することを目指しています。2025年5月にはFirstminute CapitalとSpeedinvestを中心とした資金調達ラウンドで650万ドル（約9億7,300万円）を獲得し、欧州市場での展開を加速させています。特にヨーロッパの建設業界は、多言語、多規格、多形式の入札文書が飛び交う環境であり、Scaleraはその複雑性に対してAIで標準化レイヤーを提供できる企業として注目されています。
Scaleraのソリューション
画像引用元：Scalera公式ホームページ
Scaleraのプラットフォームは「AIコパイロット」と呼ばれる文書解析機能と「サプライヤー協調モジュール」によって構成されています。AIコパイロットは、ユーザーが入札説明書、仕様書、図面、PDFファイルをアップロードすると、自動的に文書を解析し、施工要素、数量、条件、工事範囲などをデータとして抽出します。
この工程は従来、積算担当者が長時間かけて人力で行っていた作業でした。Scaleraはさらに、抽出した要素を分類し、「どの作業が自社のスコープに該当するか」「外部サプライヤーに転送すべき項目は何か」といった判断補助まで提供します。
サプライヤー協調モジュールでは、選定された資材パッケージごとに提示可能な協力会社のリストが自動生成され、メール作成、問い合わせ送信、回答状態の追跡までが一つの画面で管理できます。これにより、情報収集やExcel集計に費やされていた時間が実質的に削減され、担当者は早い段階で見積シナリオの比較や入札戦略の検討に移行できます。
また、国ごとの入札分類コード（NPK、BKP、VOB、ÖNormなど）にも対応できることから、国際案件の多い企業にとっても導入メリットがある設計になっています。
Scaleraの活用事例
画像引用元：Scalera公式ホームページ
Scaleraはすでにスイス国内の建設企業での採用が進んでおり、ButtiやMartiTunnelAGといった企業が導入事例として公表されています。Buttiでは、公共案件の入札文書が数百ページに及ぶケースがあり、従来は入札判断自体に時間がかかっていましたが、Scaleraの解析機能を利用することで「参加価値がある案件かどうか」を初期段階で判断できるようになったとされています。
MartiTunnelAGでは、トンネル工事のような特殊分野においても、仕様や安全要件がAIによって分類され、協力会社に転送すべき項目と自社対応分が明確に整理されるため、入札前の社内調整プロセスが短縮されています。
また、Scaleraは公共入札プラットフォームともAPI連携を始めており、PDFの手動ダウンロードを経ず、案件情報を直接取得して解析にかけるケースも増えています。こうした活用は、入札参加数の増加ではなく、「勝ち筋のある案件に集中する」という入札戦略の転換にもつながっており、ユーザー企業は「入札さばき業務」から「選別と戦略」重視の体制へ移行しつつあります。
まとめ
画像引用元：Scalera公式ホームページ
Scaleraは、建設業界の中でも最も書類処理負担の大きい入札・調達業務をAIによって標準化することを目指す企業です。建設テックの多くが現場や施工フェーズに焦点を当てる中、Scaleraはあえて「案件が始まる前の段階」、つまり文書解析と意思決定の領域に重点を置いている点が特徴的です。仕様書の読み込み、数量抽出、サプライヤー対応という作業は、これまで自動化の対象として扱われてこなかった領域でしたが、同社はこの部分こそが意思決定スピードと案件収益性を左右する重要なポイントだと捉えています。
ScaleraのようなAI入札基盤が浸透すれば、建設企業は入札業務を作業としてではなく、データに基づく判断プロセスとして扱えるようになり、採算性の高い案件に絞った的確な参入戦略が可能になると考えられます。今後はAIコパイロット機能の精度向上や、欧州各国の入札基準への対応が拡張されることで、建設業界のフロントエンドオペレーションはさらに構造的な変化を迎えることになるでしょう。
